愛しては、ならない

ペコリーヌ☆パフェ

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ガール・ミーツ・ボーイ

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――初めてあの子を見た時から、惹かれていたのかも知れない……


剛さんは、まだ11歳だというのに、ひどく大人びた表情をしていた。

大人びた……

何をもって"大人"なのかと言われたら、返答に詰まってしまうけれど、一人娘できょうだいに揉まれた経験も無く、甘やかされて来た私の周囲には、同様に甘えたお嬢様しか居なかったのだ。

剛さんの様な表情の子供は見たことがなかった。



幼稚園から高校まで一貫教育の私立学校に通っていた私は、卒業と同時に両親に薦められていた男性と結婚した。


私よりも20歳上の悟志(さとし)さんは、奥さんに先立たれてしまってから独身で、子供は居なかった。


下手したら親子程の年齢差だったが、悟志さんは私をとても大切にしてくれた。



特定の男性と交際した事がなかった私には悟志さんが初めての男性だった。

悟志さんは20歳上には見えない位若々しく、スポーツで鍛えられた身体は逞しかった。


ゴルフが得意で、休みの日も家を空ける事が多かったけれど、そんな時は学生時代の友達に泊まって貰い、少女時代の頃と同じようにパジャマパーティをした。



結婚するまで両親に守られ、ずっとお嬢様学校に通い世間知らずの私だったが、家事や料理だけは小さな頃からママにに叩き込まれていた。
その事はママに大感謝している。


商社マンで多忙な父だったが、たまのお休みの時には一日中私の相手をしてくれた。


好きな絵本を読んでくれと頼めば、私が眠ってしまうまでずっと根気強く繰り返し読んでくれた。

時には、二人して本を持ったまま寝てしまう事もあった。






魔女は、地を這うようなしわがれ声で囁いた。


「パパとママを助けたいかい?
私なら助けてあげられるよ……
ただし、お前たちの命と引き換えだよ……

さあ、どうする?
ヒッヒッヒ……」



ふたごは迷わず命を差し出して、魔女はその命を食べて若返り、ふたごの両親を病から救った。



ふたごの亡骸を抱き締めて悲しみに暮れる両親に同情した魔女は、ふたごを星に変える。


最後に両親は、天を仰いでこう言うのだ。



「冷たい土の中へ葬るよりも、このほうがあの子たちは幸せだよ。

この腕に抱き締める事は出来なくても、夜空を見上げれば、いつでもあの子たちに逢えるよ」




この絵本を何度も読んで貰いたがる私にパパは涙ぐみながら言ったものだ。


「菊野は、何故こんな悲しいお話が好きなのかな?
……パパも、読んでて泣きたくなるから、もっと他の楽しい本にしない?」


涙混じりの懇願をガンとして聞かず、いつもこの本を読んで貰い、その度に悲しがって泣くパパの頭を撫でて慰めた。


マルコとジョンを、私が幸せにしたいと本気でこども心に思っていた。


「パパ、私ね、大きくなったらふたごのママになりたい。
ふたごにマルコとジョンて名前を付けて、いつまでも楽しく仲良く幸せに暮らすの。
そうしたら、この子達も幸せになれるかな?」



そして私は、結婚してからもその願いを持ち続けていたのだ。


私の夢は幸せなお嫁さんになる事と、ふたごの男の子の ママになることだった。




結婚してすぐに妊娠したけれど、ふたごでは無くて大いに落胆してしまった。


しかも悪阻が酷く、食べては吐いての繰り返し。

待ち望んでいた赤ちゃんはふたごでも無いし、何故こんな辛い思いをしなくてはならないのかと毎日泣いていた。



入院を薦められたが一人で病院のベッドに縛り付けられるなんて嫌、と駄々をこねて、その我が儘を通してしまった。
お腹が目立って来ると嘘のように悪阻は治まったのだがお産が近付くにつれ、心の中は恐怖で一杯になって行った。



自分の体の中から一人の人間が出てくる。


一体、どの位の痛みなのだろうか。


狭い道を通ってくる間に赤ちゃんの体が傷ついたりしないのだろうか?


