誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第九話 先輩後輩ごった煮戦線

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「っお、っ」

 俺は驚いてスマホを取り落としそうになった。

 こうもセンチメンタルな時にタイミング良くかけてくるなんて、と焦り、応答するべきかしばし悩む。

 次に会うのは出張後だと言い合った。

 なのに二日も早く帰ってきた俺に、アイツはなんと言うのだろうか。

 悩んでいるうちに、なにも知らないだろう三初からの着信は一度切れる。

 けれど再度、同じ表示が画面に現れた。
 こうなったら、観念するしかない。

 震える指で応答し、耳に通話口を当てる。

「も、しもし」
『めちゃくちゃ慰められるのと、めちゃくちゃ叱られんの、どっちが欲しい気分ですか』
「は……っ?」

 開口一番発されたあまりにも予想外の言葉に、凹んでいた俺は素っ頓狂な声を漏らし、顔を上げた。

 通話の相手である三初は別段変化のない聞きなじみのある声で、怒りも哀れみもなにもない。

 言葉を失っていると、『どっち?』と催促されて、頭の中が混乱する。

「いや……、え……、叱られんの……?」
『了解。叱ります。ホント先輩はグズでノロマでうだつの上がらない昼行燈ですね』
「っ、なん……っ!?」

 理解できないまま、震える声で今の気分に近いほうを選ぶ。

 すると注文を承った三初は、注文通り、俺を容赦なく叱り始めた。

『タイミングが悪かっただけで自分のしたことや自分の性質が悪ではない、ってわかってんじゃないですか。スタッフとうまくいかないって、それ歩み寄ってるのに歩み寄ってこない相手にも責任あるに決まってんでしょ? 自意識過剰も甚だしい。自己嫌悪する必要性皆無だわ。セルフマゾもいい加減にしてほしいですね。それともなに? 完璧にはなれないのに完璧主義? 人間やめて機械にでもなりたいんですか。あんたがなれるのはせいぜい犬なの。矮小な一個人として自分のハードル設定を弁えてください。見苦しいです』

 早口で断定的な、淡々とした罵倒。

 その内容からは、三初が俺が交代することにした旨と経緯を知っていることはわかる。

 しかし部長と話をした後に文書としてもまとめて本社のシステムに報告を上げた内容では、俺の個人的な気持ちや、スタッフの反応、俺の言葉という詳細はわからないはず。

 なのに、通話口から響き続ける罵声は、俺のどうしようもない自己嫌悪や不甲斐なさを理解した上でのものだ。

『仕方ないだろってキレてるくせに、それを口に出すほど先輩は自分に甘くないでしょ。自分に厳しすぎてめんどくさい。仕事なんか俺にとってはゲームと一緒なわけ。タイプ相性あんの。劣勢なら速攻引いて優勢けしかけるのって常識ですよね? 合理性のある常識的判断に責任は発生しません。……わかった?』

(……は……)

 ようやく三初の罵倒が終了した時、俺の気分はずいぶん持ち上がっていた。

 ふ、と少し噴き出す。
 車のキーを差し込んで、エンジンをかけた。

「結局、慰めてんじゃねぇか」
『解釈はご勝手にどーぞ』
「勝手にしてやるよ」

 通話の向こうでひねくれた恋人のほくそ笑む顔が浮かぶ。

 俺が言いたいことの本質に気がつくとわかって言った。

 だからちゃんと理解したことが伝わって、機嫌がいいんだろう。

 冷たいことを言っていたにしては冷淡ではない、優しすぎる三初の声を聞きながら、深呼吸をする。



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