私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第十章 せいだく

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「通山に帰るって言わなくなった!」

「……学校がありますから」

 それに最後の六不思議だって終わっていない。
 あと、さっき唐突に考えのピースが填まったことがある。

「澄彦さんって、かなりの策士ですよね」

「えっ? そう?」

「そもそも今回の始まりである小百合さんの件、あれって澄彦さんがきちんと厳しく後藤さんに命じれば帰っていたはずですよね?」

「うん、そうだね」

 澄彦さんは楽しそうに両肘をテーブルに乗せて、組んだ指先に顎を乗せた。

「六隠廻りは全くの偶然だったけれど、便乗しましたね?」

「えぇーそんなことないよぅ」

「私を鈴白村に長く滞在させて、玉彦の揺らぎの制御を試みた」

「いや、それは二人の意思だったでしょ?」

「それと神守の眼のこと。私が美山高校に通い出せば、お父さんの時みたく発現すると解っていたんじゃないですか?」

「確かに光一朗が神守の眼の一端の可能性を見せたのは高校生の時だね」

「あとは……」

 私が口にしようとすれば、澄彦さんは自分の唇に人差し指を一本当てた。

「僕は何もしていないよ。全ては君と息子の行動次第だった。そして結果だけが残った」

「……澄彦さん」

 この五村の地は正武家がそうあればいいと思ったことが、そうなるようになっている。
 惣領息子の思いでさえかなり影響があるのだ。
 だったら当主である澄彦さんの影響は計り知れない。
 私は玉彦の前に澄彦さんにこそ釘を刺しておかなければならなかったのだ。

「これからはそういきませんよ?」

「何の話かな? 僕は身に覚えがありません」

 無意識の思いが反映されるということを逆手に取って澄彦さんは自分の無罪を主張する。
 大人って、大人って汚いわー。
 私が膨れれば、澄彦さんはニヤリとして空の御猪口を差し出す。
 憎たらしいので半分しか注がなかった。

「過程はどうあれ結果が全て。だから君が正武家に来るという結果が決まっているので、僕は静観してる。つもり」

 つまりその結果が別のものになるなら、動くよってことか。

「澄彦さんはどうして私を正武家に迎え入れたいんですか。やっぱり私のお父さんが原因ですか」

「それは無いな。それじゃ僕がストーカーみたいじゃない。四年前ね、息子に惚稀人が現れたと報告を受けてそれはそれは驚いた。親の僕が言うのも何だけど、息子は感情が薄いというか起伏のない達観した憎らしい感じだったから、正直惚稀人を逃してしまうのではないかと思ってた。自分に関するものに対して執着心のない諦めが良過ぎる息子」

「澄彦様はその年頃、暴君でしたからなぁ。豹馬の言葉を借りるなら、俺様というのですな」

「そうですねぇ。私もよく巻き込まれました」

 私と澄彦さんの会話を黙って聞いていた宗祐さんと南天さんが、食事が終わって片付けをしながら参加してきた。
 二人の言葉に澄彦さんは不服気に片頬を膨らませたものの否定はしなかった。

「そんな僕とは正反対な息子が初めて執着心を見せたのが光一朗の娘の比和子ちゃんで、しかも惚稀人と来たもんだから正武家としては何としてでも君に息子の嫁として来て欲しかったんだ。光一郎の娘だからでもなく、惚稀人だからではなく、息子が初めて心から求めた女の子だったからね」

 私は何だか恥ずかしくなってきて、段々と顔が火照りだした。
 そんな私をよそに澄彦さんは口を尖らせる。

「僕に比べて物足りない息子に色々と嗾けてはみてたんだけど、ゆらりゆらりと躱していくんだよ、アイツ。でもね、そんな息子がね、僕がお祭りで鈴白に帰るって連絡したらね、初めて! この僕に初めて! お願いをしたんだ。自分の為じゃなく、他人の為に!」

 澄彦さんはその感動を思い出して、目を細めた。
 それは本当に嬉しそうで、宗祐さんもなぜか同じ表情をしていた。

「何をお願いしたんですかー」

 私は半分呆れながらも、感動して口を止めてしまった澄彦さんを促した。
 これはあれだ。
 親馬鹿の話を聞かなくてはいけないパターンだ。

「浴衣の反物だよ。しかも女性の! 小物も数点買ってくれって。買ってくれも何も息子の金から出すんだけど、あれは感動したよ。だから宗祐と一緒に沢山買い込んで急いで帰ったよ。なぁ?」

「えぇ。山ほどある中から、これは駄目だ、それは似合わないと大変そうでしたなぁ」

 二人はその光景を思い浮かべて涙ぐんでいた。
 私はちょっと引きつつ南天さんを見れば、彼は微笑んで。

「比和子さんがいらっしゃる前に、お菓子のレシピを見ては出来上がりの時間を確認して次の日のものを選ばれてましたよ」

 四年前の裏話を聞いて、私は小さくなった。
 私は玉彦との二人だけの世界しか見えていなかったけど、陰でこんなに皆が動いていただなんて考えてもいなかった。
 大人たちは私たちの成り行きを見守っていただなんて、恥ずかしすぎる。



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