邪竜

final tuna MK-2

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第一章

目醒め。

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⋯⋯――。


⋯⋯⋯!


 ⋯誰かの、声が聞こえてくる。一体、誰だ?ここは、どこだ?


⋯よ――。


 はっきりと、聞き取れない。何と言っているんだ?


⋯じゃ⋯う⋯。


 誰だ?自分の声は、聞こえているのか?


――目醒めよ。


 その言葉が聞こえた瞬間、深淵に包まれていた視界が光を取り戻す。
まず、目に飛び込んできたのは、岩が剥き出しになった天井。
 体を起こすと、僅かに白く発光する鎖が、身に付けられた枷と繋がっていることに気づく。鎖は周囲を囲むように刺さった槍や剣に結ばれている。
 一体、どういう状況だ?  自分について何かを思い出そうと試みるが、記憶の底からは何も浮かんではこない。
 しかし、頭の中に、唯一つの言葉だけが脳裏に張り付いていた。


『邪竜』


 まるで自分を指しているかのような、不気味な響きを持った言葉。それは確かな質量を持って、意識の中心に佇んでいる。

 それ以外は、自分の口調や、性格がどのようなものなのか。
そういうことも、覚えていない。
 試しに、周囲を見渡してみるが、岩、壁、岩、岩⋯⋯

 見た所、ここは洞窟なのだろう。 だが、幸いにも今居る、この空間はそれ程狭い訳ではない。
 丁度良く、出口らしき通路も見える。 だが、脱出には身体に繋がっている、この光る鎖をどうにかしなければならない。

「⋯⋯ん?」

 この鎖、あまり硬くは無いようだ。 それも、ほんの少し、力を込めればポキリといけそうな程。
 鎖を掴み、軽く握り込む。

パキッ

 乾いた音を立てて、白く発光していた鎖が砕け散る。
恐らく、長い年月を経て、劣化していたのだろう。
 でなければ、金属がここまで簡単に、壊れて良い訳が無い。

「⋯⋯劣化だと?」

 金属がここまで脆くなるには、それなりの時間が必要となる。  もし、そうだとすれば、自分は、相当な時間をここで過ごしていた事になる。
 しかし、自分の身体は、まだまだ若い少年の身体だ。
つまり、赤子の時にここで置いていかれて、そのまま成長してしまったとか⋯
 いや、それだとこの知識の多さに矛盾してしまうじゃないか。
ならば、元々この身体の時間が止まってて⋯とかかな?

 周囲に刺さった、武器の山。それが、何らかの儀式的な意味なのか、はたまた、戦の末に、打ち捨てられてしまったものなのか。
 生憎、今の自分にはそれを判断する材料を、持ち合わせていない。 ただ、それらの配置が、自分を中心とした円を描いていることから、ここが、自分になにかをするための場所⋯それだけは、ほぼ確実と言えるだろう。

 通路の先、出口から差し込む、鈍い色をした光。
暗がりの外へと、一歩踏み出した瞬間。
 視界を埋め尽くすのは、魔力で満ち満ちた森。

『魔の森』

 ⋯⋯?魔の森って、一体何だ?突然、頭の中に思い浮かんできた、単語。
何故、地名を覚えているんだ?
 初めて見た、景色の筈なのだが、確信を持ってその名が浮かぶ。
記憶の欠落と、知識の偏り。客観的に見ても、おかしな状況。

 だが、状況の考察をしている場合では無い。
一刻も早く、人と出会い、この世界に関しての情報を得なければ。

 足を止め、周囲を観察する。湿った土の匂い。生い茂る、草木の生命力。
正に、自然の聖地とも言える場所だ。
 しかし、所々、遺跡のようなものが見える。だが、生活の跡などを見ることは出来ない。
 あわよくば、遺跡で野宿をしている人物と、話せればと思っていたが。

「うーん⋯」

 歩きながら、悩む。こんな森の中を、しかも一人で歩くとなれば、
猛獣などに、襲われてしまう可能性がある。
 だが、襲われることに対しては、不思議と恐怖心は湧いてこない。恐怖を感じられないというのは、いささか、別の意味での恐怖心も出てくるな。

