誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ

12



「おい三初、いつまでやってんだ。つか、入ってもいいか?」


 ソフトチェリー柄の落ち着いた引き戸を前に、俺は声をかけながらコンコンコン、とノックをした。

 じっと返事を待つが、返事がない。

 おかしく思ってそっと耳をドアにくっつけるが、静まり返った室内は僅かな声らしきものが聞こえたくらいで状況判断不能だ。

 小声? まだ会議でもしてんのか?

 でもあれから二時間も待ったんだぜ。
 なのにダメともイイとも言わねぇって、流石にふざけてるだろ。

 ムスッ、と不貞腐れた表情に拍車がかかり、こめかみに青筋が浮かぶ。


「三初ェ……お前な、忙しいのはわかるけどよ、一言ぐらい返事しろ」


 苛立ちを堪えて腕を組んでドアに背をつけるが、やはり返事がなかった。

 更にピキ、と浮かぶ青筋が増える。

 コノヤロウ。釣った魚を水槽に入れたらもうインテリアの一つだってか。ふざけろ、亭主関白め。いや飼い主関白め。


「~~~~無視すんなッ! 入るからなッ!」


 数秒返事を待ったが案の定返事がなく、我慢ならなくなった俺は、バンッ! と勇んでドアを開く。

 室内でまず目に入ったのは、右側の壁一面に巡った背丈が天井まである本棚だ。
 そして締め切ったブラインドと照明。コピー機や機材。それほど広くはない。

 一目で目に入るところには三初の姿が見えず、俺は眉間にシワを寄せて小首を傾げる。

 だが視線をドア側の壁にズラした途端、書斎机にダラリとつっ伏する三初を見つけて、ギョッ! と目を剥いた。


「っ!? お、おいっ? どうしたっ?」

「……あー……バレたか……」


 俺は慌てて三初に近づき、怒っていたのが一転して様子を伺いながら肩を抱く。

 めんどくさそうにする三初だが、抱いた肩が熱い。こいつ、熱があるのか。しかも高い。

 それに汗だけじゃなく、体が湿っている。三初は今朝外に出ていたから、天気予報を外した急な雨にやられ、濡れて帰ったのだろう。

 意識がちゃんとあるのを確認してから、俺は椅子を引いて三初を起こし、額に手を当てて目を合わせた。

 三初は「触んないでくれませんかね」と気だるげな息を吐いて俺を振りほどこうとするが、無視だ。


「離れてって……まぁ、実は全然余裕なんで……ちょっと、しくっただけですし」

「はぁ……ッたく、完璧風邪だろッ。お前、なんで雨に濡れたならすぐ風呂入って着替えねぇんだよッ」

「あー……急に会議出ろって言われたんですよね。やいやい言われんの、めんどくさいからいいかなって感じ……一時間半ぐらいで終わったし」

「お前が引きこもってからとっくに三時間以上経ってんだよアホッ」


 頭に響かないよう小声でキレつつ、椅子から三初の体を抱き上げる。
 いつもされてるらしい子どもを抱くような抱き方だ。
 当然自分で歩くと言われるが、それも無視する。うるせぇ黙れ、クソ病人め。


「屈辱的だわ……」

「ヘロヘロのくせに文句言ってんな」


 容赦なくズカズカと歩いて寝室へ向かい、そのままベッドに三初を下ろす。

 途端、ハッタリ虚勢空元気のコンボがデフォな天邪鬼がバタンキューとベッドへブッ倒れ込み、俺は言わんこっちゃにいと鼻を鳴らした。

 はん、呆れるぜ。
 ンな状態でも俺に楯突かなきゃ気が済まねぇ性分でもあんのかよ。




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