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第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ
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しおりを挟むやっと寝たか……つか、コイツの寝顔なんか初めて見たぜ。レアモノだよな。
ほっと胸をなでおろす。
人を食ったような笑みを浮かべて目を細めて涼しい表情をしている三初の寝顔は、新鮮な光景だ。
じっと見つめていると、なんとなく〝生きてるみたいだな〟と思った。
意識がないほうが人らしいってのは、どういうこった。なにもかもがミラクルな男である。
まぁ、夢見は良さそうでよかった。
普段から寝つきが良くなさそうなのが気になっていたせいで、三初が眠っているだけでなんだか安らぐ気がする。
「くく……かわいい顔しやがって」
現実の苦しみを夢の世界にも持ち込んでいない柔らかな表情に、俺の頬も緩やかに緩み、無意識に微笑んでいた。
俺が風邪をひいた時も、三初は眠るまでそばにいてくれたことを思い出す。
あの時は恋人でもなんでもなくて、ただのセフレ同然の関係性だった。
だけど少しずつ抱いていた好感が好意に変わり、確信を得たあの日。
俺を背中から片腕で抱きしめてローテンポな会話を続けてくれていた三初に、恋をした。
それが今は逆の立場で、恋が実り、正面から抱き合っている。
なんと言うか、感慨深いと思う。
意識が朦朧としてあちこちの内臓が痛い感覚は、苦しい。寂しい。
どうにも辛くって、誰かにそばにいてほしくなるのだ。知っている。寂しくて、孤独になる。
──三初が辛い時、そばにいられてよかった。
三初が眠っているのをいいことに、不謹慎なことを考える。
お前が動けないことにちっとも気がつかなかった俺だけどよ。
お前がへばってる時に抱きしめてやれる俺で、よかったぜ。
「お、っと」
くっくっ、と起こさないよう喉を鳴らして笑っていると、不意に俺を抱きしめていた三初が一際強く俺の体を抱き寄せる。
まるで閉じ込めるような抱きしめ方に、俺がどこかへ行くと思ったのか? と考え、ポンポンと背をなでてやった。
髪に熱い頬がスリ……と寄せられる。
甘えているらしい。意識がないと甘えられるようだ。難儀な男だな。
「ん……」
「おーおー。ちゃんといるぜ」
気休めに言葉を与えると多少は安心したのか、三初は聞き取りにくい語気でなにやら寝言を言い始める。
「好きです、よ……」
「っ……」
「俺の、俺は先輩の、体温、が……いちばん、好きです」
一番最後にわずかに声量を増したこれが、唯一聞き取れたセリフ。
ギュ、と俺の頭を胸に抱いて再度おだやかな寝息を立て始めたこの恋人様は、実に酷い男だ。
ノーガードの俺は強烈な不意打ちで、なんの装飾も施さない言葉を与えられてしまった。
呼吸が停止する。
震える唇ではうまく息が吸えない。
胸の奥がギュウ、と搾り上げられ、口元がどんどんへの字に引き結ばれて行き、俺の顔はへちゃむくれたものへ変わっていく。
俺は風邪なんてけっして引いていない。嘘偽りなく心底から真だと言える。俺は健康優良不良少年、じゃねぇリーマンだ。この体は何一つウイルスに冒されちゃいない。
「う、ぐ……っ、ふ……普通に、……普通に俺が好きだって言えよ……ッ」
けれど耳の先まで茹でダコと化した俺は、しばらく顔をあげられなかった。
ただ好きだと言われるより自分の温度が好きだと言われたほうが胸を打つなんて、全然理解できない。心臓がイテェ。
最後の一つ。
三初が風邪を引いてわかったことは──三初に好きだと言うより、言われるほうが、身が持たないということだ。
テメェが俺の体温が好きだと言うなら、俺はテメェの声が好きだよ。クソバカヤロウ。
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