先生、死に場所を探しています。

葵愛利華

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第1章

3話:認めたくなくて

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林田果歩side…

夜、家に帰っても誰もいない。ならば、別に帰らなくてもいいのではないかと思った私は、家に帰らなかった。
あの人に初めて声をかけてもらった公園へと足を向ける。
(あの人、まだこのマンションにいるのかな?)
そう思っていると、榊が美人をつれてマンションへと入っていく。
(あいつも、あの人と同じマンションなの?!)
それだけでなく、あいつが窓を開けた時目が合った。あの人の部屋だ。あの人は、もうこのマンションに暮らしていないのだろうか?それとも…いやいや、それは、考えたくない。
「おいっ、お前そんな所で何してんだ?」 
「別に、あんたには関係ない。」
「どうせまた、親から虐待されてんだろ?」
「えっ、なんで知って…」
「おっと、言っちゃいけねーんだった。」
榊は、そう言って窓から顔を引っ込める。その後、あの美人さんとの絶えない笑い話が聞こえてきた。
(私、何やってんだろ。)
急に馬鹿らしくなり、家に帰ることにする。夜道は、暗く何も見えない。
(怖くない。怖くない。怖くない。怖くない。)
何度も念じる。すると、20歳くらいの若い男3人に話しかけられた。
「君、1人?」
「俺らと遊ばね?」
「何歳?」
「…私、早く帰らないと行けなくてごめんなさいっ!」
そう言って、走り去ろうとしたが、手をつかまれる。
「離してください!離してっ!」
大きな声で叫ぶ。しかし、私と男3人以外誰もいない様子だった。
(最悪だ。ストーカー紛いの行為をして、勝手に落ち込んで。知らない男に捕まって。誰か助けてよ。)
そう思った時、浮かんだ顔はやっぱりあの人だった。名前の知らないあの人。
(助けて!)
「おいっ、お前ら何やってんの?」
現れたのはあの人じゃなくて、榊だった。でも、この際助けてくれるなら誰でも良かった。
「先生、助けて!」
榊は、笑う。
「これでお前は、俺に2回助けを求めたな?」 
榊の笑顔に、不覚にもときめく。
「チッ、こいつ先生かよ!」
男達は、あっさり去っていく。
「先生…」
「お前、こんな夜遅くに出歩くからだぞ。」
「先生、あの美人な女の人は?」
先生にそう尋ねても、何も言わない。
(どうして?何か、私に言えない事情でもあるの?先生、私もっと先生のこと知りたいよ。)
泣きたくても泣けなくて、虚しい気持ちになる。
「…おいっ、そんな顔すんなよ。」
榊は、私の頭を優しく撫でてくれた。
「お前が無事で良かったよ。」
榊が今、どんな顔をしているのか気になり、見上げると榊は顔をそらす。しかし、榊の耳は真っ赤だった。
(榊が、照れてる?)
「先生、照れてます?」
「照れてねーよ。」
「嘘つき!耳真っ赤ですよ。なんで照れてんですか?」
榊は、ゆっくり私の方を振り向く。
「別に。何でもいいだろ。」
私は、この日初めて榊の可愛らしい1面を見た。

もし、本当に榊があの人だったなら、私はどうすれば良いのだろうか?
きっとあの美人は、榊の恋人だろう。
それなら、榊があの人だって認めたくないな。
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