誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力

24



 ある程度に目をつぶれば、大人らしいシックな雰囲気の一般的なバーだ。

 黒、白、赤。エナメル質なダイナー系のインテリアに皮素材やメタリックのヴィンテージ感が映えて、意外とオシャレな空間だと思う。

 薄暗い赤を基調としたルームライトに照らされてあちこち目につく個性強めのオブジェはオシャレバーにはない代物だが、尖ったり縛ったり、パンクファッションだと思えばまぁイケる。無問題。

 店内はなかなか広くて、カウンターから少し離れた場所にソファーのあるテーブル席がいくつか。
 それから八畳程度のステージ。
 聞くと完全防音らしい。広々スナックだと思えば余裕で問題ない。

 店内は土曜の夜ということもあって複数人の客で賑わっていた。

 年齢層は様々だが、ほとんどがゲイかバイの男。もしくはトランスジェンダー。女もいないことはないけれど、それは誰かの連れだ。

 キスくらいなら普通なのか、時折よそのテーブルからそれらしい音がする。

 男のほうはパートナーはいたりいなかったりで女は恋人がいた。
 男女カップルかゲイなら誰でも入れるタイプの店だとか。

 誰かと関係を持つことだけを目的とした場所じゃないので、そういう目的ではないと明言すれば、無理に声をかけられたりはしなかった。民度いいな。

 そうして素人丸出しにキョロキョロしつつ入店してから、小一時間後。


「…………いや、男がつまんねぇとか言われて、はいそうですかって呑気にいられるかよッ。別にハッテン場に来てるわけでもそれ目的のやつと接触するわけでもねぇし……いろいろ知識つけて、俺がアイツを組み伏せてやらァ……ッ」


 冷えたグラスでウィスキーを飲み干し、マスターにおかわりを要求する。

 もちろん今日は潰れない程度にだ。
 でも少しは飲まなきゃやってらんねぇ。冷静になったら羞恥やら恐怖やらで反抗心が縮み上がっちまう。

 言っとくけど、マジで三初はぐうの音も出ない正論と持論と暴論で俺を言い負かすぜ。言い訳は聞かねぇんだ。


「やだぁ、そんな宿敵とのリベンジマッチの気迫で挑まなくても。言っちゃってよかったんじゃなぁい? シュウちゃんったらカレシに飽きられたら寂しいからって、お勉強しに来ちゃうんだもん。むしろ健気だわぁ~」


 俺がギリ……ッと歯噛みしながらやさぐれると、バーカウンターの向こう側でしなを作った男が、猫なで声でウフウフキャッキャとはしゃぐ。

 金髪の刈り上げショート。
 あごひげまである厳つい相貌で、身長は俺とどっこいかそれ以上。

 厚い胸板が俺的に目を引くガチムチマッチョの名前は──周馬しゅうば 夏賀なつが

 ここ、BAR・SELECTセレクトのマスターであり、例の後ろでのセックスにハマってオネエになった冬賀の従兄弟でもある。
 今はナーコで通っているらしい。

 曰く、元ノンケだが元々カッコイイ系女子が好きで、そこからマッチョの自分が勝とうと思えば勝てるはずのキラキライケメンに組み伏せられるとか燃える、と気づいてこうなったとかなんとか。まぁ素質があったのだろう。

 ナーコとは数日前、前に聞いた話を覚えていた俺から冬賀を通じて連絡を取り合うことになって以来の仲だ。

 場所も立場も適役で相手がいいって言うならやっぱ直接語って、意見聞いたほうがいいからよ。
 愚痴吐きも兼ねてるもんで、俺の事情は全部話した。

 おかげで文句が止まらねぇ。
 おかわりのウイスキーを飲み過ぎないようちびちびと嗜み、唇を尖らせる。


「うるせー俺ァ健気じゃねぇ。自立だ自立。アイツにゃ言っても俺の気なんざ一生わかりゃしねぇってんで、こっちが勝手にマウント取ってやるだけだぜ」

「でもシュウちゃん、カレシくん好みのオトコになりたいんでしょ? 理由はどうあれ結果的に鋭意努力中よ」

「知るか主に殺意あれだコラ。つか、別にアイツのためじゃねぇって言っただろ。俺が癪なんだよ。俺の尊厳のためだ。人のことマゾだとか決めつけやがって……そもそも寝たあとにワンパターンとか、言うか? 普通」


 協力してもらうのだからとあけすけに語った話だが、可愛げのある勘違いをされて、不貞腐れた気分になった。

 三初のなんの気ない発言に過敏に反応するフシがある俺は、アイツの発言に拗ねてもいる。

 ……いや、間違えた。
 怒ってもいる。これが正しい。断固正しい。完全無欠に激怒中だぜ。

 そもそもムーディな洋楽が流れる店内で男同士の和気あいあいと、たまにイチャイチャとした音声を聞きながらじゃあ、そりゃ唇も尖るってもんだ。

 どうせ三初のメンタル模様はいつも変わりなく晴れ渡っているのだろうが、俺のメンタル模様はアイツの挙動で濃霧ときどき落雷。火事にご注意。
 俺の唇が尖ってたって、三初はなんにも気にしねぇ。死にさらせ。

 テーブルに肘をつき指先を唇に挟んで、眉間にシワを寄せる。

 するとあからさまに不機嫌まっしぐらの俺を見ても然程ビビらずアララ~と流したナーコは、豪気な体をくねらせてムフフと微笑ましげに笑った。


「でぇもなにかプレイを考えてくれるって言ってたんでしょ~? ってことは、マゾはつまんないって言葉がシュウちゃんとのセックスに飽きたってことだとしても、別れる気はないってことよっ。ひねくれてるだけで愛されてるんじゃない? オンナのカ、ン」

「あ、愛……、いやだからこそッ! 俺といてつまんねぇンなら改善したほうがいいに決まってンだろッ」

「だからドSのカレシに合わせてSMプレイを学んでセックスを磨くってコトね。ほら結果的に鋭意努力中~。シュウちゃんも愛じゃない」

「チッ。やむを得ず妥協して、だ」

「顔真っ赤よ~」


 うるせぇ。ほっとけ。

 ──こちとらアイツのことが思ったより、見た感じより、かなり、断然、だいぶ好きになっちまってるって事実だけで、ベッドに潜り込んで丸くなりてェ気分なんだよ……ッ!

 酒のせいということにして赤くなった頬を擦りながらナーコを睨みつけると、流石に引きつった顔で「照れ隠しの威嚇がガチすぎるわね……」と眉間をグリグリされた。

 それもほっとけ。
 生まれつきだコノヤロウ。




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