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第2章「秋」
4.ひつじ雲・イン・トラブル(5)
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今日は待ちに待ったサイエンスフェスの日。街中がお祭りモードに包まれて、特に市立科学館の周りは人でいっぱい。吹き抜けのエントランスホールにはステージが設けられていて、私と陽菜が出場する〈高校生YouTuberコンテスト〉の決勝戦もこれからここで行われる。
「わぁ……すごい人だね。なんだかドキドキしてきちゃった」
「ハハハ。でも、リラックスリラックス。いつも通りやれば大丈夫だって、澪」
陽菜がいつものように明るい声で励ましてくれる。
午前中のリハーサルの時は平気だったのに、こうしてたくさんのお客さんを目の前にすると、一気に緊張が込み上げてきて、お腹の底がキリキリ痛んでくる。会場には家族連れからお年寄りまで、本当に色んな人がいるんだなぁ。私と同じくらいの高校生の姿も結構見かける。ライブ配信なら緊張しないんだけどな……そう思って、思わず陽菜の手をぎゅっと握りしめていた。
事前の動画審査で選ばれた4組がそれぞれパフォーマンスを披露し、審査員と観客からの評点で競い合う。優勝者には賞金10万円と、パンダの〈るんるんちゃん〉に扮しての動画配信の権利が与えられる。
「2人とも、頑張ってこいよー」
そう言って大地は客席から手をふった。私と陽菜は先生に連れられて、ステージの裏に用意された控え室に向かった。歩きながら顔を覗き込む。
「先生、ごめんね。今日、誕生日ですよね……」
「いいよいいよ。霜連の言うとおり、どーせ、暇だから。ハハハ」
「ほんと、すみません」
「ま、大丈夫だよ。気にしない! 明日の準備で学校行くところだったし、それに、うちの高校から2組も決勝戦に出るなら、流石に誰か引率しないとまずいだろ」
私たちは天体観測をイメージした創作ダンス、星野さんは動画を見たところパントマイムのようだ。彼女は演劇部に所属しているらしく、異様に上手かった。今後、着ぐるみに入ることを考えると、優勝は彼女が一番相応しいようにも思えた。あとの2組は他校の男子のチームで、演目は漫才とマジックショーらしい。
控え室につくと、当然そこには星野さんが待っていた。
「羽合先生、遅いです! もう始まっちゃいますよ!」
「おう、悪いなー」
頬をふくらませる彼女をなだめつつ、先生は他のチームの引率教員や主催者に挨拶にまわった。ふむふむ、ちゃんと「先生」しているな――と関心していると、星野さんが「こないだは、どうも」と話しかけてきた。
「星野さん、演劇部なんだってね。さっすがー」
「いえいえ。先輩たちは、何を披露するんですか?」
緊張をほぐそうと、わざとへらへら明るく振る舞っている私とは対照的に、彼女はテンション低めで気だるい感じ。余裕ってところなのかな。
「私たちはね、双子ダンス。星野さんは?」
「パントマイムです。こういうの、結構、得意なので」
星野さんは相変わらずのクールな面持ちで答える。その姿を見ていたら、YouTubeで見た彼女の圧倒的なパフォーマンスを思い出して、急に自信がなくなってきてしまった。きっと私の不安な表情に気づいたんだろう。陽菜が「ねえ澪、最後にダンスの動きを確認しとこ? リラックスも兼ねて」と明るく提案してくれた。
控え室の真ん中に置かれたモニターから、ステージの様子が流れてくる。司会の女性が声をはった。
『さぁ、いよいよ始まりました! 高校生ユーチューバーコンテスト決勝戦』
会場の音を聴きながら、徐々に集中力を高めていく。手足を動かし、踊りをひとつずつ確認した私たちの顔は、戦いの表情へと変わっていった。自然と高まる緊張感。
そんなときに
「先輩、これ、もしよかったらどうぞ」
星野さんが「差し入れです」と言ってアイスコーヒーをテーブルに並べはじめた。彼女なりに気を使ってくれてるらしい。でもコーヒーはちょっと苦手なんだけどな、と私がためらっていると、羽合先生が戻ってきて早速カップをひとつ手にとった。
「俺ももらっていいのかな? サンキュ。ちょうど喉乾いてたとこ」
「あっ、えっと……はい。どうぞ」
星野さんが思わず目を丸くするのを横目に、コーヒー好きを公言している羽合先生は、いそいそとストローを啜った。「うまっ。ありがとね、星野」先生の楽しげな声が控え室に響く。
画面では最初の演技が始まっていた。男子2人組のサイエンス漫才。ナチュラルな関西弁で、これがなかなかおもしろい。会場も沸き、いい雰囲気になってきていた。
「つぎ、出番です。こちらにどうぞ」
急に係の女性に呼ばれ、私は陽菜としぶしぶ舞台袖へと向かった。
「よーし、頑張ってこい!」
先生の応援を背中に受け、俄然やる気が出てきた。さあ本番だ!
