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第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力
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気だるい体をヒョイと抱き抱えられ、俺は赤いシーツが敷かれたダブルのベッドに乗せられた。
横たわる手足が重だるい。
心身ともに疲労困憊のところ気が抜けたおかげで物を考える気力があまりなく、思考は半端に霞んでいる。
「俺、言葉足らずの天邪鬼なんで、お話しましょ?」
三初はベッドサイドから斜めに乗り上げ、靴を脱いで足先が出るくらいに腰掛けた。
中央に降ろされた俺はそれでは遠くて、黙って重い体に鞭打ち、のたのたと這いよって様子を伺う。
すると徐に片手を広げられたから、少し躊躇してからおずおずと腕をのばし、三初の腰に回して倒れ込んだ。
前のめりで、膝枕に近い状態だ。
本当は抱きつこうとしたのに力尽きてしまいこうなった。
「ずっとあの体勢で痺れたんですよ。酒飲んで暴れて吠えまくってたし、疲れもありますね」
「ん……三初……」
「うん。甘えていいよ。今日だけ特別に、俺はとびきり優しいからね」
「腕にちから、入んねぇ……」
「はいはい。俺がひっつくから大丈夫」
もっと近くに抱き寄せたいが力が入らずごねると、三初は俺の頭を片腕で抱いてくれた。
かなり恥ずかしくてガラじゃないはずなのに、一度安心感で意地を崩されるともううまく取り繕えない。
ここが落ち着くと感じている。瞼も重くなるし、動きたくなくなる。
いくらかの回線が麻痺した俺は考えることをやめ、疲れ果てた腕を三初に巻きつけたまま、せめて顔を伏せた。
「俺はね、先輩が好きで繋がれたんだと思ったわけです。先輩は人との距離感近めだしアホだからホイホイ丸め込まれて、自分から進んで脱いだと思った。……だって全然、その可能性ある人だと思ってるから」
伏せたまま、降り注ぐ日常を装った言葉たちに耳を傾けた。
「行動力も度胸もある。本当にSMに興味持ってお勉強しに行ったなら、実際ヤッてみるぐらいあんたは余裕で有り得る。そういう人間」
「…………」
「自分から言い出して行ったって聞いたんです。でも俺は聞いてない。ちゃんと釘さしたのに……だから先輩はマンネリ化してて、俺だけだと物足りないけど、俺に悪いからコソコソ出かけたと思った」
淡々と、三初はそう語る。
俺の目線で感じていたものとはまるで違うが、それも真実の景色の話だ。
俺は三初が俺に物足りなくなってそれを我慢していると思っていたのに、三初は俺の行動と人間を考えて、自分じゃ満足できなくなったのだと早とちりした。
今の冷静な姿からは信じられないが、三初も俺のように焦ったのだろうか。
「マンネリ解消って言えば聞こえはいいですが、俺がもしそれ見たならどう思うか、なんにもわかってないから……まぁ、つい虐めちゃったんですよね」
「でもあんたの性格思えばそんなことないってわかるはずですけど、うっかり」と付け足され、押さえつけた涙がまた滲みかけて、強く目を閉じた。
俺はやっぱり、他の男に恋人を弄ばれた三初の気持ちをわかっていない。
三初は俺が自分に秘密で出会いの場に行ったと知り、ちゃんと焦っていた。
そして他人の手でこんな姿になった俺を見つけて、冷静でいられないほど感情的になった。怒り、悲しんだ。
俺には三初の告白がそう訴えているように感じた。やっとわかったんだ。
「……ごめん。でも俺、ホントに、……嫌だって言ったんだぜ」
「あーね。先輩は騙されちゃって、約束破られたのね」
「やり方、教えてくれる、て……騙しやがった……っふ、本気だった、のに……っ」
「泣かんでって。俺それ好きくないんですけど。言わんこっちゃないなぁ……」
俺の言い訳を聞く三初は、俺が声を震わせるとすぐに窘める。