「⋯?」

 ふと、前方。霧の立ち込める大樹の陰に、ひとつの影を見つける。  姿形までは鮮明に見えないが、その影は、限りなく人の形に近い。
 一回、話しかけてみるか。

「おーい!少し、聞きたいことがあるのだが」

 なるべく声が聞こえるように、大きな声を出しながら、歩み寄る。  だが、人影は自分を見ると、踵を返して、森の奥へと一瞬で消えていく。

「お、おい!待ってくれ!」

 制止の声を出すが、一向に止まってくれない。
自分の声は、森の奥へと消えていく。
 こちらも必死に走るが、追いつけない。余りにも、速すぎる。  人って、あんな速度で走れるのか?
 先程の、魔力という謎の単語が、あの速度に関係しているのか?

 よく分からん。そもそも、何故、人影は自分を見た瞬間、逃げていったんだ? そこまで、自分は恐ろしいと思われるような姿をしているのか?
 自分の手を見てみる。鱗がついてたり、鋭い爪がある訳でもない。一応、感触を確かめる為に、触ってみる。柔らかい皮膚に覆われた、普通の手。
 ⋯ますます、逃げられた理由が分からなくなる。

 だが、こんなことに、時間を割く必要はない。とりあえず、森を抜けなければ。





 森を抜け、数刻。眼前に広がるのは、石造りの建物が並ぶ、活気ある街。その街の広場。
 そこには、周囲の活気から切り離されたような、殺伐とした声が耳に入る。 目を向けてみると、数人の男たちが、一台の荷馬車を囲んでいる。

「待ってください!これは、隣町から頼まれた大切な薬草なんです。通行税なら、さっき門で払いました!」

 必死に訴えるのは、薬師の見習いだろうか。まだ若い、気弱そうな青年だ。
対する男たちは、兵士でもなければ役人でもない。
 この街を根城にしている、質の悪いごろつきの類なのだろう。

「うるせぇ!その通行証は偽物だ。俺たちが調べたところによればな。⋯⋯まあ、この荷物を全部置いていくってんなら、偽造の罪は見逃してやらんでもねぇぞ?」

 男の一人が、若者の胸ぐらを、掴んで揺さぶる。客観的に見なくても、酷く稚拙な言いがかりという事は分かるだろう。


『偽物』


「うぉ!びっくりした」

 突然、頭の中で響いた言葉。 彼らが、自警団の偽物だと言いたいのか。あるいは、彼らが掲げている、正義や、言葉そのものが偽りだと言っているのか。
 ⋯理由は分からない。

 しかし、この言葉に、何故か信頼性を感じてしまう自分がいる。迷いなく、一歩を、踏み出す。
 歩み寄り、彼らの、背後に立つ。

「すまない。その主張には、客観的な根拠が欠けている。⋯⋯貴方たちは、偽物だ」

 自分でも、よく分からない言動だ。特に「偽物」という一言。
それは、今の状況において、何の解決にもならない、無意味な指摘だ。

「あぁ!? なんだ、ガキが⋯⋯今、なんて言った?」

 男の一人が、露骨に動揺を見せる。だが、その動揺は、単なる怒りではない。
図星を指された者の、焦りにも見える。

「おい、こいつ⋯⋯まさか、気づいてるんじゃ⋯⋯」
「馬鹿言え!このガキが、あの暗号を知ってるはずが⋯⋯」

 彼らの口から漏れた、不可解な言葉。それが何なのかも、分からない。
ただ、彼らにとって、暴かれてはまずいものなのだろう。

「へッ⋯だが、
こういうガキは、黙らせるのが、一番いぃんだよ!」
男が、拳を振り上げる。


『魔術』


 また、あの言葉。 それよりも『魔術』って?

 指先は、まるで何かの糸で引かれるように動き、それは男へと向けられる。
勿論、自分の意識ではない。 その瞬間、指先が鈍く光って―――
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