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086★お迎えが来ちゃいました

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 たぶんに、シアを心配してのお迎えとわかる騎士団を率いるのは、イリスことメラルク副団長だったりする。
 それを視ているガッちゃんが、神殿に近づく集団の詳細を口にする。

 「騎士団員の数は全部で12人
  女の人がリーダーのようです」

 ガッちゃんの言葉に、シアは直ぐにそれがイリスであるコトを知り、ちょっと肩の力が抜けてしまう。
 が、直ぐにこの場所から元の場所へと戻らなければならないコトに気付く。

 勿論、それに気付いたライムも、ジオンもハッとする。
 フリードもコウちゃんもガッちゃんも慌ててしまう。
 当然、あちこちに嵌め込んだ魔晶石の回収へと走ろうとするところに、シアが言う。

 「えっとね…この水晶柱の中に入って」
  あっちに移動してからでも
  魔晶石の回収はできるよ

  っていうか、ソレはずしちゃうと
  移動出来ないから………」

 シアの言葉に、全員が納得して、取り敢えず第9の水晶柱の中に入る。
 勿論、広げた扇と紫色の魔晶石は回収してインベントリへと放り込んでいたのは言うまでも無い。

 シュインっという音と同時に、観音開きの出入り口がある空間へと戻った途端、ライム、ジオン、フリードは、魔晶石の回収へと走った。
 その間に、コウちゃんとガッちゃんはシアの肩へと飛び移り、その腕の中に居る赤子を隠す為の透過の術を発動させる。
 勿論、自分達も透過の術で姿を消す。

 「シアさん、しばらくの間
  僕とコウでその赤子の存在を
  人目から隠します」

 「大丈夫、俺達の透過術は
  生半可なやつらには
  見破られないから………

  あんたは、その赤子を
  落とさないように
  しっかりと抱いているだけで良い」

 「認識変化もかけますから
  赤子を抱っこしていても
  不思議に思いませんから
  大丈夫ですよ」

 と、交互に言われたシアは、その肩に乗るコウちゃんとガッちゃんのふこふこもふもふの感触についつい頬を緩めて、顔をほころばせる。
 その間に、12個の魔晶石を回収して、ライム、ジオン、フリードはシアの側に戻って来る。

 「どう? ガッちゃん」

 外の様子を聞くライムに、ガッちゃんは答える。
 ちなみに、透過術をかけていようとライムにはきちんと見えていたりする。

 「うん、もう少しで観音扉の前だね
  思ったよりも到着が早いよ」

 そんなやりとりの直後に、観音扉から異音が響く。

 『まだ開かないのか?』

 『もう少し待って下さい
   メラルク副団長』

 『この扉を開けるには
  結構な魔力量が必要なんです』

 『澄んだ音が響いたら
  スゥーッと開きますから』

 という、神殿の観音開きの扉の外側での会話が流れて来る。
 シアは不思議そうに言う。

 「そんなに扉を開くのに
  魔力量って必要なのかな?

  確かに、ズルズルズルッて
  魔力を吸われる感覚はあったけど」

 のほほんとそう言うシアに、ライムはついつい観音扉に触れた時に感じた拒絶感?のようなモノを感じた、自分の手を見てしまう。

 「取り敢えず、その赤子は
  他人には見え無いんだろう
  なら、扉の前に移動しようか」

 ジオンは、この《牢縛の神殿》に来るまでの間、声と力の全てを封印されていたコトを綺麗さっぱりと忘れて、当然のようにシアの腰を抱いて移動し始める。
 ちなみにこの間、コウちゃんガッちゃんは細心の注意を払って、シアの肩の上で、その腕の中にいる赤子を認識出来ないように透過術を施していたりする。
 そんな中、そのコトにいち早く気付いたライムが言う。