妊娠中に、病院のプレママスクールでお産までの心構えと準備の話しを看護婦さんから聞いても、不安は増すばかりだった。


私などに産めるのだろうか、とさえ思った。



仕事の忙しい悟志さんは陣痛からお産まで付き添えなかった。


ママが側についていてくれて腰をさすってくれたり、言葉を掛けてくれたのがとても有り難かったけれど、初めて経験する身体を千切られてどこかに飛んでいきたいのに何処にも行けずに縛られている様な苦しみに、私は絶叫した。


「あまり騒ぐと体力が持ちませんよ」


「力を抜いたほうがお産が進みますよ」



と、看護婦さんに言われたけれど、私は痛みに叫ぶしか出来なかった。


こんな苦しみが続くなら、もう死にたいと思ってしまった。


そうして丸二日間陣痛に苦しんで、ようやく生まれたのが祐樹だった。





祐樹の顔を見た瞬間に、すべての痛みが消え去って今まで感じたことのない高揚と幸福感で一杯になった私は、ママに

「菊野、良く頑張ったね……えらかったわよ?」


と頭を撫でられ、ワンワンと分娩室で泣いてしまった。


そしてこう思ったのだ。



(ふたごは無理でも、この子に弟を産んであげなくちゃ……)




祐樹は祖父や祖母、悟志さんに可愛がられてのびのびと育っていった。



人見知りもせず、初めての場所に連れて行っても臆す事の無い祐樹は誰からも「イイ子だね」と言われた。



私のあとを何時もついて回る祐樹が可愛くて堪らず、良くギュッと抱き締めてはキスをした。



喋れる様になると、祐樹はよく


「ママ、ケッコン、して」


と挨拶がわりみたいに、愛くるしい瞳をクリクリさせて言ったものだ。




しかし、二人目を妊娠する事が出来ないまま祐樹は四歳になった。



ある日、公園で遊んでいた時に小さな兄と妹が手を繋いで居るのをじっと見ていた祐樹はポツリと私に言った。



「ママ。今年のクリスマスに、妹が欲しいな。
作って?」



私は面食らって、その場を誤魔化そうと色んな話をして気を逸らそうとしたが、珍しく祐樹は納得せずにその場に寝転んで泣き出してしまったのだ。


困り果てた私は、その夜祐樹の寝顔を見ながら溜め息を付いた。



二人目が欲しいとは思ってはいたけれど、祐樹を産んでから悟志さんと寝室は別になっていて、身体を合わせるのも年に数回位で、私自身も正直な処、セックスが好きな方では無かったのだ。


しかも祐樹のお産の後、セックスの度にお産の恐怖が蘇り、気持ちいいのか良くないのかさえ分からなくなってしまっていた。


こんな調子で妊娠するわけがない。





その時ふと、長い間忘れていた「ふたごの星」
の事を思い出した。



マルコとジョンを、一緒にしてあげなければ……

今、二人は離ればなれになっているのだ。


祐樹の半身を、見付けなければ……



人から見ればバカな事かも知れないが私は大まじめだった。



私が産まなくても、祐樹に似た子を探せば良い。


親を亡くして身寄りが無い子供や事情があり親元で暮らせない子供が沢山いる筈だ。


その中に一人位、祐樹に似た子がいるかも知れない。





悟志さんは、最初この話を笑い飛ばしたが、私が本気だと分かると、案の定反対してきた。



「菊野……君の気持ちはわかるけど、見ず知らずの子供を引き取って育てる事がどんなに大変か、君にわかるのかい?

一緒に暮らしてみて合わなくて物を返品するみたいにその子を返すわけにはいかないんだよ?

