誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
327 / 454
第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力

46

しおりを挟む



「よし、三初ェッ」


 ブツブツと考えをまとめながら歩いた俺は、ベッドに腰掛ける三初の前に到着し、ガオウッ! と気迫で食いかかった。

 ちなみに頭痛に響くと困るので勢いだけで、声はやや大きい程度である。


「なんですか。牙むき出しのシェパードみたいな顔して」


 膝に腕を置いてだらりと座っていた三初は、めんどくさそうに顔を上げて仁王立ちの俺を見つめた。

 その顔を潰さないようにギュッと抱きしめ、頭をなでる。
 それはもう、ワサワサとなでる。


「なにしてんの?」

「オラ。どこにでも傷つけていいから、お前、俺をイジメろよ」

「なに言ってんの?」


 遠慮すんな、と言うと、三初は俺の背中を指で一気になぞり上げた。

 俺はぞぞぞぞ……っ、と背筋がうねり、飛び上がって三初を解放する。
 なにしやがんだコノヤロウ。


「これでどうやって飽きればいいんだかね……」

「ク、クソ、俺が素面で正面から抱きつくっつぅのは、結構な心構えがいったってのに……ッ」

「やーすでにイタイ人追加で虐めるとか、可哀想すぎますよ。ほら頭も可哀想。社会的に傷だらけですよね。流石の俺もこれ以上傷つけられないわー」

「誰がメンタル抉れっつったコラ」


 ベショ、と床に手をつき悔しさに打ち震えるも粗雑な返答だけが投げられ、へそが曲がって座り込んだ。

 ちくしょう。いつまで経っても俺の思い通りにならない野郎め。

 ──そんな俺の頭に、不意になにかがパチ、パチ、と取り付けられた。


「ん?」


 髪が引っ張られたのでなにかに髪が挟まれたらしい。落ちてこないところを思うと、割としっかりめについている。

 不思議がっていると、続いて首にキュッとひも状の物を通され、冷てぇなとか思っているうちに装着完了。

 手で触れてみると、それは紛うことなき首輪だということに気づいた。

 無理に引っ張ってよく見てみる。
 黒いそれは、いつか三初に監禁ごっこをされた時につけられたものより簡素な作りだが、紛うことなき首輪である。

 頭に手を伸ばすと柔らかな手触りの耳っぽいなにかが立っていて、クリップで留められていた。

 俺はウゲ、とくしゃくしゃな顔で三初を見るが、三初はニマ、と笑うだけだ。


「先輩、朝メシ奢ってくれるんですよね」

「おう。でもこりゃ、なんのマネだよ」

「シェパード系の犬のつけ耳と、SM用のオモチャの首輪。マスターにしばらく貸してって言ったらオッケーくれたんで、それ着けたままメシ行きましょ」


 どうしてそうなったのか、意味がわからない。わかりたくもない。

 引きつった口角をヒクつかせて首を横に振るが、三初は手を差し出して、一言。


「お手」

「…………」


 眉間のシワが深まり、顔色は青ざめ、青筋はくっきりと浮かぶ。

 けれど昨日の今日で逆らえない俺は、渋々手を上げて、一瞬だけ手を置いて素早く引っ込める。

 が、その目論見はバレバレだったようで、脅威の反射神経でもって捕獲されてしまった。マズイ。非常にマズイ。

 グイッ、と手を引かれて立ち上がらせられ、自分より少し低い三初の後頭部を、焦燥に塗れた視線で突き刺す。


「なぁ三初。一応聞くけど、これ取るよな? ここ出る前に取るんだよな?」

「取ると思います?」

「…………あの、ちょっと殴っていいから、やめようって気は」

「さースマホ、財布、キーケース、カメラのデータ。忘れ物なしね。駅前の喫茶店のモーニングがいいかな」

「そ、そんな人通りあるとこ行くのかよッ」

「日曜日ですからねぇ」

「いや俺今年でめでたく三十路……っま、マジで行くのか……!?」


 ガチャ、とドアを開いた三初が、振り返って俺を引き寄せ、耳にキスをした。

 驚いて、ビク! と肩がはねる。
 確かそっちの耳は、間森マネージャーにキスされたほうだ。


「別に、傷なんかつけなくても好き勝手アホマゾ先輩をイジメられるんですよ。俺はね」

「っん、……っな、殴られたほうが何倍もマシだろクソサド野郎がぁ……っ」


 ──こうして。

 聞く耳持たない三初に連れ回され、俺は結局この格好のまま花見に行くことになり、一日中連れ回されたことをお知らせしておく。

 そして夜をどう過ごしたかについての詳細は、墓場まで持っていく所存だ。

 いいか? 人は四つん這いになろうが犬の鳴き真似だけじゃあ意思疎通なんざできねぇんだよ……ッ!


 第七話 了




しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

BL短編まとめ(現) ①

よしゆき
BL
BL短編まとめ。 冒頭にあらすじがあります。

処理中です...