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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
33(side竹本)
なんでもいいがテーブルを挟んでしゃがみ込んだ挙げ句、ヤンキー座りのまま小首をかしげるのはやめてほしい。ちっとも笑っていない。メンチ切られるより怖い。
けれど言葉も消え去り硬直した俺と違い、酔いどれ御割は酒というエネルギーを得ているおかげで、無敵だ。
三初の謎の威圧感に怯むこともなくムッと唇を尖らせ、俺の背中に隠れようと大きな体を寄せてきた。おいやめろ。殺す気か。
「竹本、俺はいねぇって、言ってくれ。三初を、追い返せ」
「丸見えだから無駄にあがくのはやめてくれませんかね。こっちおいで」
「俺いねぇよ。いねぇから、行かね」
「は、なにモード?」
三初は突然、デザイン部の連中を振り切ってきたのだろう。
三初の背後で女の子たちがポカンとしているが、やっぱり俺には意味がわからない。
御割が俺の腕の布部分を緩く掴んで壁と俺の僅かな隙間に顔を押し込み、隠れたつもりになっていることも意味がわからない。
ただ三初が表情を変えずに「腕ごともいだらいいのかね……」と呟くことが恐ろしすぎて、空気に徹しているのだ。
「チッ。あのクソポメ、こういうこと先に言っとけよ。竹本先輩、ソレこっちに寄越してください。ただちに」
「嫌だ。竹本、俺はいねぇって言ってくれ。三初は、酷ぇやつなんだよ」
──空気に徹しているのだ、って言っただろうが馬鹿野郎どもめッ!
俺は脳内で泣きながら叫んだ。
薄ら笑いで手を差し出す三初と、すがるように拙い言葉で助けを求める御割。
究極の選択。もちろんどちらも選びたくない的な意味で、だ。俺がなにしたってんだよちくしょう辛い!
「酷ぇんだよ、隠してくれよ」
「うおうっ!?」
「…………」
俺に無視され三初に威圧された御割は、ついに俺の腋の下に頭を突っ込み、無理な体勢のまま畳の上に丸くなってモゾモゾと蠢いた。
そして俺の膝の上に顔を埋め、俺の手を自分の頭の上にベタンと乗せる。それで全力のかくれんぼ完了。
一見すると俺が御割にしゃぶらせているようで、よろしくない体勢である。
なにをとは言わないが、ナニを。
「なんでもするから、隠してくれ。……なぁ、頼むよ」
発熱した吐息がスラックス越しに股間を温めてゾワゾワする。
ごめん寝ポーズでなんでもする、なんて酔って熱の入った声で言われるとやはりいかがわしい。
密着する火照った御割の体がいっそういかがわしいことをしているようで、全くよろしくない。
なんでもするなら離れてくれ。
という心からの悲痛な叫びは、もちろん口から出せやしないのだ。
「なぁ」
「はひッ」
不意にドンッ! と重厚な音がした。
キューン、と耳をペタリと倒した犬のような様子で奇行に走る御割を途中から黙って見ていた三初、という犯人。
テーブルに足をつきやがった。行儀が悪い、なんて言っている暇はない。
飄々とした煙のような三初にあるまじき重低音に、俺は恐る恐ると様子を伺う。
「股間と顔面、どっちを蹴り潰されたいんですか?」
あぁ──こんなにも理解できない狂犬と暴君のいる素敵な職場、きっと他にはないだろう。
どちらも嫌だったので速やかに御割を引っ掴んで隣を明け渡した俺は、一時的にデザイン部に異動したいと猛烈に願い、泣きながら部屋の隅に逃げ出すのであった。
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