一人の人間を育てるというのは責任がつきまとう事なんだ……」



子供に言い聞かせる様に悟志さんは言った。



「悟志さん……そんな事も分からないと思うの?
私だってその位分かってる」



「いや、苦労知らずの君には分からないと思うよ?
君に、もう一人子供を育てることが出来るとは僕には到底思えない」



初めて悟志さんに冷たい言葉を浴びせられ、呆然とした。







黙りこみ泣きそうになる私の頭を、悟志さんは優しく撫でた。



「祐樹も、暫くは駄々をこねて困らせるかも知れないけど、子供にはよくある事だよ……今に忘れるさ。
犬でも飼おうか?猫でもいいよ?……次の休みにペットショップにいってみようか?」



私は首を振る。



「……アレルギーがあるのよ」



「そうだったっけ?」



「知らなかったの……?私、動物の毛で蕁麻疹が出るのよ?だから動物園にも行けないの……
結婚して4年以上経つのにそんな事も知らないの? 」


話している内に感情が昂って、声が大きくなってしまい、側で眠っている祐樹が一瞬ビクリと身体を震わせた。




悟志さんがそっと頭を撫でると、また祐樹は静かな寝息を立て始めた。



私は悟志さんから背を向けてしゃくりあげた。

何が悲しくて何を怒っているのか自分にもわからなかった。



「祐樹を起こすと可哀想だ……向こうの寝室へ行こう」



涙を手の甲で拭う私の肩を抱いて、悟志さんが耳元で囁いてきてゾクリとした。



それは甘い震えでは無かった。



年に数回しか身体を合わせない私は、悟志さんの事をいつしか男性というよりは父親の様に思ってしまっていたのだ。


実際、パパと悟志さんはそんなに年齢が違わない。


年の離れた、優しくて甘やかしてくれる父親みたいな悟志さん。



その悟志さんが、身体を欲しがっているのを察して私は嫌悪と恐怖を覚えて逃げようと身を捩った。




悟志さんの腕が離すまいと強く抱き締めて来て、首筋にキスをされる。



「さ……悟志さんっ……待って」


「菊野……いいだろ?」


「あっ」


膝に腕を入れられてあっという間に抱えられて夫婦の寝室のラベンダー色のベッドへ倒される。



ラベンダーの色は私の好きな色で、新居を決める時には寝室はラベンダー一色にすると決めたのだが、祐樹を妊娠してからはここで休む事は滅多に無かったのだ。



悟志さんはシャツを脱ぎ捨ててジリジリと近付いて来るが、私はベッドの上を後ずさった。



「悟志さん……まだ話が……」


「僕も話がある」


「えっ?」


屈強な腕が伸びてきて、ブラウスを引っぱり胸元をはだけさせた。



「きゃ……っ」



叫ぼうとするが唇を塞がれる。


素早く背中に回した指がホックを外すとブラが抜き取られて、顕れた乳房を掴まれて揉みしだかれた。


「や……やだ……何を」


「何をって……
夫婦なんだから……抱き合うのは当然だろ?」



震える私に、悟志さんが上擦る声で言う。



「だって……こんなっ……あっ」


スカートを素早く脱がされて、脚を拡げられた。


悟志さんが太股を掴み、じっと眺めているのが恐ろしかった。



身体中が震えてしまう。

こんな風に乱暴に、強引にされたのは初めての事だった。



「菊野……
僕とセックスして妊娠すればいい話だろ?」


「……!」


「君は……
いつも祐樹とべったりで僕に寄り付かないじゃないか……」


「だ……だって……それは……祐樹はまだ小さくて……あんっ」


悟志さんの指がショーツの上を撫で始めた。





「や……!」



「菊野……っ……よく見せてくれ」



悟志さんの指がショーツを剥ぎ取って行く。


脚を閉じて隠そうとしたが足首を掴まれてしまった。



「やだっ……やめてっ」



まるで別人の様に目をぎらつかせた悟志さんは片手で足首を掴み、もう片手はベルトを外してズボンを降ろす。



「止めて……?
止めてなんて言う理由は無いだろう」



「だ……だって久し振りだし……怖い」



「そうだ……久し振りだから我慢出来なくなるんだ!」



「あっ!」



私の両脚を肩に乗せ、太股を掴むとはち切れんばかりに大きくなった獣を一気に突き刺してきた。



瞬間、悟志さんは顔を歪めて息を吐き出した。





「……良く濡れて……菊野も欲しかったんじゃないのか?」



指が太股から獣を押し込まれた秘園の周辺を厭らしく撫でて、溢れた蜜を伸ばす。


私は自分の体がそんな風になっているのが信じられずに呆然とした。



「う……嘘」



「今までは……菊野が慣れてないと思って優しくしていたんだ……
もう……その必要はないかな……」



「や……悟志さっ」



悟志さんの目がギラリと光り、結合した腰を激しく打ち付け始めた。



「菊野……菊野っ」


「や、やだあっ……あっあっ」




いつもの優しいパパみたいな悟志さんは何処に行ったの?
目の前の情欲に支配されたケダモノは一体誰?


豹変した悟志さんを受け入れられず、なのに体が甘い快感に支配されて行く。





「あっ……あっ……あ」


ひとりでに漏れる、甘い声が自分の物とは到底思えなかった。


その夜悟志さんは、今までにはしなかった様々なやり方で私を朝まで何度も抱いた。



私はいつしか抵抗する事も忘れて、悟志さんに打ち付けられるまま、初めて経験する底の見えない快感に沈んだ。



もう、何も考えられなかった。



朝方、ようやく満足した悟志さんが背中に口づけて囁いた。



「素敵だったよ……菊野……もっと前からこうすれば良かったんだ……」



私は、一気に睡魔と怠さに襲われて、シーツを握り締めたまま意識を失った。







それから二週間経ったある日、夕食の準備をしている最中に吐き気を催した私は洗面所に駆け込んだ。


「ママ?どうしたの?痛いの痛いの飛んで行け――」

吐き続ける私の背中を、祐樹がさすってくれた。



「あ……ありがとうね?祐樹」


「ママ、お医者さんに行った方がいいよ」



「そうね……」



返事をして、身体中がゾワリと震えた。


……まさか……?



