私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第十章 せいだく

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 私はごろりと仰向けになって、天井を見た。

 玉彦、本気で次の人を探しだしたらどうしよう……。
 神守の巫女の言葉を口にした際に、一度想像したあの光景を思い出して泣きたくなる。
 そ、そこは玉彦を信用しよう。
 でも、また同じことをしないように玉彦にしっかりと自覚してもらわなくてはならないんだ。
 自分がどれくらい影響力があって、それを実行してしまう力があるのか。
 正武家の玉彦様としての自覚は充分なんだろう。
 でもまだ、私に対して玉彦様と玉彦の曖昧な部分がある。
 出逢って四年だけれど、共に居るのはまだ数か月だから彼も落としどころが解ってないのかもしれない。

 恋愛って思ってたよりも難しい。
 好きってだけじゃ全然だめだ。
 しかもなんていうか、須藤くんのお母さんが前に言っていた正武家は身内を溺愛するっていう意味が解った気がする。
 玉彦は呆れる位に私のことを想っている。と思う。
 しかも私と中一の時に出逢って、その時にようやく恋だの愛だの自覚したっぽくて。
 中一にもなって身内以外の人間に好きという感情を持たなかったってのもある意味凄い。
 そんな彼が自分の感情に気がついて、私と共にって思ってくれたのは凄く嬉しいことだったし、私もそうありたいと思った。
 いや、思ったじゃなくって現在進行形で思っている。

 でも最近思うわけよ。
 玉彦は私に対して盲目過ぎるって。
 理性的な判断が下せていないって、感じるわけよ。
 他の女の子に目が行って欲しいわけじゃない。
 色々な物事において冷静であってほしい。
 若気の至りって言葉もあるけど、今回のことの様に取り返しがつかなくなるかもしれない言葉はそんなのじゃ済まされないのだ。

 そして私にも悪い部分はある。
 迷ってばかりいる。
 決断が出来ていない。
 学校のことは十一月末で通山に戻ると言っておいて、でも、と考える。
 進学だってそう。
 進学するのかしないのか、もう高二の後期に入るし、受験勉強だって考えればさっさと決断しなければならない。
 それに進学については玉彦とも話し合う必要がある。
 彼は大学に行く予定だし、その時から私には正武家に入れと言っていた。
 ということは、玉彦的には私の進学を視野には入れていない。
 でも、私のしたいようにすればいいとも言っていたわけで。

 結局のところ、決断出来ていない私が玉彦を振り回しているのかもしれない。
 だから不安になってあんなことを。
 いや、原因はどうあれさっきのは流石に許せない。

 堂々巡りな考えをしていれば、もうすっかり陽が落ちて夕餉の時間になっていた。
 私が居座る部屋にお布団を運んできてくれた宗祐さんが、夕餉はどこで摂るかと聞いてくれたので、出来れば宗祐さんと一緒か、この部屋でとお願いした。
 夕餉の席には玉彦も来るだろう。
 でも私は家出中。
 会うわけにはいかない。
 すると宗祐さんが、では一緒にいただきましょうと笑ってくれた。
 澄彦さんの食事が終わらないといけないから時間は遅くなると言われたけど、そんなの些細なことだ。

 そうしていつもよりも二時間ほど遅い夕餉を、澄彦さん側の母屋にある台所で頂いた。
 そこには宗祐さんと南天さんと私。
 そして夕餉が終わったはずの澄彦さんが缶ビールを呑んでいた。

「美味しい……」

 初めて食べた牡丹鍋は、頬っぺたが落ちるくらい美味しかった。
 季節に合った旬のものって、やっぱり食べ頃ってことで美味しいんだなぁ。
 三人でお鍋をつついていると、澄彦さんが私の隣に座って箸を伸ばす。

「澄彦さん、さっき食べたんですよね?」

「食べたけど! あんな無表情で落ち込む奴のいる葬式会場みたいな座敷で、旨いもへったくれもないよ。しかも個別の小鍋だし、僕はこう云う風にわいわい楽しく鍋は囲みたい!」

 澄彦さんの熱弁をスルーして、私ははふはふとお肉を頬張った。
 本当なら玉彦も一緒に狩りの話でも聞きながら食べるのがベストだったんだけど。

「いやー、それで比和子ちゃんはどうして家出してきたの? パパに、ほらお話してごらん?」

 澄彦さんは妙に上機嫌で、冷蔵庫から二本目のビールを取り出した。
 今晩はここで晩酌するらしい。

「別に大したことではないので」

「君は相変わらず嘘が下手だね。息子もそう。そしてこのデジャヴは四年前の比和子ちゃんと一緒だ。違うかい? 勝手に本殿へ君を上げてしまった息子への怒りに似ている」

 私はお茶碗を持ったまま南天さんを見れば、慌てて首を振る。
 そうだよ、南天さんはそんな余計なこと、澄彦さんに言うわけがない。
 そして玉彦も一々澄彦さんにそんなことを言わないだろうし、豹馬くんは面倒になって逃げているはずだ。
 ということは、澄彦さんの推測はかなり正確に状況を見極めて下されたものだ。
 私が箸を置けば、澄彦さんはやっぱりかと苦笑した。

「うん。息子には良い薬になったと思うよ。アイツはね正武家の者としての考えや判断はもう出来上がっているんだ。足りないのはね、人間として男としての清濁併せ呑む度量の大きさだよ。まぁ十七やそこらのひよっこにそこまでは親として求めていないけど、せめてスズカケノ池から琵琶湖くらいの大きさにはなってもらいたい」

 それってかなりな要求だと思います。

「で、まぁ。比和子ちゃんは一応成長したよね」

「何がですか?」

 いつの間にか澄彦さんはビールが終わって、日本酒に変わっている。
 私は徳利を彼の御猪口に傾けた。


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