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番外編 眠り狂犬と暴君王子
01(side三初)
◆「いつも木樫の作品をお楽しみくださりありがとうございます」記念SS。
車で一時間程度の取引先と企画の流れについて話し合って、優先的にこちらに人員を回すよう書面を交わして帰ってきたある日。
時刻は昼休憩の最中だというのに、なぜか宣伝企画課のオフィスには、人っ子一人いなかった。
慌てて最後に出ていった竹本が青ざめていたのを不思議に思い、ドアの前で小首を傾げてみる。
いろいろと予想を立ててみたが、どれも三初が困るようなことではない。
それじゃあどうでもいいか、という思考の元、オフィス内に足を踏み入れた。
自分以外のなにかしらにしたいことを邪魔されることがほとんどないのが、三初という男である。
オフィス内に足を踏み入れると、特に変わったことはなかった。
ロッカーにトレンチコートをしまい、自分のデスクに戻る。
(……あぁ、なるほどね)
そこにあった光景で、すぐに現状の理由を理解した。
三初の隣のデスクの主──恋人である御割が、空いたデスクチェアーを並べて横になり、穏やかに寝息を立てていたのだ。
地顔が厳つくて眼光が鋭く、物言いがぶっきらぼうで乱暴な御割だが、こうして眠っていると威圧感が緩和されて恐ろしさはカケラもない。
けれどオフィスの人間にとっては、彼を不用意に起こして逆鱗に触れることのほうがよっぽど恐ろしいのだろう。
触らぬ狂犬に祟りなし。
さっさと外へ食事に行くのも無理はない。
三初からすればアホ面を晒した豆柴が眠っているようにしか見えないが、中身を抜けばドーベルマンの安眠か。
自分のデスクチェアーを引いて腰を下ろすと、ちょうど手を伸ばせば触れられる距離に御割の寝顔があった。
くるりと回転させ、正面からそれを見下ろす。
「ブッサイクだなー……」
一日の大半はシワが寄っている眉間が緩み、なんとも間抜けな寝顔だ。
しどけなく開いた唇は静かに呼吸をするだけで、三初の発言に文句をつけない。つまらないな。
三初はつまらなかったために、仕方なく、御割の手足を縛っておくことにした。
特に意味はない。
強いて言うなら御割が目覚めた時に驚き、混乱し、間抜けなポカン顔を晒した後、犯人に目星をつけて凶悪な顔つきで三初を睨むことがわかっているからだ。
デスクの引き出しから太めの輪ゴムを取り出し、御割の腕を取る。
これで両手の親指を一緒くたにしてデスクチェアーの裏でくくれば、立派な拘束となるのだ。
この程度でも、意外と動けないものでね。道具なんてなくてもいくらでもやりようはある。むしろ得意分野だ。
眠る御割と三初しかいないこのオフィスをガラス張りの壁越しに見て、一人で入ってくるような命知らずもいない。
「ま、あと三十分以上はあるし……当分誰も帰ってこないかな」
輪ゴムで縛るべく、クツクツと喉奥を愉快に鳴らしながら、腹の上で組んでいた御割の片腕を取る。
すると、御割がなにやら興味深いことを呻いた。
「ン……好き、だ……」
「うん?」
片手を握った状態で、ピタリと静止する。──まったく……いけない駄犬じゃないか。
その発言は誰か、なにか、どうしてかによって、この後の三初の動きが変わる分岐点だ。
御割は寝言が割と具体的で、言葉を返すと会話のように返してくることがあった。
なので三初は握った手にやわやわと指を絡めて恋人繋ぎにしてやりながら、その寝顔をじっと見つめる。
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