それは、喜ばしい気持ちでは無かった。



翌日、私は産婦人科で妊娠を告げられ、帰宅してからショックで寝込んでしまった。


本当に発熱してしまい、丸一日起き上がれなくて実家から母が手伝いに来てくれた。



「よりによって悟志さんが出張の時に大変ねえ……」


「ね――?」


母の口調を祐樹が無邪気に真似をする。



「祐樹、偉かったねえ……いつ電話のかけ方を覚えたの?」



「えへへ」



祐樹は、私が寝込んでしまった後、自分で家電を使い実家へ知らせてくれたのだ。





「ありがと……ね祐樹……」


「ママ、お熱さがるといいね?」



「うん……っ……あっ……痛っ」



急に、下腹部に鈍い痛みが走る。



「ママ?」

「菊野、どうしたの」



一旦引いたかの様な痛みは、波のようにまた襲ってきた。



私は丸まり呻いた。



「い……痛い……
お腹が……痛い」




「ママ、ママ!」

「菊野!」



祐樹と母の声が遠くなって行った。




目覚めた時、そこは病院 だった。


手が暖かい……


悟志さんが私を見つめながら手を握っていたのだ。



現実なのか夢なのか、わからずに私は呟いた。



「赤ちゃん……は」



悟志さんはクシャリと顔を歪めると、俯いた。



「菊野……っ」






悟志さんの表情で私は察した。




「赤ちゃん……
行っちゃったんだ……」



自分のお腹を撫でた瞬間、ボロリと涙が溢れ出た。



妊娠する事を恐れていたはずなのに。


妊娠を告げられてショックだったはずなのに……


今、自分の身体から命が去ってしまった事にとてつもない喪失感に襲われた。



怖いと思ってしまったから……

私が、妊娠してショックだった事を、赤ちゃんが感じ取って自ら去っていったのかも知れない……



「ごめんなさい……ごめ……っ」



しゃくり上げる私を、悟志さんが抱き締めた。



「菊野……っ……
もういい……」



「ごめ……ごめんなさい……っごめんね……」



「……君の身体に負担をかけたくない……
どうしてもきょうだいが欲しいなら……
菊野のしたいように、すればいい……」



「悟志さ……本当?」



「ああ……」



熱い涙がまた溢れて、私もきつく抱き締め返した。





流産してから私は体調が芳しくなく、母が心配して

「暫く祐樹を預かるから、ゆっくり休んだら?」


と言ってくれたのだが、まだ四歳で可愛い盛りの祐樹と離れて暮らすのは寂しいし、祐樹も

「ママと離れたくない」


と嫌がった。



丁度その頃、実家の父は仕事で海外に行き不在で、悟志さんも北海道に長期出張が決まったので、西本の家は男性不在状態が確定する。


母は、目を輝かせて私に提案した。



「ねえ、郊外にずっと使っていないお家があるのよ。
あなたが小さな頃はそこに住んでたんだけど、覚えてないわよね?
……大きな公園も近くにあるし静かないい処よ?
リフォームもしてあるし……
たまには誰かが住んであげなきゃお家も可哀想よねえ!祐樹?」



