誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力

39※



 俺は嫌だ、やめろ、撮るな、離せ、と思いつく限りの拒絶の言葉を次々並べ立てて必死に抵抗した。

 セックス自体ももちろん嫌だが、それよりもそうすることで三初に嫌われてしまうことのほうが嫌だった。

 気づくとどうしようもなかった。
 隠し事をして、こんなことになって、無様でマヌケなオチを笑われたり呆れられたり怒られたりすることが嫌だったはずが、他の男とヤッたことがバレたら、他人と共有することを嫌うアイツは俺に興味がなくなるんじゃないかと考えると、恐ろしくてたまらなくなった。

 ドクッドクッと心臓がうるさい。
 怒られるのは嫌で、どうでもいいと思われるのも嫌で、焦りが募る。

 例えマゾヒスティックなセックスが気持ちよくたって、物足りないと感じる理由は〝それを与える者が三初じゃないから〟だと、せっかく気がついたのに。


「クソッ、絶対ェ殺す……ッん、はッ……ヤったら殺す……ッぅあ、し……ッ舌、噛んででも、許さねぇ……ッ」


 抵抗と行為で散々体力が削れて息も絶え絶えのくせに性懲りもなくドスのきいた声で威嚇しながら、俺は心底自分を呪った。

 自分なりに考えた末の行動が空回りするのは毎度の性分だが選んだのは間違いなく自分で、恋人に秘密を作ると決めたツケが、順当に回ってきたのだろう。

 抵抗虚しくスイッチが入り、ピピ、と録画が始まった気配を感じる。


「ふー……死んでも操立てるって気概あるなら、どうして慣れてないくせに一人でこんなとこ来たの? バカじゃないの」

「っ……」

「ホイホイ男について行ったのもさぁ……お勉強の方向性、間違ってますよねぇ」

「ひゔっ……ぐ……っ」


 後ろに移動したマネージャーにズルッ、と乱暴にプラグを引き抜かれ、呻き声が漏れた。

 次いで冷たいものが尻の割れ目から背中、頭までにドロリと零れ、ラテックス製の手袋の独特な肌触りと共に塗り込まれる。これはたぶん、ローションだ。


「知識つけて実地訓練とは、優秀で結構。でもこういうお店に行くことぐらいは、前もって知らせておくべきだったと思いませんか? 仕事じゃないんだし、恋愛で実技やっちゃダメでしょ」

「ぁ……っひ、ん……っ」

「捕まったのはまー予想外として、さ。一線ってもっと手前にない? 言えばいいってもんじゃなくても言わないよりマシじゃない? 知らない間にゲイの巣窟に行かれたら、大多数の世の恋人さんは気が気じゃないんですよ? 当人の意思はさておきそういう目的で使う場所なんだからなにされるかわかんないのに。こっちがどれだけ気を揉んでも当事者が舐めてる。一方通行で、反吐が出る」


 その手つきがいやに俺の性感帯を心得ていて、熱を持った傷に冷感が沁み、心地いいのが悔しかった。

 これ以上痕にならないよう癒されてるのかと錯覚しそうになるが、どうせいたぶるための下地だ。酷い目にあう。


「そういうの、わかんない?」

「な……っ? にがっ……くっ……」

「例えば、やんちゃ盛りの幼児持ちの親、かな……人間、手の届く範囲には限度があるんですから。ね」


 謎かけのような話し方。
 ひねくれた言葉の真意が読めずに、混乱する。わかんねぇよ。なんなんだ?


「……優しくしてあげらんないわ」

「っふ、あ……っ」


 俺の体にローションを塗りこんだ手はそのまま背筋を抉り、プラグによって解れきった秘部へ三本の指が差し込まれた。

 肌が粟立ち、甘い吐息混じりの声で微かに喘いでしまう。それが止まらない。

 機械で痺れさせられた襞を、緩やかにヌチュ、ヌチュ、と粘着質な動きで指が解し、嫌でたまらないのに内部が収縮して、傲慢な指にヒクヒクと絡みついた。


「はぁ……っ、や…めろ……っ」


 悔しくて涙が出そうになる。

 激しく刺激されたところをとろ火で炙るような快感であやされるのが、俺の好きなやり方だからだ。

 言ってることもさっきと違う。

 俺をああだこうだと決めつけるのではなく、俺が悪い部分を事実の中で的確に指摘し、抵抗の声を削ぎ落とす。


「いっそそういう趣味なのかね。恋人じゃなくて他人に無理矢理オモチャと鞭でイかされて、気持ちよかったですか? それとも男に熟れて、生温いのじゃ物足りなくなった? もう飽きた?」

「ヒッ……ぐ、違うッ……違、ぁ、て……ッあ、嫌だッ……だ、黙れッ……」

「じゃあお望み通りにココで腐るほど中イキさせて、それを動画に撮りましょうか? そうしたら満足するの? ねぇ、望むとおりのことをなんでもしてあげますよ。だから俺で満足しな?」

「ぃやら……ッち、違う、ぁあ……ッ」

「なんで? 痛めつけてくれるなら、この体は誰でもいいんでしょ?」


 わからない。恐ろしいほどなだらかで落ち着いた口調と裏腹に苛立った手つきがなにを言いたいのか、わからない。


「やめ、いやだッ、ァッ、ンン…ッ」


 混乱と悔しさと快感にめちゃくちゃにされて、頭がこんがらがった。
 前立腺を狙いすましてノックされて、頭を振って悶える俺の思考はぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、まともから引き剥がされていく。ダメだ、もう無理だ。

 腰が揺れて内ももが痙攣し、反り返る屹立は濡れそぼっている。

 間森マネージャーオススメの馬鹿げた性能のプラグより、こんなただの指三本の責め方のほうが的確で耐え難い。


「ンあ……ッ、ぉッ……や……ッひ、あッ……ッぁ、あッ!」


 宣言通り、今度は出さないでイカされてしまいそうで、必死に意識を逸らそうとした。

 けれどバチンッ! とキツく鞭が振り下ろされ、俺は声を上げて仰け反り、痛みにしつけられていく。

 バチンッ、バチンッ、といたぶる鞭も、全然前と違う。一切容赦がない。


「いッ…ヒッ、ふッ…もッ……ゔッ」


 俺の反応をよく見ているのか、俺がイキそうになった瞬間、痛烈な痛みで絶頂を押し戻す。気持ちいいのに苦痛で脳がバグる。感じると痛むジレンマ。

 何度も何度も、繰り返し押し戻されて、頭がおかしくなりそうになる。

 すると最後には、バチンッ! と鞭打たれた瞬間、俺は「いぁぁ……っ」と情けない声をあげて達してしまった。




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