もう涙は流していないのに、目と鼻を真っ赤にして涙を我慢しているだけでも許せないらしい。甘やかすとは言われたが流石に過保護で、大人には優しくされるほど辛い時があるのだ。
「年上ってめんどくせ……全然頼らねぇわ。普通に聞いて、そゆこと。俺は言えないのが悪いとこだけど、あんたは聞けないのが悪いとこですよ」
「ぃ、つ」
ビシッ、と手痛いデコピンをお見舞いされたが言葉はやはり甘い気がして、俺はますます顔を伏せ悪かったと謝り反省モードに入ってしまう。
三初はそんな俺の頭に触れ、手つきだけは優しくなでて慰めた。
「ほら、ほら。よーしよし。いいこ。泣かないで。先輩ほら、俺優しいでしょ」
「っふ……泣いてねぇよ……」
「じゃあ涙止めて。よしよし。間森マネージャーは二度と手出しできないようにしておきますから、ね。もう大丈夫。よしよし、よーし。御割犬頑張ったね」
「犬じゃ、ねえ……っ俺は、お前だけで手一杯、なんだよ……」
「解読すると〝三初要だけで大満足〟ってことね。わかるわかる。俺もあんたの相手は俺一人で十分です。ちゃんとおんなじ。いいこいいこ。先輩はアホなりに頑張ったもんね」
「アホじゃ、ねぇわ……っ」
ズズ、と鼻をすする。ひたすらに褒める慰め方はずいぶん投げやりにも思えたが、三初を知る俺には、それがなけなしの優しさだとわかった。
お陰様で心が震え、トク、と鼓動する。らしくない気遣いが心地よく、プライドを捨てて甘えたくなってしまう。
三初が、好きだから。
「くそぉ……あいつ、酷ぇよ、痛ぇし……ぜ、絶対ぇ、あとで殴る……」
「はいはい。……ちょっとそのまま、ね」
「ぐ……」
ボソボソと呪詛を唱えていると、三初は俺の伏せた頭を押さえて、顔をあげられないようにした。
手首についた擦り傷をなぞる。
蚯蚓脹れが凹凸を生み、赤く腫れた背中に、冷たい手がゆるりと触れる。
「俺はあんたにあんま傷をつけないよう、してたのに……他人にルールを破られると、笑えるくらいムカつくんですよ」
相変わらず、そういう大事な感情でもなんでもないような色で話す。
くつろぎながらペットを愛でるように頭をなでられると、俺はマルイやナガイと同じく、自分が三初に飼われているのかと錯覚した。
でも俺は、ペットじゃ満足できない。
首輪がなくてもここを選ぶんだ。自分の意思で三初と付き合うと決めた。
だからこそ、与えられているものを対等に返したくて足掻いてしまう。
黙って頭を膝に擦りつけると、クス、と頭上で笑う音が聞こえた。
「ま、正直飽きるかなとか、飽きられるかなとか、いつかの変化を考えてはいましたけどね」
「っ……ん……」
「今、わかったわ。俺はもしかしたら未来で先輩に飽きるのかもしれないけど……飽きたとしても、絶対に手放すことはないですね」
やっぱり、日常的な言い方だ。
なんでもない平日の思いつきと同じ。
「だって、先輩は俺の恋人でしょ? ずーっと夢中で、つまんねぇなって笑いながら遊んであげますよ」
そう言った三初が頭を押えていた手を離したから、そっと顔を上げる。
ニンマリと人を食ったような笑みを浮かべている三初だが、顔を近づけ、唇にキスをされた。
「ん……」
「天邪鬼だけど、あんたへの気持ちに嘘は吐かない。覚えててください。……これでも、先輩は特別なんですよ」
──つまりお前はつまらない俺にすら夢中で、飽きたとしても笑って遊び続けるし、口で言うことは当てにならない天邪鬼な恋人だってことか。
「それって結局……飽きてねぇだろ」
理解して、咀嚼して。
ふらつく意識でこそばゆく呟くと、三初は楽しそうにクスクスと笑って、否定もせずに俺の頭を甘く愛でる。
俺は悪いことをしたのに、三初は本当に珍しくずっと優しくしてくれたので、気がつけば俺の意識は微睡みの奥の夢の中へと落ちていたのだ。
─────────────
マルイ、ナガイ、オワリ←NEW!
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