399 / 454
第九話 先輩後輩ごった煮戦線
23
店舗が見えるところまでやってくると、げんなりとするような行列ができていた。
はぁ。もういい加減、見るだけで頭が痛くなるぜ。
本格的に喫茶部門で商品化してるんならいいけどよ。こっちはまだ試用段階なんだ。
一時的なブームを得たら、フラットな状態の客受けがわかんねぇんだよ。チクショウめ。
宣伝と売り上げ的には万々歳でも、データ的にと現場的にはブーイング待ったなし。
「うえ、っえ、うわあぁ、あぁぁ~っ」
「っ、と」
急いでブースの中に戻ろうとしたが、行列のそばで子どもが大泣きしている姿を見つけた。
まだ五歳くらいの男の子だ。
頬をボタボタと濡らして、ティーシャツの襟ぐりを変色させて立ち尽くしている。
近くに親らしい大人がいない。
心配そうに客が子どもを見つめているだけで、誰もその子の詳細は知らないようだ。
(誰かどうにか、ってか、待つより俺が動いたほうが早いよな)
スタッフからさっさと帰ってこいという視線を感じるが、俺には幼い頃の美環とダブって、放置することはできなかった。
子どもは俺の顔を見ると黙り込むか逃げるか泣くかなので、自信は皆無。
それでもそーっと歩み寄って、ヤカラスマイルと言われる愛想笑いを浮かべ、その場にしゃがみこむ。
「あー、なぁ。どうして泣いてんだ?」
「ひっ、ひ……っう、あぁぁぁぁ~!」
「あぁぁっ、待て待て、男だろうが、泣くなっ、取って食いやしねぇって!」
(ぐっ……! 周りの目が痛すぎる……ッ!)
接客用の笑顔で引きつった口角を一瞬で崩壊させ、俺は素に戻って焦りまくった。ますます周囲の視線が厳しくなる。
迷い迷った末に、俺は迷子の脇に手を入れて、そっと抱き上げた。
「うぇぁ……っ」
途端にビクッ、と迷子が硬直し、おとなしくなる。
なんでか知んねぇけど、子どもってのはおとなしい時に驚くと泣き出し、泣いている時に驚くと沈黙するんだよなぁ……。
泣き止んでいるわけじゃないが真っ赤な目を丸くしておっかなびっくり俺を見る迷子に、俺は背をトン、トン、となでてやった。
「おら、泣くな。泣いてたってしょうがねぇ。そうだろ?」
「うっ、うっ……っ」
「ママかパパはいねぇのか」
「うぇぇ、えっう、っ」
「いなくなったんだな、おーし。んじゃ、見つけりゃいいだろうが」
「うぅ~」
徐々に泣き止んでいくが当然なにを言っているかわからないし、まともな言葉も言わない。
ママかパパ、と言った時に再度泣きそうになったから迷子で間違いないとあたりをつけ、思い出させないようにとっとと次の話に進める。
親の服装とか、特徴を言ってくれりゃあいいんだけど、混乱している子どもは何度尋ねてもわからないと言うのが普通だ。経験上。
どうにかぐずる程度に落ち着いた迷子の頭を、ワシャワシャとなでた。
「ふぎゃっ」
「うしうし、上出来だぜ。見どころのある男だな。名前はなんて言うんだ?」
「お、おれ。おれしょう……」
「ショウな。俺はオワリ。今から俺らはコンビだぜ。冒険にでかける前に、特別に食料をやんよ」
「え……っ? わあ、トポスだっ。お、オワリ、すげえっ、ありがとっ」
「だろ? しかも新商品!」
制服代わりのカフェエプロンのポケットから取り出した、端数のトポス。メロンソーダ味。
それを迷子──ショウに渡すと、潤んだ瞳のショウは、ようやく笑顔になった。
子どもは泣くのも仕事だが、やっぱり笑っているほうがいい。
母体のスタッフでもない俺が店舗の仕事よりこっちを優先するのは、多忙な今よくないことではある。
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。