エルフの王子と側近が恋仲になるまでの長い話

ちっこい虫ちゃん

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第1章 幼少期

22話 王子のその後①

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 大広間で客人3人が近寄ってきて子供の顔がはっきりと見えた時、レンドウィルは背中を冷たい何かが伝うのを感じた。なんだか、すごく嫌な予感がする。そしてその予感は大広間で父が子供をジハナと呼んだことで確信に変わった。

 あぁ、やっぱりジハナなんだ。

 そして彼が身に着けている青い布、それは王家に仕える者の証で、ネオニールのような王に近い人しか与えられない品だ。どうして、なぜ。ジハナは金細工師の息子だ、王家は商売相手であって、仕える相手じゃないはずなのに。


「レンドウィルよ、ジハナをお前の側近に任命した」
「……」
「えぇ~いいなぁ兄上、ずっとジハナと一緒?」


 やっぱり、そうなんだ。
 私はまだ25歳で子供だ。側近なんてまだ必要ない。私が一緒に居たいのは、ただの友達のジハナであって、従者のように私にかしずくジハナじゃない。
 エルウィンは気楽にとらえているけど、私には父が何を考えているのかさっぱりわからなかった。もしかして私だけだと頼りなくて側近をつけたくなった?私が、良い王子ではないから?


「父上、なぜ急に……」
「おまえももう25。そろそろ多くの事を知らねばならぬ。その助力は気心の知れたものの方がよかろう。ジハナ、挨拶を」
「レンドウィル王子、よろしくお願いいたします」


 せめて、せめてジハナが変わらないでいてくれたら、そんな淡い希望もジハナの丁寧な言葉遣いの前に崩れ去る。ジハナお前、そんな話し方、できたの。私は現実が受け止めきれずに、ジハナの退出の挨拶にも上の空で返事をしたのだった。


 母に促されて自室に戻り、話をしたがる弟たちには「明日話すから」と言い訳して自室の扉を閉めて1人になる。

 ベッドに飛び込んで枕とブランケットを抱き込んでうつぶせになる。あんなのジハナじゃなかった。キラキラした装飾品をつけて、髪も服も話し方まで変わってしまって。今までずっと土まみれでへらへら笑っていただけの子供だったのに。

 父やネオニールになにか言われたんだろうか。父上やネオニールに側近になるよう言われたら断れなかったに決まっている。もしかしたら、側近だってやりたくなかったかもしれない。だってあんなに自由で遊ぶことが好きなジハナが仕事、ましてや側近なんてやりたがる訳がないじゃないか!
 もし、ジハナを無理やり側近として私の傍に縛り付けてしまったのだとしたら?私が頼りない王子のせいで?嫌われてしまったらどうしよう。

 父上の考えも、ジハナの感情もわからない事ばかりで、行き場のない感情が渦巻き、涙にかわる。私は枕に顔を埋めてぐすぐすと泣いていた。







「レンドウィル?」


 ふと、自分を呼ぶ声がして目を覚ます。ジハナがベッドの横に立っていた。
 部屋の扉は閉まったままで、きっといつもみたいに窓から入って来たんだろう。すっかり外は暗くなっていて、夕飯を食べ損ねたことに気が付く。ジハナは湯浴みの後なのか、白いローブ姿であの忌々しい青い布は着けていなかった。


「ジハナ……私、寝ちゃってたんだね」
「ごめん、体調悪い?なんか、」


 私の顔を覗き込んでそこまで言うとジハナは言葉を区切る。
 じっとこちらを見つめる強い視線に目をそらすと、ジハナは気まずそうに聞いた。


「……泣いてたの?もしかして、俺が側近になるの、嫌だった?」
「わかんない。今までが楽しかったから、変わるのが嫌なのかも。ジハナは……ジハナは側近になりたかった?」
「俺?俺は別に」
「父上に言われたから?」
「……あぁ、無理矢理やらされてないか心配なんだな。大丈夫だよ」
「私の事、嫌いになってない?」
「なるわけない。レンドウィルが言ったんだろ、王様になっても遊ぼうねって」
「うん……でも、側近になったら私のこと嫌になるかも。私、いい王子じゃないんだ。ジハナは知らないだろうけど、勉強とか、本当はアイニェンの方が得意だし、馬に乗るのはエルウィンの方が上手で私は下手っぴだし、それに、それに」
「なんだ、今日のレンドウィルは随分自分の悪口言うなぁ」


 ジハナは寝転がったままの私の隣に座ると私の手を握った。


「勉強は、たぶん俺もできないけど、乗馬だったら馬と仲良くできるように話してやるし、手伝うよ。側近って、なんでも手伝う友達みたいなもんだろ」


 繋いだ手を引っ張るとジハナは私のいるほうに倒れこむ。うわ、とジハナが苦笑いして、寂しんぼか?と茶化した。
 ジハナが近くに来たことで、彼から他の大勢のエルフと同じような品の良い香油の香りがすることに気が付いた。いつも森のやさしい草花の香りがしていたジハナが変わってしまうことにモヤモヤとして、それでも彼の髪にまだ絡んでいる箇所があるのを見つけて安心する。


「髪、前のほうが好きだった」
「ぼさぼさなのに?あは、レンドウィルって変わってる」
「ほんとだよ」
「でも、みんな変だっていうからさ。レンドウィルの隣にいるならしっかりしないとって、流石のジハナ君も思ったわけですよ」


 ジハナが髪をつまみながら「大変身で、驚くと思ったんだけどなぁ」と呟いた。


「レンドウィルは髪長いの好き?」
「髪?べつに、特に好きとかないけど」
「ふぅん。でもレンドウィルは髪伸ばしてるだろ?」
「これは伝統だから、好きとかじゃないんだよ」
「なんだ、そうなのかぁ。いつも金細工みたいに綺麗にしてるから、すごく気にしてるのかと思った」


 しばらく私たちはベッドの上をごろごろしながら今後のことについて話した。大半は私が弱音を吐いて、ジハナが励ますような感じだったけど。しばらく話し込んでいるうちにジハナがうとうとし始めた。


「眠いの?」
「……うん」
「いつもと違うことしたから、疲れたんだね」
「そうかも」
「今日はここで寝ちゃえば?」
「いいの?」
「うん、毎日でもいいくらい」
「……へへ」


 へらぁっと笑い合って2人でブランケットを被った。眠そうなジハナの頭を撫でるとにこりと笑って私にくっついてくる。あぁ、かわいい。どんな変わってしまっても、ジハナと一緒にいられれば幸せなんだなぁなんて思って、私も目を閉じる。たくさん寝たはずなのに2人でいると温かく、意識が遠のいてって……

 そしてとうとう意識を手放そうとした時、ノックもなしにバンと勢いよく部屋の扉が開かれ私もジハナも強制的に現実に戻されたのだった。
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