誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
261 / 454
第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です

55



 いや、いやいやいや。
 急展開の予想外すぎて、コマンド選択肢が戦うと逃げるくらいしかねぇぞコラ。

 その選択肢なら、俺は戦うに決まってるけどな?
 スペックが違いすぎるわコノヤロウ。バグか? バグなのか?

 だって片や大和撫子。
 ほほえみのジャブ。高級スーツ装備。ラベンダー系のいい香り。

 片や寝起きで寝ぐせがついたまま頭痛と節々の痛みとケツの痛みを抱える、二十九歳休日の企業戦士。
 無言の威嚇。スウェット装備。石鹸の香り。

 ──どう考えても戦う前から負けてるだろうが……ッ!

 脳内では叫びつつ、一見はそれほど動じていない体でギロッ、とひと睨みした。


「……合ってっすよ。俺はアイツと付き合ってる、御割って言います。アイツは今いねぇんで、用なら俺が聞きますが。あと、人の家には勝手に入らないほうがいいと思うす」


 時間にすると数秒程度だろう。

 じっと見つめ合った俺は、警戒した眼光のままなるべく平静を装い、上掛けをどけてベッドに腰かけながら問いかけた。

 膝に腕を置き、下から上目遣いに睨む。

 明らかな警戒なのに、間森先輩は変わらない笑顔で「そうですか」と言った。


「フホウシンニュウじゃないですよ? 合鍵、貰ってますから。御割さんですね、私は間森と言います。要くんとは、小さい頃からの仲かな」

「合か、へ、へェ~……ッ?」

「うふふふ」


 一瞬ビクッ、と肩が跳ねる。
 合鍵持ってんのか。嘘だろオイ。

 ──ってこたぁ、コイツ真っ黒じゃねぇか……!

 なにが恋愛関係ありませんから、だ。三初コノヤロウ。愛人にマウント取られる嫁の気分だぜ。……いや誰が嫁だ。今のなし。

 もしかしたらライバルじゃないか? 程度の疑惑が濃厚になり、確信秒読みで、内心頭を抱えたい気分になる。

 クソ、間森、というか間男め。合鍵ってなんだよ。ンなもんただの先輩に渡すか?

 舐めんな。こちとら約二ヶ月前から部屋に出入りするようになった程度の、恋人だぞコラ。恋人なんだよ。俺がなッ!


「私が時折お泊りにくるので、それならと貰ったんですよ。優しいですよね、要くん」


 美しく色気のある上品な笑み。
 口元の黒子が妖艶に感じごまかされているように思うが、俺に対して攻撃ないし探りを入れているのはわかる。

 なので警戒程度の視線をギッ、とわかりやすい威嚇に変えた。


「あのね、この際だからはっきり言っておきますが。俺はアンタが三初に手ェ出すんじゃねぇかって、疑ってんですよ。アイツとどういう関係なんすか」

「あら、変な人ですねぇ。私は要くんともう十年以上の仲ですし、合鍵を貰うことになにかおかしなところでも? そもそも他人にとやかく言われる筋合いはありませんから」


 はっきりさせたくて問いただそうとした言葉は、含み笑いと肩を竦める大げさな動作で一蹴される。
 むしろ俺が部外者だとでも言いたげな言い方だ。明確な敵意を感じる。


「……喧嘩売ってんだな?」

「ふふふ。どうかな?」


 スッ……、と薄く開いた目の奥の黒曜石のような瞳が挑発的な色を持ち、俺を射抜いた。

 その瞬間、視線の間でバチッ! と火花が散ったように見える。

 ──いいぜ、その喧嘩買ってやる。


「ハッ。とやかくも言いたくなるし、言う権利あるに決まってんだろ」


 ゆるりと足に力を入れて立ち上がると、間森先輩は俺より小さいので、見下ろす形になった。

 そのまま臙脂のネクタイに手を絡め、グッと引き、顔を近づける。


「わかれよ。人の男に手ぇ出すんじゃねぇっつってんだ。……それともこのまま噛みつかれてぇか? あ?」


 言外に敵意を滲ませるお上品な笑顔の腹芸は不可能だ。

 俺には野蛮で余裕のない攻撃しかできないが、それでも明確に俺に張り合おうとするこいつに、奪えると思わせてはいけない。

 三初の恋人は俺だ。
 アイツは俺のものなのだ。




感想 137

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。