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第2章「秋」
4.ひつじ雲・イン・トラブル(4)
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「う、うわぁ……なんだか凄まじい剣幕だったね、星野さん……」
屋上のフェンスに寄りかかって、夕焼けに染まる空を見上げた。隣に立つ陽菜が口を開く。
「それに、すっごい思い込みの激しさだよねー」
と言って陽菜は苦笑しながら、両手のひらを空に向けて肩をすくめてみせた。
「ヤレヤレ、参ったな」と苦笑交じりに言う大地。私はその脇腹をグリグリと肘でつついた。
「ったく、もー! いきなり何だったのあれ。全然意味わかんない!」
「いやあ、すまん。俺も詳しいことは知らないんだ。ただ星野が澪に会いたがってるって聞かされただけで……」
要するに大地は、星野さんに私たちがどこにいるのか尋ねられ、案内しただけだったようだ。星野さんは私に会うために理科室までやって来たけどもぬけのからで、すぐとなりの理科室を使っている理科部に駆け込んだというだけのことだった。
「ーーやっぱり羽合先生、すごい人気なんですね。2年生の女の子からも……」
私がわざと寂しそうな声でそう話しかけると、羽合先生は申し訳なさそうに頭を掻いた。
先生は先生で、生徒会長に選ばれた結が天文部に来ると聞かされていただけで、それ以上の詳しい事情は知らされていなかったようだった。
「星野は努力家でね、目的のためなら手段を選ばないタイプなんだ。でも根は悪い子じゃないよ。ただ、強烈な不運体質でさ。誤解を招きやすいんだろうな」
羽合先生はクラス担任だから、彼女のことをよく理解しているようだ。確かに生徒会長に選ばれるには、相当の努力が必要だろう。もっとも、結のドジっぷりは今日の出来事で十分すぎるほど分かったけどね。
ふと空を見上げると、夕焼けに染まった秋空が広がっていた。オレンジ色から青へとグラデーションを描くその大空に、ひつじ雲の群れがゆったりと浮かんでいる。
――羽合先生から見れば、私なんて生徒の中の一人でしかないのかな。
ひとつひとつ形の違うひつじ雲。太陽の光に照らされ方も、影の落ち具合も、それぞれ微妙に異なっている。ぼんやりとその違いを見つめていたら、ふと寂しさがよぎった。そんな私に気づいたのか、羽合先生が不思議そうな顔で首を傾げる。
「ん? どうしたの?」
優しい微笑みを向けられ、胸がぎゅうと締め付けられた気がした。
私と同じように、羽合先生を慕う子は星野さんだけじゃないはず。先生にとって、私が特別な存在になれるなんて……きっと叶わぬ夢なのだろう。そう思いながら、遠くの空に視線を向けた。
「あ、そういえば……コンテストのこと、聞くの忘れてた」
強力なライバル出現というわけでもないのに、私の不安は顔に出ていたみたいだ。気づいた陽菜が「彼女とは日曜日にまた、会うね」と長い髪を耳にかけて笑った。
「うん、そうだね……」
そう言って、私も表情を緩めた。
屋上のフェンスに寄りかかって、夕焼けに染まる空を見上げた。隣に立つ陽菜が口を開く。
「それに、すっごい思い込みの激しさだよねー」
と言って陽菜は苦笑しながら、両手のひらを空に向けて肩をすくめてみせた。
「ヤレヤレ、参ったな」と苦笑交じりに言う大地。私はその脇腹をグリグリと肘でつついた。
「ったく、もー! いきなり何だったのあれ。全然意味わかんない!」
「いやあ、すまん。俺も詳しいことは知らないんだ。ただ星野が澪に会いたがってるって聞かされただけで……」
要するに大地は、星野さんに私たちがどこにいるのか尋ねられ、案内しただけだったようだ。星野さんは私に会うために理科室までやって来たけどもぬけのからで、すぐとなりの理科室を使っている理科部に駆け込んだというだけのことだった。
「ーーやっぱり羽合先生、すごい人気なんですね。2年生の女の子からも……」
私がわざと寂しそうな声でそう話しかけると、羽合先生は申し訳なさそうに頭を掻いた。
先生は先生で、生徒会長に選ばれた結が天文部に来ると聞かされていただけで、それ以上の詳しい事情は知らされていなかったようだった。
「星野は努力家でね、目的のためなら手段を選ばないタイプなんだ。でも根は悪い子じゃないよ。ただ、強烈な不運体質でさ。誤解を招きやすいんだろうな」
羽合先生はクラス担任だから、彼女のことをよく理解しているようだ。確かに生徒会長に選ばれるには、相当の努力が必要だろう。もっとも、結のドジっぷりは今日の出来事で十分すぎるほど分かったけどね。
ふと空を見上げると、夕焼けに染まった秋空が広がっていた。オレンジ色から青へとグラデーションを描くその大空に、ひつじ雲の群れがゆったりと浮かんでいる。
――羽合先生から見れば、私なんて生徒の中の一人でしかないのかな。
ひとつひとつ形の違うひつじ雲。太陽の光に照らされ方も、影の落ち具合も、それぞれ微妙に異なっている。ぼんやりとその違いを見つめていたら、ふと寂しさがよぎった。そんな私に気づいたのか、羽合先生が不思議そうな顔で首を傾げる。
「ん? どうしたの?」
優しい微笑みを向けられ、胸がぎゅうと締め付けられた気がした。
私と同じように、羽合先生を慕う子は星野さんだけじゃないはず。先生にとって、私が特別な存在になれるなんて……きっと叶わぬ夢なのだろう。そう思いながら、遠くの空に視線を向けた。
「あ、そういえば……コンテストのこと、聞くの忘れてた」
強力なライバル出現というわけでもないのに、私の不安は顔に出ていたみたいだ。気づいた陽菜が「彼女とは日曜日にまた、会うね」と長い髪を耳にかけて笑った。
「うん、そうだね……」
そう言って、私も表情を緩めた。
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