誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力

03



 そういう顔と言われたところで、生まれつきずっとこの顔だ。

 あまり気にしていなかったが、三初に言われると不思議なことに、俺はムカッ腹がたってきた。

 俺を好きになる女はたいてい俺のこの厳つい顔も好きだと言ってくれた強面好きばかりだったので、具体的には不明だが一応ちゃんと好きなくせに見てわかる顔に文句をつける三初のようなパターンは初めてでもある。

 さほど好みのタイプじゃねぇってのは知ってるけどよ。
 テメェの恋人はこの顔なんだから諦めろってんだクソイケメンが。

 ダカダカとキーボードを叩きながら、ムスッと不貞腐れる。

 彼氏に痩せろやら洒落っ気を出せやら色気が足らんやら言われる女の気持ちが、不本意ながらわかってしまった瞬間だ。


「いや、顔、ってか、んー……表情はむしろイイですけど、イイからムカつくんですよね」

「ふぁ?」


 そうして若干拗ねつつ画面と向き合っていると、突然顔に向かって伸びた手がむにゅ、と顎を掴んで頬を潰し、無理矢理三初のほうを向かされた。

 なにしやがんだコノヤロウ。イイのにムカつくってなんだバカヤロウ。
 褒めてんのか? 貶してんのか?


「はにゃふぇ」

「やです。ストレス解消してんの」


 サラッと戯言をほざかれたところで、俺のストレスは溜まっていくばかりである。
 まあこういう嫌がらせは悲しきかなまだ優しいほうで、慣れたものだ。

 頭突きをしようと頭を突き出すと、ひょいと避けられ、三初に抱きついたような感じになった。

 ケラケラ笑って抱き寄せられ、ぎゅっとホールド。
 なん、……オイコラ、なんだよ。職場だぞチクショウ。

 三初は一瞬困惑した俺の腰を抱いてスラックスの上から骨盤のあたりを揉みつつ、背中を尾てい骨からゾゾゾゾゾッ、と親指でなぞり上げる。


「ヒッ……!? な、ひぁ……ッ!?」

「おぉ~そういうオモチャっぽい」

「待ぁぁぁ……ッ!」


 当然散々三初の手管で感度があげられた俺の体はビクンッ! と筋肉をうねらせ、結果、俺は思いっきり背を仰け反らせて情けない悲鳴をあげてしまった。

 ヘナヘナと脱力してしがみつく俺を、ニマ、とすこぶる楽しそうに口角を吊り上げて三初は受け止める。

 小悪魔どころか大魔王。
 封印どころか滅殺希望。

 こ──この極悪サディストがァァァァ……ッ!


「ク、クソがコノヤロウ……ッ! 死ね、殺すッ! 今日という今日は殺すッ」

「お? いいんですか? そんなこと言うといつかはわかりませんけど確実にいつかの絶対に笑えない会議中、ノーモーションで先輩の耳の穴に指突っ込みますよ?」

「マジで性根が嫌がらせに特化してンのなテメェはッ!?」


 ワーワーギャーギャー。

 殴りかかろうとするが腰をホールドされて離れられず、まともに抵抗ができない。
 俺はただお前を殴りたいだけだってのに気まぐれ暴君めッ。

 チッと舌打ちすると、周囲の同僚が肩を震わせた。ビビんな。多少オーラと顔が厳つくなるくらいで別に三初以外に当たったりしねぇ。気にすることねぇだろ。

 これを言ったら一緒に飲みに来ていた竹本と山本が、同時に物言いたげな目で俺を見ていた。意味わからん。

 閑話休題。

 とまぁそんな具合で、大声はあまり出さないようにしているもの目立つ俺と三初がこうして騒ぐことは、前から割とよくあることだ。

 けれど新年会以降、周りがそれに注目することはなくなった。
 ビビられチラ見はされるものの、ツッコまれたり引かれたり注視されることはない。

 おかげで俺もあまり気にせず三初に食ってかかれる。

 三初が俺をいじめやすい環境だ。
 そんなのって──クソすぎるッ!

 こうしていつもと同じく冬賀と出山車がランチの誘いにやってくるまで、俺は三初にガウガウと吠えかかったのであった。




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