 「そう言えば、ジオンは
  ここに来た時は

  まだ呪詛の見えない鎖に呪縛されて
  声も出せない状態だったわね

  それを、この神殿の中で
  解呪したコトにしちゃいなさい

  アレを説明するには
  シアの与えられた能力とか

  コウちゃんやガッちゃん
  それに、私のコトも
  説明をしないとならないから」

 面倒事はイヤでしょう?というライムに、全員が頷く。

 「そうね、そういうコトに
  しちゃいましょう

  神殿の祭壇のところで
  何か光が降って来て

  呪い?が解けたってコトに
  しちゃえば良いわよね

  ジオン、それで良い?」

 そう問われたジオンは、シアに頷く。

 「ああ、それで良い
  ライム、あんたはどうする?」

 ジオンの質問に、シアとフリードを見てから小首を傾げて言う。

 「そうね、適当な魔物……
  魔狐にでも追いかけられて
  偶然、この神殿に着いて
  シア達と合流したコトにするわ」

 「んじゃ、それで行くか」

 という会話をしている間に、澄んだ音が響いて、観音開きの扉が外側から開いた。
 ちなみに、そんな会話が外に漏れないように、ライムは遮音の魔法をかけていたコトは言うまでも無い。

 扉が開くと同時に、イリスが飛び込んで来る。
 そうすると、ついつい条件反射でシアの前に達、身構えてしまうジオンである。
 いや、赤子を抱いているので、抱き付かれるのは不味い為に、敢えて知らぬふりをしてそうしたのだが………。

 「………っ……」

 迎撃態勢のジオンの前に飛び出し、イリスは息を飲む。
 そんな中、ライムが声を掛ける。

 「ちょっとジオン、警戒し過ぎだよ
  その制服って、魔の森側の門を守る
  騎士団の服だから………

  まして、女性に剣を向けるのは
  流石にダメでしょう

  いっくらシアが大事だからって………」

 という、軽い声に、ジオンの嘆息が零れる。

 「なんだ、あんたか………
  確か、 メラルク副団長だっけ

  済まなかった、シアめがけて
  飛び込んで来たんで
  勝手に身体が動いた」

 そう言って、ジオンが剣を納めると、シアがちょっとオドオドしながら顔を出す。

 「イリスさん?
  もうそんな時間に
  なっているんですか?」

 そう言って、イリスの背後の外を見れば、既に夕闇が迫っていた。

 「すみません、この神殿の中って
  全然時間間隔がわからなくて………

  じゃなくて、聞いて下さいイリスさん
  ジオンの呪縛が解けたんですよ

  ここの奥の祭壇の前に立ったら
  なんか物凄いキラキラした
  金粉や銀粉みたいなモノが舞って

  光がさぁーって降り注いだら
  ジオンが喋れるようになったんです

  ああいうのって、世に言う祝福って
  言うモノなんでしょうか?」

 と、のほほんと言うシアに、イリスは肩の力が抜けるのを感じて嘆息する。
 当然、他の11人もほっとして肩の力を抜く。
 そんな中、イリスが言う。

 「そうか、良かったな、シア
  それじゃ、今日はもう帰ろうな
  既に時間的に不味いからな

  そんで、そちらのお嬢さんは?」

 そう問いかけられて、ライムはシレッと答える。

 「あっライムって言います
  冒険者してます

  魔狐に追われちゃって
  ココにたどり着きました

  でも、こんな所につい最近まで
  神殿なんてありませんでしたよね

  そこのジオンさんに魔狐を
  追い払って貰ったんで………

  ダンジョン経験あるから
  一緒に探索付き合ってました

  流石に魔狐に追われた後に
  ひとりで戻るのはちょっと………」

 と、もっともらしく言えば、騎士団員達はなるほどと納得してくれる。
 いや、ライムの天使シリーズで強調された、ボンッキュッボンッに目が釘付けになっていたりもする。
 そこで、イリスは気付く、シアの姿が男装から天使シリーズへと変わっているコトに………。

 「ところでシア
  その姿だが………」

 イリスに指摘されたシアは、ちょっと恥ずかしそうに、うっすい胸元を隠すように、胸元前で腕を組んで答える。
 ちなみに、赤子は透過術で見えていないので、騎士団員達はその姿を恥ずかしがっていると思っている。

