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第十章 せいだく
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しおりを挟む垣根のところで相変わらず狐二匹はお行儀よく座っていた。
玉彦が玉子を取ってくる間、私は狐の前にしゃがみ込んで返事がないのを良いことに話し掛けていた。
「もしかして追い払ってくれてたの? 御倉神がそうしろっていったの? やっぱりドックフードより揚げが良いの?」
二匹は私を見つめるだけで、やっぱり何の反応もない。
名もなき神社の拝殿外で会った狐は、話しかければ尻尾を揺らしていたけれど。
「行くぞ、比和子」
片手にぶら下げた籠を軽く持ち上げて玉子を持ってきたアピールをする玉彦の頭には鶏小屋の藁が刺さっていた。
とりあえず面白いので言わないでおく。
「うん、ってこんなに持ってきちゃったの?」
籠の中を見るとどう数えても十個以上はある。
お祖父ちゃん家も今日は玉子を使うのに遠慮はないのだろうかと玉彦を見ると、まだ沢山あったという。
だったらまぁ大丈夫かと思うけど。
「久しぶりに南天のシュークリームが食べたい」
そう言いながら玉彦は垣根の狐の為に玉子を二個、エサ入れに割り入れた。
すると二匹は私の時の様に無反応ではなく、素早くエサ入れに頭を突っ込んだ。
何となく御倉神を彷彿とさせるんだけど。
立ち上がって帰ろうとする玉彦の後を追い掛けて、私は彼の左手を握る。
「私もシュークリーム作れるよ!」
通山で南天さんの様にふっくらとは膨らまなかったけど、ヒカルは美味しいって言ってくれたと玉彦に言えばもう一度、南天さんのが食べたいと言い切った。
それは少なからず私にショックを与えた。
よくバラエティー番組でやってるじゃない?
奥さんの料理よりも、お母さんの料理の方が美味しいって言っちゃう旦那。
私はまだ正武家で玉彦の為にお料理を出したことがないけど、何となく、何となくだけど先の展開が見えてきたように思えた。
私、神守の眼のこともだけど、その前に南天さんにお料理の弟子入りをしなくちゃならないんじゃないだろうか。
午後は久しぶりに南天さんとお菓子作り。
竜輝くんも豹馬くんも呼んで。そして亜由美ちゃんも!
お菓子作りを渋っていた豹馬くんは、先に亜由美ちゃんを呼び出していた私に白旗を上げていた。
日本家屋の正武家には似つかわしくないシステムキッチンで、私と亜由美ちゃんは小麦粉を振るいながら学校祭の話で盛り上がった。
玉彦と豹馬くんは重労働のクリーム作りだけど、彼らは手慣れたものですぐに終わらせて今朝の狩りについて話をすれば、豹馬くんも次は一緒に行きたいと言っていた。
そして南天さんは丁寧に竜輝くんに玉子の割り方や混ぜ方、分量などメモを取らせている。
もう既に稀人のお料理伝授が始まっていた。
シュー生地の焼き上がりをダイニングテーブルで待ちながら、私たち四人は学校祭の準備について話している。
もう既に準備は始まっていて、クラス展示をするクラスは作りかけの展示物を廊下に並べていたりしていた。
私たちは飲食系なので、机を並べてテーブルクロスを敷くだけ。
あとは教室内の飾りつけと二日前から食物調理室を借りてクッキーを焼く予定だ。
そしてメインである女装の衣装は各々が準備する組と腐女子二人組におまかせ組に分かれて、玉彦と豹馬くん、須藤くんは自分たちで準備する。
「で、何を着るの当日」
「振袖」
「巫女衣裳」
「は?」
「古い振袖が何着もある。染め直しもせぬものだから、汚れても構わぬだろう」
「オレは家にあるやつ。もう使わないって言ってたから貰った」
私と亜由美ちゃんは顔を見合わせて、多分同じ想像をした。
背の高い二人がそんな恰好をしたら、さぞかし迫力のある美人が出来上がるだろう。
髪形はどうするのかと聞けば、玉彦はそのままで豹馬くんは考え込んでまだ決めかねているようだ。
「須藤くんは?」
「アイツはキャバクラのお姉ちゃんみたいなドレスだよ。スゲーやつ」
豹馬くんがいうスゲーやつとはどんなものなのか想像できないけれど、そうなると切り落としてしまった須藤くんの長髪が悔やまれた。
今はさっぱりとツーブロックにしてしまっているし、どうするんだろう。
最初はあんなに男子は女装を渋っていたのに、いざ始まると皆結構楽しそうに準備していた。
販売に関しては2Cの女子が男子の学生服を借りてすることになっていて、そのやり取りも一役買っていた。
亜由美ちゃんは彼氏である豹馬くんに借りることになっていて、まぁそうだろうと思っていたけど、じゃあ玉彦は誰に貸してあげるのか聞いたら。
「誰も貸せと言ってこない」
だそうで。
私がいるからなのか、正武家に気を遣ってなのか、どうせ言っても断られると思っているのか。
たぶん全部なんだろう。
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