誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ

14



 されたぶんは大事にしてやりたいと思いながら、俺は時間をかけて汗と雨を拭き取り、三初の体を綺麗にしてやった。


「ん、ありがとうございます」

「ん。服取ってくるから動くなよ」


 桶とタオルを片付けるために一旦退室し、いつも三初が着ているルームウェアを持って部屋に戻る。

 三初は言ったとおり大人しくベッドの縁で寝そべっていたので、俺はせっせと寝間着を着せてやった。

 時計を見ると、三初を見つけてから三十分程度が経っていることに気づく。

 昼時はとっくに過ぎた時間だ。
 腹が減っていたことなんか忘れていた。今もあまり思い出さない。

 落ちそうな体をベッドの真ん中へ横にならせて、肩まで布団を被せる。

 三初の口数は、元気な時よりもいくらか減っていた。
 ありがとうございます、とは言うが、この状況が不本意なのだろう。

 布団をかけた上からポンと軽く叩くと、赤い頬で黙りこくった。

 なるほどな。どういうわけか……こいつは相当、弱った姿を誰かに見せることに慣れてねぇんだ。


「よし、熱さまシート貼ってやる」

「ゴホッ、いい。です。そのくらい自分で貼りますって……」

「うるせぇな。じゃあ俺がやりてぇから黙ってさせろ。いちいちガッサガサの声で文句言いやがって」

「はぁ……感染源殺したいわ……」


 俺がやりたいだけの趣味ということにして丸め込みつつ、持ってきたシートのフィルムをペリ、と剥がして前髪をかきあげてやる。

 すると誰が見ても高熱の顔で拒絶ばかりするクソ野郎はゴホゴホと咳き込みながら、もうどうにでもしてくれ、とばかりに目を閉じたので、丸出しのデコにペタリと熱さまシートを貼ってやった。

 同居に際して渡された資料が役に立って、普段使わない薬や氷枕や体温計の在り処は聞かなくてもわかった。

 熱を測ると、なんと三十八度八分。

 平熱の低い三初としては、結構な高さだ。免疫と徹底抗戦しているらしい。
 だからこそ、このウイルスはサイボーグ疑惑のあった三初を倒せたのだろう。

 なかなか生きのいいウイルスである。
 細菌兵器相手でも生きてそうなこいつを弱らせるとは、最強の風邪菌だ。風邪菌グと呼んでやる。風邪の王様。

 そうしてとりあえずやれることを終わらせた頃には、咳や表情以外にも見てとれるほど、三初は不調が顕著に現れ始めた。

 体温計を置き加湿器をつけて部屋を十分加湿した俺は、ベッドサイドに腰掛け、横になる三初の真っ赤に火照った頬にピトリと柔く手を当てる。

 すげぇ熱。喉も、頭も痛ぇだろ。
 熱くてダルくて寒気がする。

 風邪というものはそういうもので、大したことないという態度をとるが、この発熱じゃ相当辛いはずだ。

 なのになんで、当たり前のように余裕ぶった態度を崩さないのか。

 こいつには、日常に、当然に、恒久に、天邪鬼がこびり付いている。


「ん……なに……? もう平気ですよ」

「テメェはいいかげん諦めろや。ンな一瞬で治ったら医者要らねぇわアホ」

「はいはい。じゃ……俺は大人しく寝てるんで、先輩はどこぞで好きなことしててくださいよ」


 筋金入りだ。どうしたってそんなことをほざく大バカ野郎は無視に限る。

 なにが先輩はどこぞで好きなことしててください、だよ。
 うつ伏せのお前が見えた時、俺は一瞬すげぇ心配したんじゃねぇか。

 寝ても醒めてもいるのが同居生活だから、嫌でも感情が掻き立てられるのだ。

 報連相を怠られる蚊帳の外を寂しがることやほんの小さなことへの不満も、なにかしてやりたいとか、頼られたいっていう気持ちも、忘れられない。

 言われないと手を伸ばしたくなる。
 話してくれないと、機嫌が悪いのかとか、拗ねているのかとか、俺はお前のほんの少しの変化を追いかけてその理由をひとり虚しく想像するだけ。

 そういう時、俺は惨めだ。
 三初はなんでもすげぇ感じるんだよ。

 こいつはなんでもよく見てる。
 俺がなにも言わなくても小さな変化にすら気づいてくれるし、小さな呟き方でも名前を呼べばほぼ聞き逃さない。
 それぐらい俺といる時は、俺に全神経を向けている。俺を感じてる。

 だから三初は俺が自分の目の前でよそ見をすると、猛烈に腹が立つ。

 ちゃんとわかってる。つもりだ。
 自分はそんだけ関心寄せて全部気づくのに、相手がよそ見じゃムカつくって不満に思う。ん、だと思う。

 それでも一応。俺が本気で三初を好きだということを、こいつはなんとなくわかってくれていた。

 気づかない俺でもよそ見をする俺でもデリカシーのない俺でも不器用な俺でも三初は俺の恋心が冷めたと勘違いはしないし、意地を張ったつれない暴言や態度にも傷つかない。責めもしない。

 照れ隠しだとわかっているのだ。
 わかられていることも、なんとなくわかる時がある。

 好きという言葉を貰えなくとも、三初は俺がちゃんと三初を好きだとわかっていて、俺は三初がちゃんと俺を好きなのだと、よくわかる。
 いや、わかるようになった。

 三初は俺をだいぶ好きだ。俺もだいぶ三初が好きだ。でも同じように気づいてやれない。惨めだ。俺は足りてない。けど好きだ。なので気づかせてほしい。
 気づいてやれなくても、お前が弱ってるならなんだってしてやりてぇんだ。

 そう思っているから……弱ってるくせに、自分がちゃんと好いてる恋人すら拒絶するこいつが、すげぇムカつく。




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