386 / 454
第九話 先輩後輩ごった煮戦線
10
わざわざ電話をかけてきて要件が俺を虐めたかっただけだとは、なんてクソみたいな動機だろう。
間違いなくコイツのハートはヘドロハートだ。そうに違いない。もう逆に予想通りだったまである。思っていたより恋愛観が腐っていただけで。
ちょっとは恋しがれッ! と胸中で叫び、俺はモソ、と薄っぺらい夏布団の中に潜り込んで楽な体勢を作った。
ケッ、拗ねてなんかねぇわ。
全然バリバリ元気百倍だわ。バク転でもしてやろうか? あぁ?
『ふ、お望みなら気にかけますけど。どう? そっちでうまくやれてます?』
「接待じゃねぇか、クソが。テメェ総括だろ。毎日メール貰ってるくせに」
『日報じゃ細かいとこわかんないでしょ。進捗管理表は各人のスケジュール入れてるだけだし、竹本先輩の報告書は、個人のことまで書いてないんで。先輩言わないしね』
「そりゃお前、コンビ解消しちまったんだから、いちいち言わねぇわ。デスク隣ったってやってること全く違ぇし」
『あれ席替えするんですかねぇ……ま、どこ行っても先輩には報告義務ありますけど。俺に』
「保護者かよ」
『飼い主。っても最近は根詰めてたからお互いまともに会話してなかったし、仕方ないか……』
竹本が急に帰ってくる可能性を頭の隅に置きつつ、苛立ちを抑えて声をひそめながら久しぶりに言葉で軽く殴り合う。
甘いやり取りとは無縁の会話だが、いつも通りローテンポに繰り出される三初の声を聞いていると、不思議とささくれ立っていた心が日常を取り戻し始めた。
無意識に口元が緩む。
への字に結ばれていた頑なな唇も、三日ぶりに聞く声に絆されたようだ。
『そも、通話するの自体久しぶりですね。まともな会話っていうと……十日ぶり?』
「あぁ、まーな。けど別に俺は、そのくらいどってことねぇよ。べったり張りつく歳じゃねぇし」
『そ。たくましいことで』
着信の直前まで恋しがってウンウン唸っていたなんて大人げない事実は隠し、素っ気なく返すと、三初はそれ以上掘り下げなかった。
なんだよ。
マジで俺の様子が気になってたのか? いや、そりゃねぇか。三初だしな。
ふわりと浮かんだ可能性は、そうそうに葬る。俺だって、自分の想像が現実的なのかどうかぐらいはわかる。
「そっちはどうだ?」
『全然普通。ヒヨコ組がピヨってんのと、クソみたいなタイミングで引き継がされた総括の管轄盛り過ぎってくらい』
「はっ。仕事遅いからってヒヨコ食うなよ、ドラ猫」
『食いませんよ。そこまで暇じゃないし、相当優しくしてますから。ヒヨコも、ニワトリも』
「山本たちもかよ。くくっ、ご愁傷様だなァ」
『本社に帰る用でもあれば、竹本先輩も優しく飼育してあげるんですけどね』
「なんでだよ」
なぜか出張中の竹本も隙あらば管理してやると言う三初に笑い混じりにツッコミを入れると、抑揚の薄い「ははは」という声が返ってきた。
よくわかんねぇけど、いいか。
どうせ竹本が日報でもミスったんだろ。じゃなきゃ気分だ。知らん。
お互い新コンビ始動に向けての準備と勉強で忙しかったから、こうしてただ話すだけで俺は少し浮かれてしまう。
しばらく他愛のない会話を重ねた。
感じていた仕事の弱音は吐かなかったし、三初もそういう話は吐かない。
だけど三初が少し疲れていることは、なんとなく、わかる。
直感に近い感覚的なものだ。
言葉でうまく説明できないが、声のトーンであったり、反応であったり、息の吐き方であったり……言葉選びとか。
三初が少しずつ話題を仕事から離れさせていったので、たぶん、俺はもっとわかりやすくその感覚的なものを出してしまっていたのだろう。
それでも互いに指摘はしない。
三初の理由はわからない。
俺の理由は必要ないから。
この時間に水を差したくねぇんだ。
ただ仕事を忘れて声を聞いていたいって感覚が、俺にもあったらしい。
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。