 「魔の森側に来るのに
  軽装過ぎるって怒られた後に
  ライムさんに貰いました」

 シアの言葉に、ライムはサラッと言う。

 「魔狐を追い払ってもらたし
  門まで送ってもらうコトに
  なっているからね

  それに、あんな姿じゃ
  危なっかしくて………

  予備は幾つもあるから
  これぐらいはね

  ああ、私の身元を知りたいなら
  【ホワイトファング】の
  人達にでも聞いて下さい

  今日は、午前中を一緒に
  行動してましたから………」

 てへぺろっという雰囲気で言うライムに、イリスはちょっと不可解そうな表情はしたものの、頷く。

 「了解した」

 その間にも、何かの遠吠えが響く。
 それに舌打ちし、イリスは言う。

 「取り敢えず、帰るぞ
  夜間は魔物が活発に蠢くからな

  もう、夕闇が直ぐそこまで
  迫っている

  魔狐が出たというならなおさらだ
  アレは、夜になると昼間の10倍も
  力を発揮する魔獣だからな

  お前達も準備は良いか?
  さっさとフォレンに帰還するぞ」

 『はいっメラルク副団長』

 声をハモるほど揃った返事をして、騎士団員達は周囲を警戒する。
 ここに来るまでは、魔獣に出会うコトは無かったが、たった今聞こえた響き渡る遠吠えと咆哮に気を引き締めたのだ。
 そんな中、ジオンがライムに言う。

 「ライム、悪いが
  シアの側に居てくれ

  俺はちょっと覇気で
  周辺の魔獣達を威圧してくる

  安全に帰還したいからな

  えっと、メラルク副団長
  それとあんたらも腹に力入れてろよ」

 そう言って、ジオンはシアから離れ、開いた観音扉を潜り、外に出た途端、シャッと剣を抜いて大地に突き刺しながら、普段は綺麗に抑えている覇気を解放する。

 ただし、長い間呪縛され、封印されていた後なので、加減がわからなかったジオンは、ちょっとすっきりする程の覇気を放ったので、あちこちに迷惑をかけたコトは言うまでも無い。

 久しぶりの解放に、ふっと嘆息したジオンは、スッと抜き放った剣を元に戻し、軽く首を振る。

 「取り敢えず、これで帰還の道中
  魔獣に襲われるコトはないだろう

  シア、フリード、宿屋に帰ろう
  ライム、あんたも一緒に行くだろう」

 ジオンの言葉に、ライムも頷く。

 「そうさせてもらうわ
  ね、メラルク副団長?」

 ちょっと頭が痛いという風にこめかみを押さえてから、小さな声で呟く。

 「まっ…私の知ったコトではないな
  たまには、あいつらも苦労すれば良い

  シア(主)を大事に思う
  ジオンのお陰で、楽に帰途に着けるな」

 大きく息を吐いてから、イリスは号令する。

 「全員、帰還する
  彼のお陰で、魔獣の出現は
  極限まで抑えられた

  今のうちに戻るぞ」

 『はいっ』

 「それじゃ行こうか、シア
  それと、ジオンにフリード

  冒険者ライムさん

  安全だとは思うが
  油断なく帰ろう」

 「はぁーい、みんな帰ろうねぇ」

 シアの言葉に、フリードが応じる。

 「はぁ~い、まま」

 ジオンはというと、シアをひょいと抱き上げて言う。

 「そうだな、もう暗いから
  足元もおぼつかないだろう

  シアが転んだりして
  メラルク副団長達の
  足手纏いになったら困るだろう

  素直に抱えられてくれ」

 そう言って、シアを片腕で軽々と縦抱っこする。
 その隣り、シア側につつっとライムとフリードが立つ。

 「シアって危なっかしいもんね」

 「うん、ままを守る」

 その様子を確認し、イリスは冒険者始まりの街フォレンへと出発した。










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