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第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ
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しおりを挟む「クックック、人力アトラクション御割クラッシュ。愉快だわ」
それに引き換えズリズリとデスクチェアーを引っ張りながら戻ってきた三初は、これっぽっちも怯えた様子などない。
テメェはちっとは反省しろ。
反省した上で丁重に俺に謝罪し、テメェも前髪を馬鹿みたいにくくれ。
そしてトゥイッターで拡散されろ。
フンッ、と口をへの字に曲げる。
そんな俺に戻ってきた三初が「蹴られた時気づいたんですが」と前置きをして、俺の足をコンと蹴った。
「その靴下、俺のですよね。使用料は今晩請求の待ったなし」
「げッ……鬼かテメェ、即日追い込みかけンなッ!」
優雅に足を組んでニマ、と笑う猫に、俺は思いっきり嫌そうな表情になり、そっぽを向く。
クソ、しかたねぇだろ。
今日は髪と格闘してたから、急いでたんだよ。普段はあんま間違わねぇ。
「つか小物は共有してんだから別にいいじゃねぇか。水虫食ってねぇし、俺の靴下も勝手に履いてもいいぜ」
「ほんと私生活は大雑把だなぁ……ネクタイとかハンカチと靴下はなんか違うでしょ」
「あッ! ンなこと言ってテメェこの間俺のスウェット部屋着にしてただろうがッ」
「や、一番手から近かったんで」
「ふざけんな大雑把以上に適当チョイスじゃねぇか爆裂四散しやがれ」
どの口が案件にイラっとして三初の脛に蹴りを入れようとやっきになるが、話しながら全部避けられるのでバトルが終わらない。
この性悪暴君め。
いつかむこう脛を強かに蹴り上げてやる。
それが叶わなければ狸寝入りして夜中にすね毛をガムテープで引っ剥がしてやるからな。
覚悟しろよ、鬼畜サド野郎。
(同棲してるこ、じゃねぇ同居してることを甘く見てると、いつかの仕返しにツルッツルの無毛美脚に仕上げてやっからな……ッ!)
ガガガガッと足元でバトルを続行しながら、俺はひそかに復讐を誓った。
なりゆきで始まった生活だが、甘いだけでも苦いだけでもなく。
意地っ張りと天邪鬼がひねくれてぴったりとハマった、刺激的な生活なのである。
──余談だが。
俺と三初のやり取りを唖然と見ていた同期の竹本と山本の二人組が、ヒソヒソ声で緊急会議を開いていたことは、俺の知らない話だ。
「いや、え? なんで髪の匂いでヘアスプレー使ったってわかんの? 覚えのあるヘアスプレーなの? 自分ちのなの? 住んでんの?」
「竹本、落ち着け。靴下を取り違えてるんだから、そういうことだ」
「人が疑惑で逃げようとしてたのに確定させるのやめろよッ! 待て待て。三初、彼シャツならぬ彼スウェットしてんの? 三初は彼女なの? ってことはアイツらデキてんのかよあっへ嘘だろ嘘だと言ってよ山本ッティッ!」
「落ち着けって言ってるだろバカァッ! こんな話してんの三初にバレたら、お前二度とヘルプの要請受けてもらえねぇぞ……!」
「なんかいつもいつの間にか進捗管理されてんの怖い」
「それがわかるなら傍観者はただ黙して見守るのみよ」
「わかった。幸村さんとデートのアポを取り付けられた俺の話の続きを聞いてくれ」
「あぁ。中和してくれ、耳の衝撃を」
第八話 了
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