46 / 66
第3章「冬」
8.凍雲リグレット(4)
しおりを挟む
名前を呼ばれているような気がして目を開けた。そこは、ヤブの中だった。
「え……? 私ーーここ、どこ……?」
地面に横たわっているようだった。
右を見て、左を見て、そして仰向けになって空を見上げる。まだ日は沈んでいない。灰色の雲が空一面を覆い、今にも雪が降り出しそうだ。
「良かった、目が覚めたんだね。大丈夫か?」
落ち葉だらけのネットを巻き取りながら、羽合先生がホッとした様子で覗き込む。
「せ、先生……!」
彼に支えられ、私は上半身を起こした。肩の落ち葉を払う。パーカーもジーンズも泥で汚れているが、体はなんともなさそうだ。
「せ、せんせぇ……怖かったよぉ……」
緊張の糸が切れ、私は思わず羽合先生に抱きついた。彼は優しく抱き止め、心配そうに尋ねる。
「どこか痛いところはない?」
「うん。胸が……」
「え? 強く打った?」
「いや、そうじゃなくて——胸が、苦しいの……」
「——はぁ。もう、心配したんだぞ」
先生はフゥと息を吐くと、目を閉じて私の髪に頬を寄せた。
「あれ……? お姉ちゃんは……?」
「ん?」
「私、天文ドームで若い頃の先生に会ったの。お姉ちゃんが約束してて。それで、気球に乗って宇宙の渚に行って……そこでね、お姉ちゃんに謝ろうとしたんだ。でも、どうしても思い出せなくて。そうしたら、バーンって気球が割れて……」
「お、おちつけ」
私の頭の中は混乱していた。夢で見た出来事と現実が入り混じり、ごちゃごちゃになっている。羽合先生は話を聞きながらうなずいてくれてはいるものの、眉をひそめた様子からは、内容が飲み込めていないことが伺えた。
「あっ、そうだ! カプセル!」
ここにいる理由をようやく思い出した。立ち上がろうとすると、足首に鋭い痛みが走る。先生はやれやれといった表情で私をおぶって社務所に向かってくれた。
「本当に心配したんだぞ。君が1人でカプセルを探しに行ったって聞いて、急いで来たのに、君の姿が見当たらないんだもの。崖から落ちたんじゃないかって……」
「ご、ごめんなさい……」
羽合先生の背中に顔を埋めた。いつも穏やかな彼が、今日に限って息を荒くしている。
「怒ってるの……?」
恐る恐る尋ねると、「ああ」と怒気を含んだ返事。それからよいしょっと私の体を背負い直す。
「まあ、今回ばかりは、鹿よけネットに感謝だな」
崖の手前に張られていたネットが、幸運にも私の足に絡まって転ばせたらしい。おかげですんでのところで崖から落ちずに済んだ。頭を打ってもおらず、ただショックで気を失っていただけのようだ。
(すごく長い夢を見ていた気がする……)
私の感覚とは裏腹に、実際にネットに引っかかってから、経過したのはほんの数分らしい。
「え……? 私ーーここ、どこ……?」
地面に横たわっているようだった。
右を見て、左を見て、そして仰向けになって空を見上げる。まだ日は沈んでいない。灰色の雲が空一面を覆い、今にも雪が降り出しそうだ。
「良かった、目が覚めたんだね。大丈夫か?」
落ち葉だらけのネットを巻き取りながら、羽合先生がホッとした様子で覗き込む。
「せ、先生……!」
彼に支えられ、私は上半身を起こした。肩の落ち葉を払う。パーカーもジーンズも泥で汚れているが、体はなんともなさそうだ。
「せ、せんせぇ……怖かったよぉ……」
緊張の糸が切れ、私は思わず羽合先生に抱きついた。彼は優しく抱き止め、心配そうに尋ねる。
「どこか痛いところはない?」
「うん。胸が……」
「え? 強く打った?」
「いや、そうじゃなくて——胸が、苦しいの……」
「——はぁ。もう、心配したんだぞ」
先生はフゥと息を吐くと、目を閉じて私の髪に頬を寄せた。
「あれ……? お姉ちゃんは……?」
「ん?」
「私、天文ドームで若い頃の先生に会ったの。お姉ちゃんが約束してて。それで、気球に乗って宇宙の渚に行って……そこでね、お姉ちゃんに謝ろうとしたんだ。でも、どうしても思い出せなくて。そうしたら、バーンって気球が割れて……」
「お、おちつけ」
私の頭の中は混乱していた。夢で見た出来事と現実が入り混じり、ごちゃごちゃになっている。羽合先生は話を聞きながらうなずいてくれてはいるものの、眉をひそめた様子からは、内容が飲み込めていないことが伺えた。
「あっ、そうだ! カプセル!」
ここにいる理由をようやく思い出した。立ち上がろうとすると、足首に鋭い痛みが走る。先生はやれやれといった表情で私をおぶって社務所に向かってくれた。
「本当に心配したんだぞ。君が1人でカプセルを探しに行ったって聞いて、急いで来たのに、君の姿が見当たらないんだもの。崖から落ちたんじゃないかって……」
「ご、ごめんなさい……」
羽合先生の背中に顔を埋めた。いつも穏やかな彼が、今日に限って息を荒くしている。
「怒ってるの……?」
恐る恐る尋ねると、「ああ」と怒気を含んだ返事。それからよいしょっと私の体を背負い直す。
「まあ、今回ばかりは、鹿よけネットに感謝だな」
崖の手前に張られていたネットが、幸運にも私の足に絡まって転ばせたらしい。おかげですんでのところで崖から落ちずに済んだ。頭を打ってもおらず、ただショックで気を失っていただけのようだ。
(すごく長い夢を見ていた気がする……)
私の感覚とは裏腹に、実際にネットに引っかかってから、経過したのはほんの数分らしい。
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる