eyes to me~私を見て~second――愛は無敵――

ペコリーヌ☆パフェ

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揺れる夜④

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 戸惑う桃子にすかさず由清は魅惑的な眼差しを向けて言った。


「食べさせて?」

「……っ」

「な~んてね」



 由清は、目を丸くして真っ赤になった桃子の腕を掴むと、その指に掴まれていたピザをパクリと口に素早く含み、舌先で自分の唇に付いたソースをゆっくり舐めた。

 その色っぽい仕草に見惚れた桃子が、はっと我にかえり、彼から目を逸らして怒ったように小さく叫ぶ。



「もっ、もうっ!アンソニーったら、なんかいやらしくなったし!」

「……いやらしい、てどんな風に?」



 コロコロと表情を変える桃子が面白くて、由清は笑いを噛み殺しながら訊ねた。





 いや、そもそも自分は今まで他人の事を理解した事などあるのだろうか。人間観察に自信があった桃子だったが、それは根拠のない思い込みなのかも知れない。

 『大体そんな技があるなら世の中苦労はないだろうが』と、綾波などには一笑されたものだ。

 難しい顔で考え込む桃子の肩を不意に由清が抱き寄せ、桃子は驚きカクテルを溢しそうになった。



「離れすぎだよ……いくらなんでも」



 椅子を離された事に由清は傷付いた、とでも言いたげに眉を寄せて悲しげな表情を作り、瞳を少し潤ませた。



「うっ……そ……その顔は卑怯……っ」



 桃子はつい萌えそうになって、彼を見ないようにキツく瞼を閉じた。



 

「な、なんかさあ……」



 
 桃子は口ごもりながら、涼しい顔でハイネケンを飲む由清の横顔をチラリと見た。

 由清は最初からこんな男だったろうか。初めて彼に出会ったとき、綺麗な顔をした優しい理想の王子様、という印象を抱いた覚えがある。実際彼は優しくて親切で、いつも桃子の事をさりげなく気にかけてくれていた。柔和な微笑みの中にはそこはかとない悲しみが見え隠れして、それは、桃子への片想いから来ているという事を、桃子もわかっていた。自惚れて居たわけではないが、桃子はそういう人の感情には敏感だった。

 自分に対してどんな思いを抱いているのか、それが良くないものでも、好意的なものでも、桃子は察する事に長けていた。

 コンプレックスを抱いたまま、二次元の世界に18歳までどっぷりと浸かっていた桃子は、周囲を観察するのが得意だった。その人の話し方、目線の動き、立ち居振舞いをじっくりと見ていると大抵の事は掴めるような気がした。

 人に慣れていない桃子は、そうする事で自分を守っていたと言ってもよい。

 だが、恋愛にその観察眼が生かせるかどうかは別の問題なようだ。現に、桃子は恋人の気持ちが全く掴めなくなっている。そして、今隣にいる『優しいアンソニー』はまるで別人の様に見えるし……




 




「……いやらしいって……ひょっとしてセクシーに見えるって事かな」

「ぶ――っ!」



 由清の言葉に、桃子は今度こそカクテルを吹き出した。

 由清は予想していたかの様におしぼりで濡れた桃子の口元を拭ってやる。



「い、いいから……自分でやるしっ」

「俺に触られるのが嫌?」

「――っ」

「キスまでしたよね……さっき……」

「!」

「ね?桃子……」



 甘い声でまた名前を呼ばれ、桃子は真っ赤になってしまった。

 顔を拭かれながら彼の綺麗な睫毛をつい眺めていた桃子は、ふと思い当たり、納得する。


 ――そうよ。なんだか、綾波みたいなんだわ。際どい言葉を連発してお姉ちゃんを恥ずかしがらせてるあの変態にアンソニーが似てきちゃったの?……なんか嫌……






「……折角の可愛いブラウスが台無しだね……」



 由清は桃子の顔を拭きながら、白いブラウスまで濡れて、桃子の胸元が透けてるのに気付き、息を呑む。当の本人は濡れた感触が気持ち悪いのか、襟元を摘まんでは下を覗きこんでいる。その瞬間、柔らかそうな膨らみが見えてしまい、由清の身体中がズクンと脈打った。



「どうしよ……着替えが」



 呟くと、由清の鋭い視線に気付き、桃子は慌てて胸元を隠す。由清はたぎる欲を押し隠し、軽い調子で言った。




「なんなら脱いでもいいよ?」

「――っ!」



 咄嗟の切り返しが出来ずにまた真っ赤になる桃子から顔を逸らすと、由清は溜め息を吐いて低く呟く。



「ダメだな……やっぱり」

「な……ななな何が?」

「桃子と居ると……自制出来なくなる」

「――」



 意味が分からず彼を見上げた桃子は、不意に顎を掴まれた。




「やっ……アンソニーっ」


 至近距離で彼の美しい黒目を見ていると吸い込まれて動けなくなってしまう。またキスされる?という危うい予感に桃子は咄嗟に小さく叫び逃げ出そうと身を捩るが、腰をしっかり抱かれていて動けない。


「由清って呼びなよ」

「ま、またそんな――!」

「三秒数える内に呼ばないと物凄い濃厚なキスするからね」

「さ、さんっ!?」


 三秒なんて早すぎる!と叫びそうになったが、既に彼の唇は桃子の唇に触れる寸前だった。

――やだやだやだっ……またキスされたら私どうなっちゃうかわかんないよ……!


桃子が思わず瞼を瞑ったその時、店のドアが開いて聞き覚えのある賑やかな声がした。






「くわ――っ!やっと追っ手を撒けたぜ――!おいっ由清っ!俺を囮にして逃げるたあひでーじゃねえか――!俺はなあ、あのあと散々だったんだぞ――!女達をちぎっては投げちぎっては投げて――!でも最後の一人がスゲー怪力な女でよ――!俺にしがみついて離れねーの!そしたら警官のオッサンが来ていきなり署に来て下さいとか抜かしてよ!……いかついデカイ男が女性を誘拐しようとしてますっていう通報があったって言うんだよ!ひっでーよなあ!俺は追いかけられて逃げて食い付かれて悲鳴を上げてたのによ――!俺は火事場の馬鹿力で猛ダッシュで振り切って来たぜ!
あ――っ全速力出したら滅茶腹へったぞ!きっとさっきの俺のタイムは日本新記録に違いねえ――!わははは!
おいっ由清!桃子!頑張った可哀想な俺になんか食わせろ――!ガルルルルル」


 肩を大きく上下させてドアに掴まり、髪をワイルドに乱した真理が着ているシャツは袖が千切れていた。ファンに引きちぎられたのかも知れない。

 桃子は由清の腕からするりと抜け出して皿のピザを真理の口に突っ込んだ。

 真理は目を白黒して「お、おおふっ」と呻きもがく。






「大変だったわねえ真理――!ほらほら――たんと食べなさいね――!」

「おふっ!ももほっ!……ほんなにいっぺんに……俺ば猫舌なん……」



 桃子は次から次へと熱々のピザを真理の口へインしては捲し立てた。

 

「ぼ!ぼうやめれ――っ!お前は……加減というぼのをだににゃっ……ゲホッ」

「筋肉を維持するのに沢山食べなくちゃでしょ――っ!遠慮するなんてあんたらしくないわよっ!雨が降るどころか大嵐になるわよ――!ほれほれ――!」

「ぶほおっ」



 背中に由清の視線を感じながら、桃子は新たに運ばれてきたポテトも真理の口に突っ込む。

 真理はもがきながら由清に助けを求めるが、由清は首を振り、瓶に残ったハイネケンを一気に煽り愁いの表情で呟いた。



「……絶妙なタイミングで邪魔された……」




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