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第七.五話 暴君カレシの尽力
02
キョトンとナーコを見つめる。
焦ってブチギレ? 誰だそいつ。
三初要と言えば、例え元旦に寝起きドッキリをくらおうが顔色も変わらず取り乱しもしない可愛げのない男だ。
あったとしても変化は一瞬。怒る時ですら淡々と相手の落ち度を詰るメンタル攻撃型なので、ブチギレという形容詞は似合わない。逆にクール過ぎて恐ろしいと言われるぐらいだろう。
それが人前で、しかも初対面の他人にわかるほど感情を剥き出しにするなんて、俺としては信じられなかった。
焦るどころか怒鳴りもしねぇぞ。
本人の話でも淡々と処理したって感じで、んなこと言ってなかったしよ。
「ンなわけねぇだろ。幻じゃねぇのか?」
「失礼ね! 客商売してるんだから記憶力には自信あるわよ!」
「じゃあ他人だな。見間違いだ」
「あんなキャラ濃いイケメン見間違うと思う? 手短に自分とシュウちゃんやキレイちゃんのこと説明してくれたのだけれど、あの子凄くイライラしててね~。ちょうどキレイちゃんが店とプレイルームの廊下と繋がる暖簾をくぐって、こっちに出て来ようとした直後よ。気がつけばもうバイオレンス展開!」
信じられなくて疑うが、話はどんどん理解の範疇外に進んだ。
ナーコはウフフと笑いながら「いやぁ早口で的確な状況説明と捜査協力要請だったわ。必死だから嘘じゃないと思ったの。凄かったもの~!」と続ける。
「私が見てるのも忘れたみたいでね。洋画の殺し屋みたいに怖い顔でぱって近づいて、暖簾をくぐりかけたキレイちゃんを廊下の影に押し込みがてら初手ラリアット! 続けざまに側頭部へ一発回し蹴り! よろめいたところを絞め落として、ディスプレイで飾ってた縄を使ってギッチギチ! 鮮やかなお手並みっ」
「う、嘘だろ! アイツがニヤケ面と無関心顔以外するかよっ」
「ホントよホントっ! あとはキレイちゃんのお金で病室ルーム取って脅しかけて経緯と計画を吐かせてたわ。ドスの効いた重低音でねぇ……『生きて帰す思うなよ』ってお口が悪かったのね。もうただのヤーさんよ、ヤーさん」
「嘘だろ! 嘘だろ!」
ダメだ。全然無理だ。
聞けば聞くほど信じられねぇ。
オラついた三初なんて想像できず俺は終始信じられないと訴えたが、ナーコはこの目で見たと言い張った。
そんなもん納得できるかよ。
第一、なにがそんなに人目も状況も考えられなくなるほど慌ててブチギレる必要があったんだ?
まぁ本人が感情的になったって言ってたからそれはわかってるぜ?
実際あの日の俺に三初は怒り、寂しがっていたので認識は合致している。
なので俺の勝手な思い込みにキレるのは当然だから必死こいて謝ったし、隠し事して他の男に触られてンのも恋人的に悲しいもんだと理解したからそこもかなり反省した。間違いない。
けど、間森マネージャーにそこまでキレる意味はわかんねぇな。
アレか? 間森マネージャーにも勝手されたのが腹立つってことか?
でも三初はマネージャーがどこでなにしようが興味ねぇだろ。
マヌケな俺がうっかり酷い目に遭うくらいで三初に害を成すわけじゃねぇし……そういやあんだけ報復したのも、自分のまいた種だから責任取るって言ってたもんな。じゃあ責任の範疇ってことかよ。
ちりとりの中のゴミを捨て、箒を裏にしまってから、俺は改めてカウンターの前に戻る。
「…………」
「ウフフっ、あの時の彼の顔には惚れ惚れしたわぁ~。有無を言わせない気迫と容赦なく的確な手腕、ンもう最っ高! あの子は性癖ドSじゃなくて真性ドSね、間違いないワ。生まれつき容赦なしの絶対王政ってカンジ……そう、暴君よ。そして顔がイイ……!」
「………おう、やっぱ大した意味ねぇぞ? たぶん自分の物に手ぇ出されンのが嫌ってだけだな。プラス通り道にいたから邪魔で潰したんだろ。アイツはそういうやつだぜ。そんで機嫌悪かったんだよ」
「やだこの子。それ本気で言ってるの?」
真面目も大真面目で名推理をしたのに、今度はナーコが信じられないとでも言いたげな表情をした。なんでだよ。
一応彼氏である俺の見解をバカにするとは見上げた自信だ。
へそを曲げた俺は「じゃあお前はわかるのかよ」と腕を組む。
するとチョイチョイと手招きされて、素直に顔を近づけた。
耳元に唇が寄せられて吐息がかかる。顎ヒゲ擽ってぇ。
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