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藍染龍也の執着
しおりを挟む翌日から、藍染龍也の歌姫への執着が始まった。
その理由は至極簡単なモノだった。
そう、龍也は女ならば、誰もが自分の寵愛を望むモノと自他共に認識していた。
その龍也が、微笑みと共に甘い声音で誘っても、歌姫・麗羅はいっこうになびかないからである。
まぁ…なびかないのは当たり前なのだが………。
単に、男装の麗人を装っているだけで、その歌姫の中身は、立派な男の性を持った勇馬なのだから…………。
龍也からの、告白されたり、モーションをかけられたりしても、ただただ気持ち悪いだけで、嬉しくもなんとも無いのは事実だった。
しかし、それを知らない龍也は、堕ちない歌姫に焦れた。
今までなら、自分の持つ財力や容姿に引かれて、気に入った相手は、龍也が声をかければ、いとも容易く堕ちたのだから…………。
ところが、今回の歌姫・麗羅は、いっこうになびかないどころか、側に寄ることすらしないのである。
モーションをかけても、冷めた感じの妖艶な流し目の一瞥だけである。
そんな冷めた一瞥は、龍也にとっては流し目かもしれないが、勇馬は単にあからさまな視線を向けないように、見ていただけのことたった。
その勇馬の内心は『また、来ているのか』ぐらいのものだった。
まさか、自分の視線が、妖艶な流し目に見えているとは知らない、勇馬に罪は無い。
そんな訳で、いっこうになびかない歌姫・麗羅に焦れた龍也は、奥の手を使うことにした。
そう、その奥の手とは、相手の意思を考慮せず、さっさと押し倒すことだった。
ようするに、強姦である。
そう、それはとても汚い性犯罪である。
しかし、龍也には、どんなことになろうと、まわりを簡単に黙らせることが出来ると考えていた。
大概は、どんなに騒ごうと、札束を出せば大抵のことは無かったことに出来た。
金の力は、偉大なりである。
今までに、奥の手で押し倒した相手は、全て金で解決している。
脅迫などで、脅したことすらないのだ。
もっとも、龍也は相手に恨まれたことはない。
女に関しては、最初が強姦であろうと、その腕で快楽に乱れ狂わせ、相手の心まで堕とすからだ。
それ故に、藍染龍也は、彼は失態を起こすことになる。
勇馬は、何時ものように、十二時を過ぎた頃、バイト先の店を出た。
勿論、裏口の従業員用のドアから………。
「君、ロアンの歌姫・麗羅さん
俺と、付き合ってくれませんか?」
裏口のドアから出た途端に、勇馬は声をかけられてギクッとする。
〔やっべぇー……急いでいたセイで……
うわぁぁ~…今日は、化粧を落としてない
……っ…ピアスも着けたままだった………
ちっ…しらばっくれらんねぇーな〕
勇馬は、一瞬ビクッとして、そう思いながらも、気持ち的に開き直って、声の主の方を振り返る。
そして、その顔を確認する。
〔……っ…先週から通っているヤツかよ……
ったく…はっきりと、断っただろぉ~が……
本当に、物好きなヤツだな……はぁ~……
これは、逃げた方が良さそうだな〕
誰かを理解した上で、勇馬はそ知らぬふりで言う。
「どなたですか?
私は、誰とも付き合うつもりはありません
失礼しますっ」
勇馬は、そう言い放つと共に、とりあえず、自分の意思をきっぱりと言い放ってから、後も見ずに、一目散に駆け出す。
背後で、龍也が呼び止めの声をかけるが、勇馬はそれを無視して、ひたすら統峰学園の男子寮に向かって走り続けた。
その後姿を、ただ見送るしかできなかった龍也は、小さく舌打ちして、自分のミスを確認する為に回想する。
〔歌姫がバイトを上がる前に、ここに……
店の裏口のドアの前で待機していたのに
出て来た、歌姫の腕を掴まえたのに……
あっさりと、外されるなんて………
あげくに、告白は空振りか…………
クッ……この俺が…捉えられなかった…〕
そう、龍也は、勇馬の腕を捕らえて、真正面から告白したのだ。
が、そう言う感情を持ち合わせていない勇馬は、龍也の告白を聞かなかったふりをして、その手を振り切って逃げたのだ。
龍也が、再度、自分と付き合って欲しいと訴える前に…………。
〔……口惜しい……だが…だからこそ……
彼女が…歌姫・麗羅が…欲しい
俺の財力や容姿に興味を示さない…彼女が…〕
龍也が、もう一度その手首を掴もうとした時には『失礼しますっ』と言う言葉と共に、走り出していた為に、その伸ばした手は空を虚しく掴んでいた。
〔振り払われた手首を、掴まえられなかった
あまりにも動作が速くて…………〕
龍也が、口を開こうとして時には、既に十メートルは離れていた。
放たれた矢のように走り抜けた勇馬との距離に、龍也は舌打ちしてから、大きく溜め息を吐いた。
そして、そのあっという間に遠ざかる歌姫の後姿を見詰めながら首を振る。
〔明日は、定休日だから来ないな……
はぁ~……なかなか…堅いな……
歌姫を捕らえはぐった…残念………
しょうがない、今日は引きあげるか〕
龍也は、麗羅のお断りは、店に対する建前だと思っていたのだ。
だから、店外で声をかければ、簡単に自分の腕の中に歌姫が堕ちると思っていたのだ。
その予想や見込みは、見事にハズされた龍也であった。
シーンと静まり返る裏路地を見詰め、龍也は頭を振る。
その長い艶やかな黒髪がユラリと生き物のように揺れた。
〔確か…もうそろそろ報告が来るはず……
これで、歌姫の素性が判るはずだ〕
内心で、そう呟く。
そして、逃げられた口惜しさに憤る自分を無理矢理なだめて、いったん引くことにした龍也であった。
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