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第9章 魔法騎士団本部にて

118★異世界での甘ぁ~い朝

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 魔法師団本部で、エリカを含む聖女候補全員が迎えた朝。
 エリカが、アルファードと一緒のベッドで目覚めた、その頃。

 それは、かなり恥ずかしい目覚めだったりする。

 エリカの眼に、朝の光りと共に、銀髪の美少年アルファードの花の顔(かんばせ)が、突き刺さる。
 ある種の視覚の暴力とも言える。

 甘く蕩けるような微笑を浮かべたアルファードの優しい声で、エリカは朝一のとどめを刺される。

 「おはよう、エリカ、眼が覚めたか?」

 その耳に心地よい声にくらくらしながら、エリカは頬をうっすらと紅く染めていく。

 〔はうぅ~…朝から美少年の微笑みと優しい声
 そして、これって無意識にだよね、アル?
 頬や額や唇に触れるキスなんて…………

 いっくら、お兄ちゃんやパパでかなりな美形に
 慣れている私でも、心臓がバクバクいっちゃう
 萌え死んじゃいそうなんですけど〕

 だから、言葉を思うように返せずに、エリカは恥ずかしそうに朝の挨拶を返す。

 「うっうん…お…おはよう…アル……」

 頬を紅く染める初々しいエリカに、アルファードはくらくらしてしまう。

 〔はぁぁ~……可愛い、可憐で可愛い
 本当に、なんて可愛いんだエリカは

 このまま押し倒して、今すぐにでも
 俺のモノにしたくなってしまう

 でも、我慢だ俺

 まだ、婚約式を終えていないのに
 関係を持つコトは出来ないんだから……

 エリカは、俺の正妃なんだから…………
 婚約式前の妊娠は不味い…我慢だ…〕

 内心では、かなり危ない葛藤をしているアルファードだったが…………。
 これでも、全ての騎士達の頂点に立つ男、魔法騎士団の団長として、立派に仕事をこなしていたので、その時に覚えたポーカーフェイスで内心を誤魔化して、話し掛ける。

 「クスクス……今日もシャワーを浴びたら
 俺が、エリカの髪を結ってあげるからね」

 髪を結うという行為が持つ意味を、今はエリカも知っていることわかっていながら、自己主張したいアルファードはにっこり笑って言う。
 言外に逆らっても、無駄だよと言いながら……。
 それに対して、エリカは抵抗しなかった。
 
 〔髪を結う意味は聞いて判ったけど
 なんかもう、今更それを止める気は無いわ
 だって、アルのこと好きだモン

 それに、みんなみたいに婚活をしたくない
 っていう、打算もあるんだよね
 だって、売れ残りになるのはイヤだもん

 それに、アルを他の誰かに取られるのは
 もっとイヤなの

 アルは、誰とも比べずにエリカ自身を見て
 初めてプロポーズしてくれた人なんだもん

 このドラゴニア帝国の皇太子で、全ての
 騎士達のトップの男
 地位も名誉も権力もある超絶美形なんだから

 こんな優良物件を捨てるなんて、馬鹿なコト
 できないよ

 だって、チビでぽっちゃりでブスで地味な
 エリカを好きなんて物好きはアルだけだもんね
 ここはにっこり笑って言ってあげないとね

 なんか、こんなに出来る男なのに、エリカに
 対しては、自信が無いみたいだし…………
 なんでなんだろうなぁ?〕

 「ありがとう、アル…今日もお願いします」

 自分に自信の無いエリカは内心の苦悩を隠して、恥ずかしそうに笑う。
 性的なコトを一切しないとは言え、年頃の男女が同じベッドで眠っているのだ。
 自然と結婚する相手とお互いを見なして、心の距離を縮めて愛情を増していく。
 そして、アルファードは、望んだ言葉を貰って微笑む。

 「クスクス…昨日とは違う髪形にしてあげるよ」

 とても嬉しそうに言うアルファードに、エリカは小首を傾げて、笑って言う。

 「楽しみにしてるね」

 「ああ、まかせてくれ」

 エリカとアルファードはくすくすと笑いあい、ベッドから降りるはずだったが…………。
 アルファードは、エリカをひょいっと軽々と抱き上げて浴室に向かう。
 見掛けが美少年でも、そこはドラゴニアンなので、余裕しゃくしゃくで揺るぎ1つなく歩いて行く。

 そして、ドアの前でエリカを降ろすと頬に口付けして、もう1つある簡易な浴室に向かった。
 その後姿を見送ったエリカは、真っ赤になって熱を帯びた頬を思いっきりつねる。
 痛みで目に涙を湛えながら小さく呟く。

 「ここは、本当に異世界なんだなぁ~……
 私が皇子様の恋人なんだもん

 アルが、悪趣味でよかったなぁ…………
 さぁーてと、シャワーを浴びたら
 朝ご飯の用意をしようっと

 なんと言っても 男は胃袋だもんね
 美味しいご飯をアルに食べさせて
 もっと、私を好きになって欲しいな」

 そう呟いたエリカは、気を取り直して浴室に入った。

 エリカが浴室でのほほんとシャワーを浴びている、その頃。
 美少年でも、立派な成人男性のアルファードは、男の事情に対処していた。
 そう、右手のお世話になっていたのだ。

 エリカに性的な雰囲気を感じさせたら、引かれてしまうとわかっているアルファードは、オスとしての欲望を必死で隠していたりする。
 なんと言っても、見掛けは美少年でも、ドラゴニアンとしてはきちんと成長しているので…………。

 〔はぁ~エリカと出会ってから
 性的に興奮して立ってしまうのを
 押さえるのに苦労しているなぁ……

 今までは魔物討伐をするだけで
 すっきりしていたのに……

 好きな女が出来ると、変わってしまうって
 本当なんだなぁ~……

 ああ、早くエリカを抱きたいなぁ~……
 我慢が辛い…でも…まだ婚約式すら
 していないからなぁ……はぁ~……
 ここは、我慢するしかないよなぁ……〕

 今までお世話になっていなかった右手で、アルファードはエリカを思ってさっさと欲望を吐き出す。
 早くシャワーを終えて、エリカの身繕いを手伝いたいと思っているから。

 恋する男として頑張るアルファードの辛い楽屋裏を、エリカは知らなかった。
 勿論、そんな姿を見せる気が無いアルファードの努力は、まだまだこれからしばらくは続くのだった。






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