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第3章「冬」
8.凍雲リグレット(4)
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名前を呼ばれているような気がして目を開けた。そこは、ヤブの中だった。
「え……? 私ーーここ、どこ……?」
地面に横たわっているようだった。
右を見て、左を見て、そして仰向けになって空を見上げる。まだ日は沈んでいない。灰色の雲が空一面を覆い、今にも雪が降り出しそうだ。
「良かった、目が覚めたんだね。大丈夫か?」
落ち葉だらけのネットを巻き取りながら、羽合先生がホッとした様子で覗き込む。
「せ、先生……!」
彼に支えられ、私は上半身を起こした。肩の落ち葉を払う。パーカーもジーンズも泥で汚れているが、体はなんともなさそうだ。
「せ、せんせぇ……怖かったよぉ……」
緊張の糸が切れ、私は思わず羽合先生に抱きついた。彼は優しく抱き止め、心配そうに尋ねる。
「どこか痛いところはない?」
「うん。胸が……」
「え? 強く打った?」
「いや、そうじゃなくて——胸が、苦しいの……」
「——はぁ。もう、心配したんだぞ」
先生はフゥと息を吐くと、目を閉じて私の髪に頬を寄せた。
「あれ……? お姉ちゃんは……?」
「ん?」
「私、天文ドームで若い頃の先生に会ったの。お姉ちゃんが約束してて。それで、気球に乗って宇宙の渚に行って……そこでね、お姉ちゃんに謝ろうとしたんだ。でも、どうしても思い出せなくて。そうしたら、バーンって気球が割れて……」
「お、おちつけ」
私の頭の中は混乱していた。夢で見た出来事と現実が入り混じり、ごちゃごちゃになっている。羽合先生は話を聞きながらうなずいてくれてはいるものの、眉をひそめた様子からは、内容が飲み込めていないことが伺えた。
「あっ、そうだ! カプセル!」
ここにいる理由をようやく思い出した。立ち上がろうとすると、足首に鋭い痛みが走る。先生はやれやれといった表情で私をおぶって社務所に向かってくれた。
「本当に心配したんだぞ。君が1人でカプセルを探しに行ったって聞いて、急いで来たのに、君の姿が見当たらないんだもの。崖から落ちたんじゃないかって……」
「ご、ごめんなさい……」
羽合先生の背中に顔を埋めた。いつも穏やかな彼が、今日に限って息を荒くしている。
「怒ってるの……?」
恐る恐る尋ねると、「ああ」と怒気を含んだ返事。それからよいしょっと私の体を背負い直す。
「まあ、今回ばかりは、鹿よけネットに感謝だな」
崖の手前に張られていたネットが、幸運にも私の足に絡まって転ばせたらしい。おかげですんでのところで崖から落ちずに済んだ。頭を打ってもおらず、ただショックで気を失っていただけのようだ。
(すごく長い夢を見ていた気がする……)
私の感覚とは裏腹に、実際にネットに引っかかってから、経過したのはほんの数分らしい。
「え……? 私ーーここ、どこ……?」
地面に横たわっているようだった。
右を見て、左を見て、そして仰向けになって空を見上げる。まだ日は沈んでいない。灰色の雲が空一面を覆い、今にも雪が降り出しそうだ。
「良かった、目が覚めたんだね。大丈夫か?」
落ち葉だらけのネットを巻き取りながら、羽合先生がホッとした様子で覗き込む。
「せ、先生……!」
彼に支えられ、私は上半身を起こした。肩の落ち葉を払う。パーカーもジーンズも泥で汚れているが、体はなんともなさそうだ。
「せ、せんせぇ……怖かったよぉ……」
緊張の糸が切れ、私は思わず羽合先生に抱きついた。彼は優しく抱き止め、心配そうに尋ねる。
「どこか痛いところはない?」
「うん。胸が……」
「え? 強く打った?」
「いや、そうじゃなくて——胸が、苦しいの……」
「——はぁ。もう、心配したんだぞ」
先生はフゥと息を吐くと、目を閉じて私の髪に頬を寄せた。
「あれ……? お姉ちゃんは……?」
「ん?」
「私、天文ドームで若い頃の先生に会ったの。お姉ちゃんが約束してて。それで、気球に乗って宇宙の渚に行って……そこでね、お姉ちゃんに謝ろうとしたんだ。でも、どうしても思い出せなくて。そうしたら、バーンって気球が割れて……」
「お、おちつけ」
私の頭の中は混乱していた。夢で見た出来事と現実が入り混じり、ごちゃごちゃになっている。羽合先生は話を聞きながらうなずいてくれてはいるものの、眉をひそめた様子からは、内容が飲み込めていないことが伺えた。
「あっ、そうだ! カプセル!」
ここにいる理由をようやく思い出した。立ち上がろうとすると、足首に鋭い痛みが走る。先生はやれやれといった表情で私をおぶって社務所に向かってくれた。
「本当に心配したんだぞ。君が1人でカプセルを探しに行ったって聞いて、急いで来たのに、君の姿が見当たらないんだもの。崖から落ちたんじゃないかって……」
「ご、ごめんなさい……」
羽合先生の背中に顔を埋めた。いつも穏やかな彼が、今日に限って息を荒くしている。
「怒ってるの……?」
恐る恐る尋ねると、「ああ」と怒気を含んだ返事。それからよいしょっと私の体を背負い直す。
「まあ、今回ばかりは、鹿よけネットに感謝だな」
崖の手前に張られていたネットが、幸運にも私の足に絡まって転ばせたらしい。おかげですんでのところで崖から落ちずに済んだ。頭を打ってもおらず、ただショックで気を失っていただけのようだ。
(すごく長い夢を見ていた気がする……)
私の感覚とは裏腹に、実際にネットに引っかかってから、経過したのはほんの数分らしい。
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