誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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閑話 嫉妬×監禁×自堕落=最低カレシ

02(side三初)



 三初は思わず、顧客との話し中に笑みを浮かべてしまった。

 一見不機嫌に見えないだけで、内部はどす黒い。幼馴染には邪悪だと言われる、ニンマリとした笑みだ。

 別名、有無を言わせない笑顔。

 なぜこうなるのかというと、御割は三初の料理を、あれほど褒めたことはないからである。

 またしても、三初が見たことない姿という初めてを奪われてしまった。

 ふぅ。今すぐ鳩尾に拳をいくらか叩き込めば、全て吐き出すだろうか。
 是非そうしてやりたいと思う。

 だが、それは我慢した。

 一応この企画は二人でこなした仕事なので、最後の最後でミソをつけるわけにはいかないだろう?

 まあ、優しさだ。

 一応言っておくが……もちろんこれは、御割のためではない。
 自分の評価のために決まっている。

 ただ三初を、唯一〝駄犬が駄犬なりにあくせく働いた結果を無に還す所業は、控えてやるか〟なんて殊勝な気分にさせられるのは、迂闊で鈍感でめんどうなあの人だけというだけで。

 故に三初は大目に見てやった。

 ──ま……控えるだけでしないとは言ってないけどね?

 見てやったのは──嬉しげにスウィーツに舌鼓を打っていた御割が、パティシエに腰を抱かれているのを目撃するまでは、だ。

 あのパティシエが男の顧客ばかり見ているのは、ふわっと理解していた。

 しかし三初は彼に興味がなかったので頭に留めておくくらいで、別段気にかけてはいない。

 それが一息に脳内方程式に当てはまったものだから、パティシエが男色家で、甘味で懐柔された甘ったるい御割はチョロさ満載だと、状況を把握する。

 顔も悪くないし、スタイルもイイ。

 おまけにタイアップ先となれば無碍にもしまいし、触られることに嫌悪を感じない無防備なカモだ。仕方ない。

 目をつけられるのは仕方ないとしても、御割は腰を抱かれつつ、まあいいかと軽視しているのを察した。

 危機感の欠如に、それを見せられた三初の〝嫉妬〟という感情も考えない、ふざけた所業である。

 気がついたら三初は御割を呼び出して適当な用事をでっちあげ、試食会の外へ追い出し、パティシエにケーキナイフを背後から滑らせ、脅しをかけていた。

 するりするりと白い背中に金属を滑らせ、あたかも鋭利な小型ナイフだと思わせて、小声で独り言を言う。

 いやはや。怖くはない。
 かわいい独り言だ。

 けれど青ざめたパティシエは御割が戻ってきても、もう半径三メートル以内に近づこうともしなかった。

 まったく。小物ならば初めから手を出さなければいいのに。

 三初のものに手を出そうと思うならば、本気で奪いに来なければ相手にもならない。

 本気で奪いに来ようが強めにたたきつぶすだけだから、オススメはしないけれども。

 ──とまあ、そんなわけで。

 長くなったが、不機嫌の理由はこういうことだった。

 要するに三初は自分のものに手垢をつけられ、更に自分相手より甘い態度を見せられ、嫉妬したのだ。

 クソガキ? 癇癪? 知ったこっちゃないね。気に食わないんだから、骨身に叩き込むのは当然ですけど?

 こういう男を恋人に選んだ、御割の自業自得である。
 顔面にケーキを投げつけなかっただけ寛大な措置だと思ってほしいくらいだ。



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