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第九章 おやくめ
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しおりを挟むじゃりじゃりと聞こえた足音に頭を上げると、豹馬くんが私に後藤さんの血が入った小瓶を差し出していた。
それを受け取って私は重い腰を上げる。
まずは一つずつ。着実に。
今の私にはそれだけ。
二つ連なった鬼の敷石を見れば、その近くで屈伸運動をする南天さんと肩を押さえて腕を回す玉彦がいる。
説得を試みる気なんて全くないその様子に、私と隠の二人はお互いを見合って苦笑いをした。
右の石に数滴。
左の石にも同じく。
動き出した敷石から視線を外さずに、後方へと下がる。
蔵人と雪之丞が入り口の前に陣取り、私と彼らの間に正武家の三人が立ちはだかる。
前回同様飛び出してきた隠は、入り口近くに居た雪之丞の大きな両手に叩き落とされ、地面が大きく揺れた。
出鼻を挫かれた双子の隠は抑え込んだ雪之丞の巨体の下で暴れていたけれど、蔵人が声を掛けると動きを止める。
その何とも呆気ない結果に、構えていた三人はそれを解いた。
「まずは話を聞け。二人とも」
蔵人が雪之丞に上から退けるように肩を叩き、自由になった双子は一度立ち上がってからドシンと座り込んだ。
僅かに大きい方を洲衛、小さい方を那衛と蔵人は呼んだ。
同じく座り込んだ蔵人の方に顔向けて、今のところは大人しく話を聞いては頷いている。
しばらくして蔵人が私を振り返り手招きをしたので駆け寄ると、私はそこでまた予想外の条件を提示されてしまった。
「二人揃って!?」
思わず大きな声になってしまう程、その条件は私にとって未知なもの。
双子は送られることを良しとしたものの、二人同時でなければ嫌だという。
そこで私は豹馬くんの元へ行き、可能なのか相談をしてみた。
だって中に入るのは相手の心の中だし、心って一人一人別々だ。
いくら身体が同じでも、普通に考えれば無理な話で。
二人で話し合っていると見るに見かねた南天さんが豹馬くんの肩を引いた。
「私が共に行きましょう」
思ってもいなかった申し出に、ハッとする。
南天さんは豹馬くんと同じに視える人だ。
しかも経験を積んでその力は彼よりも上である。
私ってばそんな南天さんを差し置いて、豹馬くんにばかり相談していたけど、正に周りが見えていなかった。
「でも共にって、どうやって……」
「点ではなく、面で視てください」
「上守、あれだ。鏡の時と同じやつだ」
相手の目を視るのではなく、全体像を捉える。
そうすればそこにいる者を一緒に同じ世界で補足することが出来る。と南天さんは言うけれど。
それって、ちょっと高度すぎない?
「やってみる価値はあります。御門森はその中でも動けます。豹馬ではまだそこに存在するだけで自在には動けないでしょう」
南天さんの言い分に豹馬くんは不服そうだったけれど、異議は唱えなかった。
そんな中、玉彦だけは薄気味悪いくらい何も言わない。
無表情で押し黙っている『玉彦様』だ。
私が失敗してしまった場合のシミュレーションをしているのだろう。
私は南天さんを連れて隠たちのところへ戻り、先ほどの条件を飲むことを伝えれば、そこにもう一人加えたいというのでもうどうにでもなれと私は許可をする。
双子があの世界で暴れたら困るので雪之丞が一緒に行くことに。
だったら南天さんはと思うけれど、こちら側とすれば隠三人の中に私一人だけという状況が宜しくない。
という訳で。
私は四人を同じ視界に捉えて、中へと飛び込んだ。
そこは幾何学模様の様々な色が混ざり合う世界で、パステル過ぎた。
四人もの世界が混ざり込めばこんなことになるんだ……。
パレットの上で絵の具を全部混ぜ合わせると最後には黒になる。
今は四人でこれだから、あと数人増えれば黒になるのかも。
そんな世界で一番最初に見つけたのは、南天さん。
彼には私がどこに居るのか判っていたかのようで真っ直ぐに走ってきた。
「南天さん!」
あぁ、もうこの安定した安心感を何て言ったら良いんだろう。
この世界で私以外に信用できる人間が存在出来ているだけでも奇跡だ。
駆け寄ってきた南天さんは足を止めずに私の手を取って進む。
「え、南天さん?」
「急ぎましょう。どうやら最悪の事態になっているようです」
「ええっ!?」
南天さんにはこの世界の中で何が起こっているのか把握できているようで、実際問題私よりも優れている。
二人で走ったその先に豆粒みたいな大きさの人影が見えてくる。
三つ巴で戦っているのだと判った時には、双子の片割れがこちらへと仕掛けに向かってきた。
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