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第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力
07
──そんな会話をした翌週の金曜日の夜。
俺は男同士の知識をつけることで自分からも歩み寄るやら、間森マネージャーが侮りがたいとんでも経験値野郎の可能性やらを、すっかり忘れていた。
相変わらずマネージャーは三初にちょっかいを出しては俺に睨まれて、俺にちょっかいを出しては三初に中指を立てて足の小指を踏まれ、たいてい二日に一回は生き生きと宣伝企画課のオフィスに顔を出して仕事もしつつ遊んでもいた。
しかし三初も俺も特に靡くことはない。
だからこそ俺は、油断していたのかもしれない。
今日も今日とて気まぐれ暴君に首根っこを掴まれ三初の家へと仕事終わりに直行させられ、夕飯を共にし、ついでに風呂とベッドも共にしたあとのこと。
「ちょっとワンパターンだなぁ……」
「あ?」
俺の隣でベッドヘッドに背を預けてスマホのチェックをしていた三初が、不穏なつぶやきをしれっと俺にツイートしたのだ。
うとうとしつつも三初宅の猫、マルイを構っていた俺はキョトンと目を丸くした。
次いで首を傾げ、うつぶせになった俺の前で枕に乗っていたマルイから手を離す。
ナーウと鳴いたマルイはしったんと尾を揺らし、三初の膝の上に移動して丸くなった。
三初はそれを軽く一度なで、手を離してスマホを充電器に差す。
「いやね。先輩が呆れるくらいドマゾいから、ちょっと叩いたり焦らしたりするくらいのことには、慣れてきちゃってんなーと思いまして」
「それ以前に俺はマゾじゃねぇって話はどうなってんだ」
「戯言? あぁ、無駄吠え」
俺は無言のまま、すぐ隣にあった三初の腕にガリッと噛みついた。
唇を離すと湿った素肌に噛み跡がつき、俺は上目遣いで睨みつける。
もちろん口元はへの字だ。わかりやすく不満を顕にする優しい恋人サマである。
「なんかねぇ……基本は俺が不慣れなあんたを愉快に調教して、変化と言えば懲りない先輩のオイタをお仕置するくらいだからなぁ……結構慣れてきたよね、ぶっちゃけ。飽きがくる頃かな、と思うんですよ。日々のセックスに」
三初は特に動じず、しっかり歯型のついた自分の腕を見て、それをぺろりと舐めた。
マルイを膝の上から避けて、ベッドの中に潜り込む。
同じようにうつ伏せで肩を並べられたかと思うと、首に片腕を伸ばして体を抱き寄せられた。
距離を詰められ僅かに赤らんだ俺の耳に唇を寄せて、性悪な猫は熱い耳たぶにキスをする。
「痛くて気持ちいいならなんでもイイって節操のないマゾヒストをいじめても、つまんないじゃないですか」
「いッ!?」
そしてそのまま思いっきりガリッ! と噛みつかれ、血が滲むほどくっきりとした歯型を耳たぶに付けられてしまった。
「~~~ッてェ、な、なにすン、だ、コラッ!」
驚いた俺は痛みにビクンッと肩を震わせ、反射的に身を離して吠える。
普通報復とはいえガチ噛みするか?
先に罵倒したのはテメェだろうが!
噛まれた耳に触れるとやはり予想通り凹凸がついていて、少し湿った耳たぶが熟れた果実のように熱く腫れていた。
あんまりだ。
仕返しにしては酷すぎる。
「すぐ治るような傷しかつけらんねぇ縛りなくなりゃ、もうちょいいろいろできるんですけどね。あんた嫌がるでしょ?」
「あぁッ? 当たり前だろうが。ただでさえバトルアクションジャンルなのにスプラッタホラージャンルになったら会社で噂になるわ」
「それ俺はどうでもいいです。けど、つまんなくなんのが一番やだからなぁ……」
のんびりと呟かれ、俺は怒り由来でギュッと眉間にシワを寄せた。
なにがどうしてそうなったのかわからないが、とにかく痛みは痛みであって、気持ちいいとは繋がっていない。
マゾはつまらないと言われても、知ったこっちゃないに決まっている。
……というかつまらないってなんだオイ。反応か? 受身なのがか?
なんの気なしに言われたことだが、俺の脳裏を結構な割合で占めるもの。
別に好きで感じているわけじゃないから、すぐにグズグズになるのがチョロイからつまんねぇってんならどうしようもねぇぞ。
つか敏感なのがつまんねぇならそれもこれも元を辿ればテメェのせいじゃねぇか。
極悪サディストめ。股間爆破しろ。
イライラと文句は尽きないが、まぁなにが一番言いたいかって言うと──そもそも俺はマゾじゃねぇわッ! ってことである。
だが俺が唸ろうが睨もうがキレようがどこ吹く風のコイツは、離れた体を再度抱き寄せ、クククと喉を鳴らして笑った。
「ぉあ、っ」
「手始めに擬似レイプでもします? それかもう一回オフィスでしてもいいな。ケツにローター挿れてデートとかもアリ。まー……なにか面白いコト考えておきますから、ね」
「今後一切余計な気遣いは考えなくていいから、テメェはただ寝てろ。永遠に寝てろ。世間様と俺のために封印されてろッ!」
つまらないならおもしろおかしくしようと考えた三初はニンマリと笑み、なにやら恐ろしい計画を立てる。
耳の穴触んな。頭押さえつけて抱き抱えんな。息できねぇだろ。俺の視界がお前の鎖骨一色なんだよドチクショウがッ!
ガルル、と唸るのは、知ったこっちゃねぇという気分だ。
最凶の鬼畜サドにはいちいちマトモに付き合ってられない。
──そいや、冬賀が言ってたゲイバーは、どこだっけか……?
けれど布団の中で鬼畜野郎の足をゲシッ、と蹴りながら、なぜかトチ狂ったことを考えていた俺なのであった。
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