「ウンウン。カワイソウよねえ~」


祐樹はまた母の口調を真似る。




「パパも当分帰らないし、悟志さんも居ないんだから、そっちのお家に三人で暫く住みましょうよ!」


「わーい!ベッソウだベッソウだ!」



「まあ、別荘みたいなものかしら?
祐樹、良くそんな言葉を知ってたわねえ?
別荘にはピアノも置いてあるわよ?」



母と祐樹は手を握り合ってはしゃいでいる。



「ママ……でも」



「菊野、あなたはまず自分の身体と心を元気にしないとね?
ちょっとの間環境を変えてみるのも良いと思うのよ。
祐ちゃん、花野ばーばと毎日お散歩行けるね~?」


「行けるね~」



母と祐樹は結託してしまい、そして私も反対する理由も無いし、という訳で、暫く郊外の家に三人で暮らした。



動物園に連れていってあげられない私に代わり、電車に乗って母が祐樹を連れ出してくれたり、近所の公園には池があって色んな水鳥が居て祐樹も喜んだ。



以前、自宅でピアノを教えていた母が、祐樹に遊び感覚で教えてくれたのだが、それがきっかけとなり本格的に弾くようになるのだ。






約半年、そこで穏やかに暮らすうちに私の身体も回復し、悟志さんの出張も終了したのでまた元の生活に戻る事になった。


母は、娘と孫との水入らず生活をずっとしていたい様だったので残念がっていたが、溜め息と共に笑って私の頭を撫でた。


「お嫁に行った娘とこんな風にまた暮らせるとは思ってなかったから、嬉しかったわあ……
良かったらまたこの家を使いなさい?
誰も住まないままだと傷むしねえ」




そしてその家が、剛さんが後に一人で暮らす場所になるとは、この時点では誰も知りようがなかった。





それから養子探しをする日々が始まった。


日本全国に児童養護施設はあるが、それをしらみつぶしに訪問するのは無理がある。

二つ隣県位までの範囲内で探す事に決めた私は、ネットでひたすら施設を調べた。


ネットでは施設概要などはわかるが、そこに居る子供達の年齢や、まさか顔など載っているわけがない。



目星を付けた施設に連絡を取り、土日を利用して時には祐樹を連れて見に行ったりした。


祐樹は未だに「妹が欲しい」と言い張っていて、私も祐樹に似ているなら女の子でも良いと思うようになっていた。


女の子なら将来お嫁に行っても母親の所に戻ってくれる。

自分と母の関係を考えてみると、家を出てしまう男の子よりは女の子の方が良いかも知れない。





それに、養子縁組について調べたりするのも、今までのほほんとして勉強もろくにしなかった私に取っては中々なチャレンジだったのだ。


ネットや本を漁り、文字を追ううちに読めなかったり、意味が解らない単語にぶち当たる。


祐樹が寝た後で、辞典を手に調べものに奮闘した。


学生時代にこの情熱があれば、もう少し自分は違う人生だったのかな?
とチラリと思い一人で苦笑した。



「いや、無理無理!
私はジョンとマルコの為には頑張れるけど、他に頑張れる理由もないし」



養子を迎えたら夫婦でその子を育てる訳で、自分と悟志、それぞれ養親とならなければならないため、家庭裁判所に養子縁組の許可を申し立てるには悟志にも動いて貰わなければならない。