「わぁ……すごい人だね。なんだかドキドキしてきちゃった」
「ハハハ。でも、リラックスリラックス。いつも通りやれば大丈夫だって、澪」
陽菜がいつものように明るい声で励ましてくれる。
午前中のリハーサルの時は平気だったのに、こうしてたくさんのお客さんを目の前にすると、一気に緊張が込み上げてきて、お腹の底がキリキリ痛んでくる。会場には家族連れからお年寄りまで、本当に色んな人がいるんだなぁ。私と同じくらいの高校生の姿も結構見かける。ライブ配信なら緊張しないんだけどな……そう思って、思わず陽菜の手をぎゅっと握りしめていた。
事前の動画審査で選ばれた4組がそれぞれパフォーマンスを披露し、審査員と観客からの評点で競い合う。優勝者には賞金10万円と、パンダの〈るんるんちゃん〉に扮しての動画配信の権利が与えられる。
「2人とも、頑張ってこいよー」
そう言って大地は客席から手をふった。私と陽菜は先生に連れられて、ステージの裏に用意された控え室に向かった。歩きながら顔を覗き込む。
「先生、ごめんね。今日、誕生日ですよね……」
「いいよいいよ。霜連の言うとおり、どーせ、暇だから。ハハハ」
「ほんと、すみません」
「ま、大丈夫だよ。気にしない! 明日の準備で学校行くところだったし、それに、うちの高校から2組も決勝戦に出るなら、流石に誰か引率しないとまずいだろ」
私たちは天体観測をイメージした創作ダンス、星野さんは動画を見たところパントマイムのようだ。彼女は演劇部に所属しているらしく、異様に上手かった。今後、着ぐるみに入ることを考えると、優勝は彼女が一番相応しいようにも思えた。あとの2組は他校の男子のチームで、演目は漫才とマジックショーらしい。
控え室につくと、当然そこには星野さんが待っていた。
「羽合先生、遅いです! もう始まっちゃいますよ!」
「おう、悪いなー」
頬をふくらませる彼女をなだめつつ、先生は他のチームの引率教員や主催者に挨拶にまわった。ふむふむ、ちゃんと「先生」しているな――と関心していると、星野さんが「こないだは、どうも」と話しかけてきた。
「星野さん、演劇部なんだってね。さっすがー」
「いえいえ。先輩たちは、何を披露するんですか?」
緊張をほぐそうと、わざとへらへら明るく振る舞っている私とは対照的に、彼女はテンション低めで気だるい感じ。余裕ってところなのかな。
「私たちはね、双子ダンス。星野さんは?」
「パントマイムです。こういうの、結構、得意なので」
星野さんは相変わらずのクールな面持ちで答える。その姿を見ていたら、YouTubeで見た彼女の圧倒的なパフォーマンスを思い出して、急に自信がなくなってきてしまった。きっと私の不安な表情に気づいたんだろう。陽菜が「ねえ澪、最後にダンスの動きを確認しとこ? リラックスも兼ねて」と明るく提案してくれた。
控え室の真ん中に置かれたモニターから、ステージの様子が流れてくる。司会の女性が声をはった。
『さぁ、いよいよ始まりました! 高校生ユーチューバーコンテスト決勝戦』
会場の音を聴きながら、徐々に集中力を高めていく。手足を動かし、踊りをひとつずつ確認した私たちの顔は、戦いの表情へと変わっていった。自然と高まる緊張感。
そんなときに
「先輩、これ、もしよかったらどうぞ」
星野さんが「差し入れです」と言ってアイスコーヒーをテーブルに並べはじめた。彼女なりに気を使ってくれてるらしい。でもコーヒーはちょっと苦手なんだけどな、と私がためらっていると、羽合先生が戻ってきて早速カップをひとつ手にとった。
「俺ももらっていいのかな? サンキュ。ちょうど喉乾いてたとこ」
「あっ、えっと……はい。どうぞ」
星野さんが思わず目を丸くするのを横目に、コーヒー好きを公言している羽合先生は、いそいそとストローを啜った。「うまっ。ありがとね、星野」先生の楽しげな声が控え室に響く。
画面では最初の演技が始まっていた。男子2人組のサイエンス漫才。ナチュラルな関西弁で、これがなかなかおもしろい。会場も沸き、いい雰囲気になってきていた。
「つぎ、出番です。こちらにどうぞ」
急に係の女性に呼ばれ、私は陽菜としぶしぶ舞台袖へと向かった。
「よーし、頑張ってこい!」
先生の応援を背中に受け、俄然やる気が出てきた。さあ本番だ!
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