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第九話 先輩後輩ごった煮戦線
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しおりを挟む「今そういうこと言うなッ。テメェ普段食いもんに明確な好き嫌い言わねぇだろッ」
『え? なんでですか? 別にいいでしょ。俺にだってこだわるほどじゃなくても、多少の食の好みがありますよ』
「じゃあ〝先輩の握った〟とか余計な装飾つけねぇで普通におにぎりが好きって言えッ」
『ワガママだなぁ』
喉を鳴らしてのんびりと答える三初に対して、俺は声を潜めつつも噛みつかん勢いで食って掛かる。
含み笑いのあと、ふう、と電波越しに気怠い吐息を伝えられて、ゾク……、と耳の奥が粟立った気がした。
どうせ、気のせいだろう。
ただの雑談に、色気なんかない。
『めちゃくちゃ、好きですね』
「っ……」
『おにぎりが』
(今、俺はテメェがこの世で一番憎い……ファッキン倒置法ォォ……ッ!)
一瞬でも愛を囁かれているような気になってしまった俺は、ベッドの上で目元を覆い、ジュワジュワと湯気が出そうなくらい羞恥に焼かれて沈黙した。
倒置法。それはノーマルな文法表現の順序を逆にする表現方法。
少し補足を加えるならば、俺が今すぐ助走をつけて殴りたいのは、これを開発して日常言語になるほど世に広めたであろうどこかの誰かさんである。
そして、遅ればせながら……ひとつ気がついたこともあるのだ。
流石に舐めすぎだろう。未だ紅潮したままの目元を擦り、通話が繋がっているスマホを握り潰しそうなほど強く握る。
「三初ェ……! テメェ、わざとンな言い方してんだろッ!」
『あら、バレましたか』
こンの極悪ド腐れサディストめッ! やっぱりか──ッ!
殺意を込めた言及だったのに、ちっとも反省せずサラリと肯定する悪ガキに向かって、俺は顔を真っ赤にしながら熱の篭った呪いをテレパスした。
ムラムラもドキドキも、一瞬でイライラが塗り替えた。怒りは全てを凌駕する。
『思ったより早かったなぁ。激ニブ先輩も慣れれば多少察しがよくなるもんですね。くくく、褒めて遣わす?』
「ンなもんに慣れたかねぇンだよ激クソ暴君ッ! 我慢して損したぜッ! 俺がその気になってんのわかってて煽りやがってバカヤロウが……ッ」
『ん?』
「んじゃねぇ! だから、こちとら会えもしねぇのにヤリてぇスイッチ入れられて我慢してんのわかってて煽ってたんだろって言ってんだよ! しらばっくれんな、股間爆ぜろ。速やかに爆ぜろッ」
『や、甘えたがってんなとか、照れてんのはわかってましたけど……ヤリたくなってるってのは、初耳ですね』
「は?」
思いがけない言葉が聞こえて、ピタリと投げつけていた文句が止まる。
ええと、どういうことだって?
要するにつまり、あれか?
三初は俺が本当は寂しさにかまけて甘さを求めていることも、好きだ好きだと言わせられて恥じていることも気づいていたが、俺がそれらに煽られてどういう気分になっているかまでは、流石に気づいていなかった。なんせ見えていなかったから。
それを今、知ったと。
「…………」
『いやぁ、まさか先輩がただの会話にムラムラしてたとは思いませんでした。でも声だけで興奮するって、発情期ですか? ほら犬だし』
やめろ。改めて指摘するな。
わかりきった失態を改めて暴くんじゃねぇ。改めて絶望するだろ。
しみじみと納得する勝手な声に機械を挟んで耳孔をくすぐられる言葉が、死にたくなるほどの羞恥をもたらす。返す言葉もすぐには出ない。
「ぃ、今すぐさっきの言葉は忘れろテメェッ! 俺は別に、その、い、言い間違いで、お前の聞き間違いっつー……ッ」
『あらら。じゃあ先輩はなんて言おうとしてたんですか?』
「なんっ」
ビクッ、と体が跳ねた。
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