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第九話 先輩後輩ごった煮戦線
35(side三初)
「──うわ、行列超スッキリだな~!」
そうしていると、バックヤードから竹本先輩がひょっこりと顔を出した。
「昨日までは捌き切る前にピーク再来して常に誰か客がいる状態だったのに、助っ人でバケモノ投入したのは英断だったぜ! 流石部長~!」
「調子の良さは天下一品ですね、竹本物流部長先輩」
「遠回しに受けた荷物寄越せって言ってるよな?」
失言の多さと察しの良さは御割先輩より上である竹本先輩は、綺麗にはけた行列にご満悦だ。
減ったストックを手早く補充しながら適当に返事をする俺は、近づいてきた先輩ににこりと笑いかける。
「昼時も過ぎたので、この二人、休憩で」
「えっ? 二人一気に? 俺もゴミ出しと棚補充くらいは手伝ってから出れるけど、一時間お前一人になるぜ」
「いいですよ。いてもいなくても変わらないんで」
「「っ……」」
特に変わった様子もなく、普通に言った。
だって本当のことですし?
なにも知らない竹本先輩は首を傾げたが、俺が自己中心的な行動をとるのがいつものことなので、硬直する二人に休憩を言い渡す。
ま、もし逃げずに戻ってきたら、思いっきり教育してこき使うけどね。
先輩の働いたぶん働かせて矯正させないと。キッチリ回収。
(戻らなきゃ、それまで。どうでもいいな。めんどくさいし)
余裕のある時間に下準備を整えながら、もうすっかり先ほどのことに興味を失った思考回路を、平坦に回した。
なんというか、いちいち御割先輩は報われないなー、と。
コミュニケーション能力が低いことや、自分の容姿で勘違いされてこじれることを気にするような、繊細な人に見えないのだ。
俺だって初めはあんな一見失礼なことを初対面で言うような先輩は、図太くて我の強い俺様タイプだと思っていた。
あだ名が狂犬だったしね。
でも俺のことを無自覚だけど庇ってくれたり、こっちを見てほしくて虐めても見捨てなかったり、様子がおかしかったら慰めようと奮闘してみたり。
よく見ていればわかりやすい。
理解されないのは、顔が怖くてすぐ目を逸らされるせいか。
俺としては、俺しか知らない部分というのがたくさん欲しいので、願ったり叶ったり。
誰も気づかないのであれば、そのままでいいと思う。だって俺のだから。
けれど先輩はそれでこうやって損をすることがあって、今回なんかは先輩の短所が露呈しまくったオンパレードだ。
怖がられることには傷つかないが、その結果なにかしらに支障が出て誰かに迷惑がかかるなら、先輩は傷つく。
せめて中身は愛想よく優しい男になれないものかと、意味不明で、全然理解できない思考の元、自分を責めるセルフマゾなのだ。
先輩が勘違いされようがどう思われようが、俺がわかっていて先輩から離れないのだから、問題はないのに、ね。
そう、問題ない。
問題ないのに、なぜか。
そういうことを気にする先輩が割を食うと、俺ははらわたが煮えくり返る。
喉奥が焼けただれて裏返りそうな、エグ味のある言葉が沸騰し、元凶を捻り潰したい気分になる。
なんだろ。俺以外を気にかける先輩なんてつまらないからかねぇ。
そんな気分なら納得もいくが、どうも不純物が混じっている。
不条理や理不尽が先輩を突き刺すのが、嫌だという気分。
傷つけるやつが気に食わないのではなく傷つけられることが気に食わないなんて、俺もずいぶん単純な男に変えられたものだ。
こういう考えは俺じゃなくて、先輩らしいね。
自分の中に御割先輩が混じっている感覚は、不快な変化ではなかった。
だからこそ、だ。
「んー……今回ばかりは、ホント、多少報われたっていいと思うんだよなー……」
うーん、と顎に手を当てて、また一瞬客が途切れた合間に思考を終え、結論付ける。
──そんな時。
「あの……すみません」
おずおずと声をかけられ、俺は思いがけず手土産をゲットすることに成功した。
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