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第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力
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──翌日。
パチ、と目を開く。
昨日の記憶が蘇った俺は、反射的にガバリと勢いよく起き上がった。
けれどすぐに頭痛と目眩がして、体の倦怠感に従い、元通りに枕へと倒れ込んだ。
(クソ、頭いてぇ……酒飲んだのと泣いたからか……アイツマジで殺す……)
ボヤリとした視界には記憶通りのSMルームが朝日に照らされていて、ここがどこだかを鮮明に思い出させる。
殺意はあるが現実逃避をかねてもう少しだけ眠ろう、と枕に頬を擦り寄せると、頭にベシッと手が置かれた。
「った……な、ん……?」
「二度寝厳禁。足痛いんでさっさと起きてください」
「へ……?」
頭を叩いた犯人は昨日泣きついた彼氏こと三初さんちの要くんであり、やつは俺の枕でもあったらしい。
どうして俺の枕が三初なのか、については、昨日の段階でわかっている。
おそらくあのまま眠ったのだろう。
決まりが悪くなった俺はのろのろと体を起こし、丸くなって逆方向へころんと転がった。戦略的撤退ともいう。
そうして丸くなった俺を再度ベシッ、と叩いたあと、三初は俺が眠っている間に起こったことを含め、いろいろと一連の流れを説明し始める。
三初から見た、昨日の経緯だ。
三初は俺が日曜日の連絡をしないものだから、交通手段をなくしたか、なにかトラブルがあったのだと思い、迎えがいるかメッセージを送ったらしい。
これはたぶん、間森マネージャーが来たせいで確認できなかったあのメッセージだろう。
俺は丸くなったまま言い訳をするのはあれなので、布団を被ってチマキのように包まれつつ自分の経緯を説明する。
呆れた三初は俺のスマホを弄ってクラウド監視ツールをインストールし、無言で小首を傾げた。
俺は黙って頷く。
つまるところママが子どもに使う見守り安心サービスなわけなので、かなり渋面だったが、実際三初が来なければ俺は間森マネージャーにハメ撮りを撮られていたのだ。逆らうことはできない。
……昨日はめちゃくちゃ暴君判定甘かったのに、マジで昨日限定だったのかよ。
いやまぁ、俺も三初以外の前ではあんなホイホイ泣かねぇけども。
思い出したら死にたくなってきた。
三十路目前の社会人男が年下の恋人の登場に甘えきってぐずるなんて、視界の暴力でしかない。昔の俺が見たら反射で狙撃するレベルだろう。間違いねぇ。
俺はチマキの皮の中に埋まって羞恥心から思い出し悶絶したが、三初は何も言わず鼻で笑った。コノヤロウ。
その後、ついでになにを思ったか、スケジュール共有アプリもインストールされた。
いわゆるカップル向けのあれだ。
曰く「いちいち聞くの面倒臭いし外出予定は共有しましょ。もちろん俺は誰とどこに行こうが止めませんが……隠し事や虚偽申告は、疑惑だろうと次は本気でこの部屋の器具全部使いますから」ということらしい。
いや、どういうことらしいんだよ。疑惑は晴らせ。ゴホン。まあいいか。
とにかく俺は三初に外出の予定を申告し、いざと言う時はGPSで現在地すら把握されるということである。
三初はメッセージを既読にしない俺を案じて、冬賀から居場所を聞き出し、直接迎えにやって来た。
しかし店内に俺の姿が見当たらず、マスターであるナーコに確認を取ったところだいたいの流れを掴んだので事情を説明し、情と顔に訴えつつ部屋に乗り込む権利をゲット。
なお後始末を見越して監視カメラの確認許可もゲット済み。
そしていざ乗り込もうとしたタイミングで首尾よく間森マネージャーが現れたものだから、廊下で奇襲をかけて昏倒させて隣の病室ルームに引き込み、結束バンドでガチ拘束。ちゃんとナーコに料金を支払って借りたのだとか。
で、マネージャーの変声マスクを奪い恥ずかしい格好にさせて免許証と共に写真を撮ってから、三初は鼻にカテーテルを突っ込んで即刻叩き起した。
間森マネージャーのやり口は詐欺とも言えるだいぶのグレーだ。
しかも俺を三初の恋人と知っていて暴挙に出たため、故意満載。
出るところに出られると自分の悪行もバレるし、テンションが上がって俺を虐めすぎたので分が悪過ぎる。その上相手は三初となると勝ち目は無い。
というわけで俺とのやり取りを即座に全てゲロッて許しを乞うてきたが、その顔は恍惚としていたらしい。
念願の三初のガチギレと拘束のコンボが相当股間にキたのだろう。
シンプル気持ち悪いなこの上司。
三初は普通に腹パンしたそうだ。
靴の先を思いっきりめり込ませたと言っていた。
あとついでに呻くマネージャーへ追い討ちの顔面膝蹴りからの金蹴りを食らわせた後、背中を満遍なく踏みつけ、両肩の関節を外して放置したと言っていた。
ついでのレベルじゃない。
朝ハメておいたとしれっと告げられる。おうだからなんだよ。「じゃあ安心だな!」とはなんねぇぞコラ。
ンな手際よく結束バンド使いこなして死体蹴りした挙句両肩脱臼させて一晩放置する輩がどの面下げてノーマルだよふざけんなテメェやっぱゴリッゴリのドSじゃねぇかッ!
ゴホン。閑話休題。
まぁあとは簡単だ。
マスクを被りマネージャーのフリをして俺に会い、俺の態度から感情と快感の是非を見極めつつ事の真偽を問いただし、ついでに憂さを晴らす。
だから、ついでのレベルが苛烈なんだよコノヤロウ。
言うてちょっと感情的になっちまったんだろ? うっかりやり過ぎたくせに。コイツは人の精神を抉る言葉の吐き方がうますぎるんだ。そら泣くわ。
そのあとは俺も知るとおり。
俺が眠ると濡れタオルで俺の体を綺麗に拭い、傷の治療を終えてから、監視カメラを確認して間森マネージャーを脅す証拠を手に入れた。
いや知るとおりじゃねぇ。
つかここで生きてくんのかよナーコに貰ったカメラの確認許可。しかも手に入れたのかよ証拠テープ。
おかげで間森マネージャーは三初を本気で怒らせることはできなくなった。
俺に手出しもできない。
そういう約束で誓約書まで書かせたらしい。暴君すぎて言葉も出ねぇな。
こうして、ことは一件落着。
「はー……疲れた。俺が撒いた種なんでできるだけ根絶やしにしましたが、金輪際男の〝なにもしないから〟は信じないでください」
結果、ジト目で視線をやる三初に頭が上がらなくなった俺である。
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