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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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◇ ◇ ◇
泥沼のような場所に落ちていた意識が、ドロドロと泥を纏ってどうにか浮上したような覚醒だった。
シャーと響くくぐもったシャワーの音と、湿った熱気。
重く濡れて火照った体は腕すら上げられない。服も着ていない。
俺の頬に張りついているものはなんだろう。水滴がついていて、固くて、これは……──風呂フタ?
「……ぁ……? なん、どこ……」
「ん? 先輩、起きたんですか」
未だハッキリとしない意識の中に反響する返事があって、俺はぼんやりと視線を走らせる。
グレーの床に黒い薄ボーダーの壁。足を伸ばしても余裕のある湯船と、オレンジ照明に、広々とした空間。
見覚えがあるこの光景は、恋人の部屋のバスルームじゃねぇか。
納得した俺は、傍でシャワーを浴びていた人物を見上げた。
見下しながらニンマリと笑みを浮かべる男は、俺の恋人──三初 要だ。
「さて、まだ酔ってんのかね」
どうやら俺は湯船に浸けられ、沈まないよう、風呂フタの上に突っ伏させられていたらしい。
三初はせせら笑い、小首を傾げる。
水も滴るいい男とは、こういうことを言うのだろう。
惜しげもなく晒された裸体は適度に逞しく鍛えられていて、全裸でも間抜けな気はしない。
締まってるけど俺よりは華奢な気がするのに、いつも抵抗しきれないのは力の使い方が上手いから。
どこを押さえれば動けなくなるのか。
どこを突けば崩れるのか。抜け目のないやつだ。
髪を洗っていたのか、三初はシャワーを止めてから顔を両手で拭う。
濃い色になったはちみつ色の髪をかきあげ、湯船のヘリに手をついた。
「俺のこと好きですか?」
「なに言ってんだ、いきなり。……いちいち聞くなよ、わかんだろ……」
「うん、酔い醒めてるな」
は? よくわかんねぇけど至近距離でふざけたことを言うなコノヤロウ。
力ない返事にふむと納得されても俺にはそれが理解できず、眉間にぎゅっとシワが寄る。
三初は「ちょっと退けてください」と足で俺の肩を押しやり、フタを開けるように指示して俺の隣に入り込んだ。
肩を並べて、ではなく謎に俺を背後から抱いて、カポーン。
体がどうにも重だるい俺はこれといって抵抗もアクションもできず、されるがままに三初の肩口に頭をもたれかからせる。
しばしの沈黙のあとだ。
「……いや、いや……テメェが酔ってんのか? おかしいだろこれぇ……」
突然の奇行に、俺は気だるい声で、されどしっかりとツッコミをいれた。
普段こうして風呂に入ることなんかなかったくせに。なにやってんだこの自由人が。
つか、なんで俺は三初の家で三初んちの風呂に入ってんだよ。
とりあえずゼッテェヤッただろ。
ケツに染みてんだよ湯がよォ……。
「あらら。潰れる前までは抱いてやっただけで喜んでたのに、つまんねーの」
腹に回された腕を叩く元気もないが口でどうにか物申すと、三初は濡れた俺の頭に顎を置き、ふーんと息を吐く。
「酔って……喜んで? なんでそんな……」
聞き捨てならないセリフに、俺は余計に眉間にシワを寄せて鋭い眼光で風呂フタを睨む。
そうして思考を過去に遡らせると、そういえば今日は新年会で自分が飲んだくれていた記憶を思い出した。
確か俺は二日酔いで酒の残った状態で新年会に行き、デザイン部に連れていかれた三初への腹いせに竹本を確保して隅でやけ酒をしたのだ。
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