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第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ
05
三初は「やっぱりね」と呟いて頭を手放してくれたので、俺は当初の予定通り三初の肩にスリスリと甘える。
「まぁ一瞬だったな。おもしろくない感じしたの。身内に妬くほど飢えちゃないし、動揺するほど俺もかわいくない」
「あ……? おもしろくねー……の?」
「一瞬。言葉選びは大事ですよ」
「ンッ……」
犬みたいに頭を押しつけつつ三初の呟きに反応すると、雑にはぐらかされながら項をなでられた。
しかしそれだけでは足りない。
肩に頭を引っつけるよりもっと近くに行きたい。それから、やっぱり、というのはどういうことだろう。気になる。
「は……なぁ、やっぱり、なに……? 三初……膝の上、乗っていいか?」
「んー……? 頑固だから、先輩は意図的に浮気できないタイプだって話。あと……膝は今、オススメはしませんよ。やめとけば?」
「いやだ……じゃあ足絡めてもいいだろ……? こんなふうに、よ……」
「ふ、ひっつくの好きですね」
「そう、俺、好き」
オススメしない、は、わからない。
三初の言うことは難しくって、いつもあんまり理解できねぇんだ。
特段邪険にもせずされるがままの三初の首に腕を回し、半身を抱き込むようにして乗り上げた片足を太ももに絡める。
スゥ、と匂いを嗅ぐ。
今日の香水はハニーとムスク。俺は割と鼻が利く。仕事の日は違う匂いがする。マンダリンとかシダーとか。
三初の項を楽しむ俺の耳には、ドタドタガタガタと荷物を抱えて慌てて歩くような音が廊下から聞こえた。
その意味を正しく理解する前に、バンッ! とリビングのドアが開く。おう、来たな。ちょっと待ってろ。
「修にぃ~っ! 言ったとおり来たよ! 会社の寮老朽化で床抜けて建て替えることになったからしばらく泊め──」
「なぁみはじめ、みはじめってかっこいいだろ? もうやだよなぁ……困っちまうぜ。俺が恋人なのに、勝手にモテるんだ、いけねぇよなぁ……三初ぇ……早く文無しブ男になって、俺だけ好きって言って……俺はお前が、欲しいからよ」
「そう言われても、モテようとした記憶が人生で一度もないんですけどねぇ。それに俺はもうあんたにあげたでしょ。ボケたんですか? 老化かな」
「廊下、ろうかぁ……よう、みかん」
「──……て?」
来客に気づいていたが訴えは起こさなければならないので訴え終えてから顔を上げると、目が合った妹が、ビシッ、と石のように固まってしまった。
妹の視界には、おそらく順番に状況の把握材料が映っているんだろう。
まず兄である俺が、ベロンベロンに酔っていること。
これは電話口で既にわかっていて、かつ俺の酔い方も熟知している。
衝撃的なのはその酔った兄が、見知らぬ男に抱きついて甘ったれた駄々をこね散らかしていたことである。
もちろん俺が妹の前でそうしたことなど、ただの一度もない。
顔が怖い上に口も態度も目つきも悪くてよく怒るが妹思いでいつでも世話を焼いてくれる頼れる兄、というのがこれまでの俺の印象だ。よく言われるから知っている。かわいい妹め。
しかしその兄が見知らぬ男に飼い犬同然グリグリと懐きながら口走ったセリフを読み解くに、頼れる兄は、どうやら男にゾッコンラブらしかった。
おう。俺は三初にぞっこん。
事実だから、仕方ねぇ。
ほら見てくれ妹よ。にぃの男だぜ。いい男だ。
ちょっと天邪鬼でイジメっ子で鬼畜気味の暴君だけど、たまに優しくてメシが美味いイケメンだ。いい匂いがする。
「あらら……ま、仕方ないか……」
そんな衝撃展開を前に驚愕しカタカタと震える妹を、クルリと振り向いた三初が見つけて、ため息を吐いた。
ここまでほんの、二、三秒。
スルリと目を細めて人を食ったように笑う、いつものニンマリを披露する。
それは本人が意識せずとも、相変わらず無駄に色気のあるサディスティックな顔面凶器となる。俺とは違う意味でだ。
「えー……初めまして、こんばんは? 見てのとおりお兄さんとお付き合いしてます。三初 要です。ヨロシクね」
「嘘だよッ! うちの兄がイケメン彼氏なんて作れるわけがないッ! よって──結婚詐欺師はお断りだよ~ッ!?」
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