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番外編 オフィスとベッド
01
いかな恋人同士と言えど、リーマンにとって、オフィスは戦場である。
「だから手につかない、個包装、常温保存可はマストだって言ってんだろ!」
「だからそれ面倒なんで、ボトル型の入れ物にボール状にしたお菓子多種類入れたオフィス用パッケージ作ってボトルから口に直接入れられるようにしたらいいんじゃないですか、って言ってるんですよ」
「それ定番ラインナップ揃えんのだけでもコストかかりすぎだろうが!」
「でももう仕様書できてますって」
「は!? 報連相は!?」
「確実性出てからじゃないと巻き込めないでしょ。ボトルの試作ありますけど見ます?」
「なんであるんだよッ!」
「仮デザイン画持ってデザイン部のお茶会に凸して、W工場の工場長がたまたまいたから軽く話しておいて裏取って? まあ課長に認可してもらいましたよね」
「それほぼ決定事項じゃねぇか馬鹿かよもうなんだよもうッ!」
「あ、先輩今パソコンに送ったファイル確認しといてくださいね。バカ真面目だから半日あれば把握できるでしょ?」
「聞けよッ! できるけどよッ!」
ガウ、と吠えるが、ネコはどこ吹く風。
オフィス用の配置お菓子セットをテコ入れしろ、なんて話が出てから俺はない頭でうんうんと唸っていい案がないかと考えていたのだ。
そうしているうちに横から妙案が出るのはいつものことで、俺はしぶしぶとパソコンに向き直るのであった。
その日の夜。
「ちょっと。ベッドで寝ながらお菓子食べないでくださいよ」
「いいだろ別に。俺のベッドなんだからよ」
夕飯を食べて風呂まで入った後だというのにベッドに寝転がってクッキーを食べていると、風呂上がりの三初がバカを見る目で見下ろしてきた。
「普通恋人がお泊りにきていてシャワー浴びてたら、ドキワクで待ってるもんじゃないんですか? 寝菓子って。おっさん道楽でしょ」
「うるっせぇな。おっさんがドキワクで待ってるほうがキモイだろうが」
「まぁおっさんが三段腹作成してるほうがキモイですよね」
「まだ腹は出てねぇわッ!」
そっぽを向き、ザラザラーと袋の中のクッキーを直接食べる。
袋だと食べにくいが、手を使うのはめんどくさい。
別に後輩の三初のほうが俺より頼りになるので、拗ねているわけじゃない。負けず嫌いの虫が疼いて、三初に若干つんけんしちまうとかそんなこともない。
「はーあ……どっかの誰かさんがそうやってズボラで食べるから、いっそそういうの作ればいいと思ったわけなんですけどね……」
「あ? なんか言ったか」
「別に」
「っおいっ!」
突然ヒョイっと手に持っていた袋を取られ、体を起こす間もなく胸を押さえてマウントを取られた。
ニマ、と笑みを浮かべた三初は、ベッドサイドにクッキーの袋を置いて、俺を見下ろす。
「いい加減オフィスじゃないんですから、ベッドでしかできないことしましょ」
「ふっ……」
言いながら胸に置いた手を滑らせ胸の突起をなでられると、思わず息が漏れた。
ズルい男だ。
悔しいけど、その気になっちまう。
断る気がないことが簡単にバレるのは癪なので、腕で少し赤くなった顔を隠して顔を逸らす。
「お……お前、もう少し考えてること、俺に言えよ。……確実性とか、なくていいからよ」
「ん?」
せっかくなので、オフィスじゃ言えないことを言った。
相棒で後輩の三初要ではなく、恋人の三初要だから言えることだ。
「あぁ、ね」
三初はきょとんと目を丸くしたが、すぐに片眉を上げて愉快気に笑った。俺の顎を手に取り、ぐっと顔を近づける。
「今、あんたをどうやって抱こうか考えてます」
「っそういうことは、言わなくていいんだよっ」
「そ?」
俺が真っ赤になって唸り声をあげると、三初はいっそう笑みを深めた。
クツクツとなんともまあ楽しそうにしやがって。
「んじゃ、仕事のことは明日言いますよ。今はプライベートだしね」
「けっ。プライベートでも言うことがあんじゃねーの?」
「先輩こそ」
「お前が言ったら言ってやる」
「いえいえ。ここはお先に」
「いやいや。お前が先に言え」
「いえいえ」
「いやいや」
お互い服を脱ぎながらアホな言い合いをしているうちに、いつも通りの夜が過ぎていく。
オフィスでもベッドでも、変わらないことが一つ。
「世界で一番かわいくねー」
「うるせぇな。さっさと抱けよ」
俺たちは〝好き〟の一言が言えない、残念な大人だということだ。
了
ツイッターに掲載した〝毎週末、長編作品から番外編を書く!〟というキャンペーンのSSでありますぞ。
番外編をお楽しみいただき、ありがとうございます(ペコリ)
感謝感激、雨木樫!
木樫
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