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第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力
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マネージャーの言うことは尤もで、俺は三初が知ったら怒るだろうとばかり思い込んでいたのだ。
三初が悲しむかもしれないとは、少しも考えていなかった。
俺が勝手をしたから怒る。
きっとお仕置きという名の折檻が待っていて、そうでなくてももしかしたら呆れられて嫌われてしまうかもしれない。
そんなふうにしか思わなかった。
でも、もっと根本的なことだ。
裏切りと感じて、悲しむこと。
知らない間に恋人が秘密を作って結果こんな目に遭っていたら、辛くならないわけがない。やるせないし、それこそ三初も泣きたくなるのかもしれない。
それを一切思いつきもしなかった俺は、酷い恋人なのだろう。
「三初……嫌だ……か、っ勘弁してくれ……俺が悪かった、誰にも言わねぇ……だから……っみはじめ……」
だけどもう酷くていい。恋人がどうなろうがアイツは傷つかない、と身勝手に決めつけた俺が悪い。
ちゃんと心底まで自覚したから、サドだのマゾだのも全部どうでもいいから、俺はただの情けなくてか弱いバカで愚かな普通の男なんだって許してくれ。
「頼む……マジでそれはシたくねぇ……っアイツ以外はダメなんだ、俺……これ以上バカ重ねたくねぇんだよ……っ」
ヒク、ヒク、と崩れ落ちそうな横隔膜を無様に痙攣させ、鼻をすすり、蚊の鳴くような声で懇願し続ける。
項垂れた頭のせいかどうしてもごまかせずに粒を形成した涙が一つ生まれると、目隠しに吸い取られ、瞼が湿る。
最悪だ。マネージャーの前でたった一粒でも泣いてしまった。見られていなくても自分自身は知っている。
悔しい。悔しい。でも辛い。
震える奥歯を噛み締める。
するといつの間に前にやってきたのか、手袋を外した素肌の手に、グッと顎を掴まれ上を向かせられた。
「……馬鹿だなぁ」
「っ……」
この期に及んで馬鹿にされる。
振りほどこうと頭を振るが、それは叶わない。濡れた頬を親指がなぞり、もう片方の手が湿った黒毛をポンポンと慰めた。
そうして一粒だけ涙を吸った俺の目隠しが、そっと外される。
「つまらないっていうのは、あんたと無縁の言葉ですよ。飽きられたら困るのはこっち。……でも、言葉足らずで勘違いさせたのは、俺なんですよね」
声は、やけにクリアに聞こえた。
オレンジライトが濡れた目に沁みてすぐには景色が脳へ届かなかったけれど、それでも、自分に触れている手が誰のものか、俺には当たり前にわかる。
「み、……みはじめ……?」
「はい」
いつもよりずっと柔らかい肯定と共に顎の下を指で擽られた途端──滲ませるに留めて我慢していた涙が、阻む布のない瞳から一筋頬を伝った。
俺は自分の落ち度を痛感して恥と罪悪感に震えていたのに、三初はいつも通り、ニンマリと笑ったからだ。
俺が泣くと、コイツはいつも現れた。
だから気が緩んで泣いてしまう。
ここにいるということは、俺を迎えに来てくれたということで。
「ぁ……ぅ、あ……お、俺……俺ぇ……っ」
それが馬鹿みたいに嬉しくて情けなくて安心して、どうしていいかわからずに、もう一筋涙が落ちた。
「え? や、なんで泣くの?」
「ごめん……っか……勝手して、悪かった……っでも違ぇから、浮気とか違う、俺、俺が……っひ……う……」
「そんなもん、ちゃんとわかってますよ。俺は怒ってないし悲しくもない、俺も傷ついたけどあんたも傷ついてる。泣くことないでしょ? 泣くことないです」
「悪ぃ……っごめ、うっ……」
「うん、許す。全部許します。あんたはなんにも悪くない。……だからほんと、ガチ泣きは勘弁して。なんかゾワゾワするんで」
正面にしゃがみ込んで両手で頬をすくう三初が、俺の目元に口付けて、ポロポロと零れる涙を一つずつ唇で拭う。
その声は僅かに上擦っていて、バツが悪そうにも聞こえた。
戸惑いか、困っているのか、たぶん言いたいことが山積みなのに俺が泣いて鬱陶しいんだろうよ。
これ以上迷惑をかけたくなくて、唇を噛んで、意地で涙を止める。
けれど泣き止めばようやく責められると思ったのに、三初はなにも言わず、黙って俺の頭を包むように抱きしめた。
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