けれど、それは本決まりになった時の事。


先ずは探さなければ。


私がやりたい事なのだから、私が頑張らなければ。



今にも背中に羽根が生えて、翔んでいきそうにも見える祐樹の丸い寝顔を見て、私は


「うしっ!」


と人知れずガッツポーズをして、カーテンを開けて夜の空を眺め
"ふたごの星"
は、何処にあるのだろうと目を凝らした。

住宅街では星などろくに見えはしない。




……待っていてね。
ジョンとマルコ……
もうすぐ、もうすぐだから……




遠くの家の屋根に、刹那光が流れ落ちた様に見えた。





そして、祐樹が六歳になる少し前に訪れた千葉の施設で、剛さんと出会う事になる。


数えきれない施設に電話をかけ、沢山訪問してみたが、祐樹に面差しが似た子供が見付からずに諦めかけていた矢先だった。


"希望の家"という施設に祐樹を連れて見学に行き、園長の説明を聞きながらフロアを通り過ぎようとした時“大地賛唱"の合唱とピアノの音色が聞こえてきた。



「年に一度、地元の老人ホームに合唱を披露しに行くんです……
皆一生懸命にやってますでしょ?」



園長は誇らしげにしていた。



私の目は、ステージの下手でピアノを流麗に奏でる男の子に奪われた。



年頃は祐樹より三つか四つ上だろうか。

佇まいが子供らしかぬ雰囲気だった。


その指が奏でる音色はとても美しいのに、心の脆い処が抉られて引き摺り出される様な残酷さを感じて鳥肌が立った。





つるんとしたあどけない顔には似合わない、頑なな感情が渦巻いている様な気がするのは、その瞳がとても冷たく輝いているからだろうか。


そして何よりも私の心を捉えた事実。


輪郭に、眉の形に、目鼻立ち……


祐樹にそっくりだった。



(……見付けた。
私がずっと探していた、ふたごの片割れ……

祐樹のきょうだい……)




私は、その場で園長に言った。



「あの男の子を……
私達の家族にしたいです」




女の子を探していたのだが、祐樹を説得して剛さんを養子に迎える事を納得させた。




祐樹は頬を膨らませて言った。



「……女の子がいいのに」


「うん、女の子も可愛いよね?
けど……お兄ちゃんなら、祐樹の好きな“お面ヒーロー”ごっこだとか一緒に出来るし、キャッチボールもパパと三人で出来るし!」



祐樹は目を輝かせた。



「そうかあ……そうだね!あと、ピアノ教えて欲しい!」





「そうね、上手だったもんね……」



「花野ばーばのピアノも楽しいけど、あのお兄ちゃんのピアノもスゴいよ!
僕、あんな風に弾けるようになりたい!」



祐樹はそう言うと、少しはにかんだ笑顔で私に耳打ちした。



「女の子は……
ママが居るから、いいよ」


「祐樹……!」



私は思い切り抱き締めた。
祐樹は腕の中でコロコロと笑った。



でも、私はこの時全く何もわかっていなかった。
剛さんの事を。



剛さんが今までどんな風に育ってきたのか……


そして心や身体に傷を作ってきたかという事を……




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