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第3章「冬」
7.うね雲シグナリング(3)
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大地に呼び出されたのは、12月に入ってすぐの水曜日のことだった。約束の時間になってもなかなか大地は現れず、私は不満たっぷりな顔をつくって理科室で待ち続けていた。
ため息をついて窓の外を眺めると、夕焼けに染まる空には うね雲が広がっていた。夕日を浴びて黄金色に輝くフランスパンのような形の雲が、まるで絵画のように美しい。オレンジ色の光と紫がかった影のコントラストが、この世のものとは思えないほど幻想的だ。
「なぁ、俺、雨宮に何か悪いこと言っちゃったのかなぁ……」
やっと理科室に現れた大地は、眉を下げて情けない顔で切り出した。私は心の中で「やっぱりこの話か」とつぶやいた。陽菜が予想通り、理科部の2年生から告白された陽菜が、それを大地に相談した件だ。文化祭以来、大地と陽菜は話す機会が増えたようだったが、関係は全く進展していない。それどころか、大地は陽菜から避けられていると感じているらしい。一体どこで話がこじれてしまったのだろう。私がやれやれと小さくため息をつくと、大地が怪訝な顔をした。
「ねぇ澪、雨宮から何か聞いてない?」
大地が不安そうに尋ねる。
「ていうか大地。陽菜がどういう意味で言ったと思う?」
「え? 何が? もったいぶらず、教えてくれよ」
「陽菜は、大地にそんなこと言われたくなかったんじゃない?」「はぁ? どういうことだ?」
大地は坊主頭を抱えて悩んだ表情を浮かべる。本当に何が何だか分かっていないようだ。
「もう、本当に鈍いわね。 つまりさーー」
「分かんないよ!」
懇願するように手を合わせる大地。理系男子だからこういうのに疎いんだろうけど、ここまで女心が分からないとは。単なる鈍感というレベルを超えている気がする。
「頼むから教えてくれよぉ、澪!」
「もう! だからさーー陽菜はね、あんたのことが好きなのっ!」
「えっ!?」
「あ」
慌てて口を押さえた。しまった、つい本当のことを言ってしまった。もう後悔しても遅い。
「ちょ、ちょっと待って。いきなりそんなこと言われても……」
大地は動揺を隠せない様子だ。
「マジかよ……うーん、困ったなぁ」
「どうして? 大地、彼女いないんでしょ?」
「うん、まぁ、いないけど……」
「だったらさ……陽菜、いいんじゃない? あの子、ほんといい子だよ」
「ああ。それは分かる。でもな……俺は」
大地はいつになく真剣な眼差しで私を見つめる。何だか嫌な予感がした。
「澪、俺……おまえのことが好きなんだけど」
その言葉に、理科室の時が止まったかのように感じた。
「ーーハハハ。え、ちょっと大地! 冗談だよね?」
大地の顔を3回くらい見つめ直す。
「俺は大真面目だ!!」
「…………え」
「昔から、ずっとお前のことが好きだったんだ」
真っ赤な顔で恥ずかしそうにそう告げる大地。その瞳には揺るぎない真剣さが宿っている。
「い、いつから……?」
「もう長いこと前からだよ」
「ダ、ダメだよ、そんな……。私は大地が思ってるような子じゃ……」
「知るかよっ。俺は、澪は澪のままでいいと思うぞ。あっ、ああそうか…………ていうか、彼氏とかいるのか? わりぃ」
「いや、そういうんじゃなくて…………ごめん」
その場から立ち去ろうとする私の手を大地のごつごつした手がつかんだ。
「わ、わたしも、大地のことは好きだよ。でもさ」
振り向いて彼の顔を見ることもできず
「それは、そういう意味じゃなくてさ……」
うつむいたまま答えた。
「恋愛感情とは違うっていうか、なんか、上手く言えないよ。ごめんね」
「澪?」
「だってさ、大地とは長い付き合いじゃん。一緒にわけわかんないことして怒られたり、バカ笑いしたり、悲しい時は一緒に泣いたり……。そんな風にずっと友達だったのに」
「うん、そうだよな」
「だから、これからもそうでいたいの。親友として、隣にいたい」
涙がこぼれ落ちそうになる。ごめんね大地、本当にごめん。気持ちに応えられなくて。彼は握っていた私の手を名
残惜しそうに離した。
「分かった。友達で、いよう」
「ごめん……ごめんね」
大地は少し寂しそうに微笑み、背を向ける。
「それと、スタイロフォーム取りに来いよ。忘れんなよ」
そう言い残し、足早に立ち去って行った。別れ際まで気球の部品のことを気にかけてくれる大地。もうあの頃の無邪気な二人の関係には戻れないのかもしれない。そう思うと、私の胸は悔しさでいっぱいになった。
