誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第九話 先輩後輩ごった煮戦線

36



 休日出勤を終えた日曜日の夜。

 九時前に帰宅した俺は、出来合いの弁当で夕飯を済ませ、風呂に入って待機していた。

 出張明けの今日は帰りが遅くなるだろうが、それでも三初は帰ってくるだろう。

 だから、あの山のような雑務に蹴りをつけたイイ報告のために、俺は疲労困憊のまま待機していたのだ。

 あくまで報告のためである。
 俺だって土日がうまくいったか聞きたいので、つまりそういうこと。

 他意はない。なにもない。全然ない。
 リビングのソファーに座ってテレビを見つつ、誰にとも言えない言い訳をした。

 ──……までは、覚えている。

 そこから先は記憶になく、気がついたら暗転。正しくは、寝落ち。

「ん……、……ん、ん?」

 結局、目を覚ますと室内は太陽光をたっぷり取り入れて、明るくなっていた。

 んん、と瞬きをする。
 後頭部に固いものが当たった。カーペット越しの床だ。俺はソファーから落ちて床で寝たのか。

 気温が上がり始めてからベッドで使っているガーゼケットが、体にかけてある。
 見覚えのあるネイビーのものだ。

 そうそう。いつも朝起きた時にも、これを被って──。

(……朝? 今日は、月曜日……)

 理解した瞬間、ガバッ! と起き上がる。

「ち、遅刻ッ!?」
「しませんよ」

 しかし、悲鳴のような声を上げて起き上がった俺に、待ち人の呆れた否定が入った。

 首を声のほうへ向けると、キッチンからエプロン姿の三初がのんびりと歩いて近づいてくる。

「は? え? 時間……」
「十時過ぎてますが、今日は前もって休み取っといたんでね。おはようございます」
「おう、おはよう。ってかテメェなに勝手に俺まで申請してんだッ! この時期に休み取るか普通!」
「まーまー。目覚ましと今度はアラームもちゃんと切っておいたんで、よく眠れたでしょ?」
「肝が冷えたわッ!」

 ソファーの背もたれに身を乗り出して見下す三初に、俺は頭をガシガシとかきながら唸った。

 ケッ。一週間ぶりに会ったってのに、なんの感動もありゃしねぇ。
 いやいらねぇけど、こういうのは気分的に、だ。

 有休を自主的に使うことが滅多にないので構わないのだが、無駄に焦ってしまった俺の心をもう少し慮ってほしいものである。

 しっかりと眠ったおかげで、頭はすっかり冴えていた。
 疲労もそれなりに回復している。

 文句もあったが起き上がってガーゼケットを綺麗にたたみ、ソファーに置いて、俺は顔を洗うために洗面所へ向かった。



 身支度を整えてリビングに戻ると、エプロンを外した三初が朝食の並んだテーブルに着いてた。

 今朝のメニューは目玉焼きにウインナー、キャベツとトマトのサラダ。ご飯とみそ汁に、キュウリとナスの浅漬けだ。

 帰りが遅かったはずなのにマメな男である。
 申し訳ない気がして三初をうかがっても、全く苦にしていなさそうな顔だった。

 最強かこいつ。眠気も感じねぇ。普通にカフェイン摂取してやがる。
 自分の交際相手で後輩だが、規格外の男だ。

 三初のスペックは無視することにして、俺好みの献立にひそかに胸を躍らせながら向かいの席に着く。

(あー……二ヶ月の呪い、やべぇよな)

 いただきますと手を合わせてから、こうして話しながら食事ができる久しぶりの朝の日常に、俺は内心で少し浮かれた。

 息吐く間もない新生チームによる混乱や仕事のピークなら、受け持ちの仕事をどうにか終わらせた昨日が最後だろう。

 けれど今、〝やっとゴタゴタが落ち着いたか〟という実感が湧いてきたのだ。



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