ーー間違ったことしちゃったのかな。どうすればよかったんだろう。
ため息をついて窓の外を眺めると、夕焼けに染まる空には うね雲が広がっていた。夕日を浴びて黄金色に輝くフランスパンのような形の雲が、まるで絵画のように美しい。オレンジ色の光と紫がかった影のコントラストが、この世のものとは思えないほど幻想的だ。
「なぁ、俺、雨宮に何か悪いこと言っちゃったのかなぁ……」
やっと理科室に現れた大地は、眉を下げて情けない顔で切り出した。私は心の中で「やっぱりこの話か」とつぶやいた。陽菜が予想通り、理科部の2年生から告白された陽菜が、それを大地に相談した件だ。文化祭以来、大地と陽菜は話す機会が増えたようだったが、関係は全く進展していない。それどころか、大地は陽菜から避けられていると感じているらしい。一体どこで話がこじれてしまったのだろう。私がやれやれと小さくため息をつくと、大地が怪訝な顔をした。
「ねぇ澪、雨宮から何か聞いてない?」
大地が不安そうに尋ねる。
「ていうか大地。陽菜がどういう意味で言ったと思う?」
「え? 何が? もったいぶらず、教えてくれよ」
「陽菜は、大地にそんなこと言われたくなかったんじゃない?」「はぁ? どういうことだ?」
大地は坊主頭を抱えて悩んだ表情を浮かべる。本当に何が何だか分かっていないようだ。
「もう、本当に鈍いわね。 つまりさーー」
「分かんないよ!」
懇願するように手を合わせる大地。理系男子だからこういうのに疎いんだろうけど、ここまで女心が分からないとは。単なる鈍感というレベルを超えている気がする。
「頼むから教えてくれよぉ、澪!」
「もう! だからさーー陽菜はね、あんたのことが好きなのっ!」
「えっ!?」
「あ」
慌てて口を押さえた。しまった、つい本当のことを言ってしまった。もう後悔しても遅い。
「ちょ、ちょっと待って。いきなりそんなこと言われても……」
大地は動揺を隠せない様子だ。
「マジかよ……うーん、困ったなぁ」
「どうして? 大地、彼女いないんでしょ?」
「うん、まぁ、いないけど……」
「だったらさ……陽菜、いいんじゃない? あの子、ほんといい子だよ」
「ああ。それは分かる。でもな……俺は」
大地はいつになく真剣な眼差しで私を見つめる。何だか嫌な予感がした。
「澪、俺……おまえのことが好きなんだけど」
その言葉に、理科室の時が止まったかのように感じた。
「ーーハハハ。え、ちょっと大地! 冗談だよね?」
大地の顔を3回くらい見つめ直す。
「俺は大真面目だ!!」
「…………え」
「昔から、ずっとお前のことが好きだったんだ」
真っ赤な顔で恥ずかしそうにそう告げる大地。その瞳には揺るぎない真剣さが宿っている。
「い、いつから……?」
「もう長いこと前からだよ」
「ダ、ダメだよ、そんな……。私は大地が思ってるような子じゃ……」
「知るかよっ。俺は、澪は澪のままでいいと思うぞ。あっ、ああそうか…………ていうか、彼氏とかいるのか? わりぃ」
「いや、そういうんじゃなくて…………ごめん」
その場から立ち去ろうとする私の手を大地のごつごつした手がつかんだ。
「わ、わたしも、大地のことは好きだよ。でもさ」
振り向いて彼の顔を見ることもできず
「それは、そういう意味じゃなくてさ……」
うつむいたまま答えた。
「恋愛感情とは違うっていうか、なんか、上手く言えないよ。ごめんね」
「澪?」
「だってさ、大地とは長い付き合いじゃん。一緒にわけわかんないことして怒られたり、バカ笑いしたり、悲しい時は一緒に泣いたり……。そんな風にずっと友達だったのに」
「うん、そうだよな」
「だから、これからもそうでいたいの。親友として、隣にいたい」
涙がこぼれ落ちそうになる。ごめんね大地、本当にごめん。気持ちに応えられなくて。彼は握っていた私の手を名
残惜しそうに離した。
「分かった。友達で、いよう」
「ごめん……ごめんね」
大地は少し寂しそうに微笑み、背を向ける。
「それと、スタイロフォーム取りに来いよ。忘れんなよ」
そう言い残し、足早に立ち去って行った。別れ際まで気球の部品のことを気にかけてくれる大地。もうあの頃の無邪気な二人の関係には戻れないのかもしれない。そう思うと、私の胸は悔しさでいっぱいになった。
ーー間違ったことしちゃったのかな。どうすればよかったんだろう。
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