続・愛しては、ならない

ペコリーヌ☆パフェ

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ナイトメアの後で②

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掌の中で、膨張した獣がビクンと痙攣した。

夢の中では菊野の身体に何度も打ち込み欲を思う様放ったが、実際に果てた訳ではない。熱がこもった獣は、白濁を吐き出したがって焦れていた。

俺は瞼を閉じて右手を動かし、自分で自分を導こうとする。

動かす度に堪らない快感が脳天へ突き抜けて、声を漏らしてしまう。



「く……はっ……」




だが、瞼の裏に菊野の妖艶な肢体が浮かび上がり、俺は手を動かすのを止めて歯を食い縛る。

菊野を思い浮かべながら自分を慰めるなど、したくなかった。

もう、彼女をこの腕に抱く事は無いのだ。もう、愛する事は無いのだ。

だが、頭の中で菊野は妖しく、魅惑的に身体をくねらせて俺を誘い、甘い声で俺を呼ぶ。



――剛さん……私を……滅茶苦茶にしていいわよ……






その姿を打ち消そうと、俺は唇を強く噛み締めて烈しく首を振る。

消えろ……頼む……消えてくれ。

貴女との想い出など、もう思い出したくもない。その少女の様な笑顔も、鈴を転がすような軽やかな笑い声も、細くてたおやかな指先も、

抱き寄せた時にふフワリと薫る甘い髪も、抱かれた時にしか見せない恍惚とした表情も。

消したくても、この目の奥に貴女が焼き付いて、耳に貴女の声が残り、この身体の隅々に染み付いた貴女の名残が俺を苦しめる。

俺は尚も硬さを増す獣を握り締めたままで低く呻いた。



「……頼む……もう、勘弁してくれ……っ」



その時に、俺の胸に廻されていた夕夏の腕が強く抱き締めてきた。

ハッとした俺は、右手を獣から離そうとしたが、素早く彼女の小さな手が俺の右手ごと獣を包み込んできた。








「くあ……っ」



彼女の手が、俺を包み込んだままで巧みに動き始め、俺は呻く。

小さな息遣いが耳元に触れて、チュッという音と共に柔らかい感触が心地好い。



「お……おはよ……剛君……」

「あ、ああ、おは……ううっ」

「すご――い……男の子って……本当に朝……カチンコチンなんだ……」

「ゆ、夕夏……っ」

「これ……どうにかしないと、でしょ?」

「う……っ……夕夏……っちょっと待て……っ」



夕夏は手を休ませずに動かしながら、俺の首に口付けた。

カアッっと身体中が沸騰したように熱くなった俺は、堪らず彼女の手を荒々しく掴み、組み敷いた。







「あっ……剛く」



彼女の細い腕がぱたり、とベッドに倒れるが、俺が乳房に舌を這わせた途端にその指は強くシーツを掴み、震える。

昨夜、何度も彼女に触れて口付け、何処が一番弱くて何処が彼女を高い声で啼かせるのか、俺は自分の身体で覚えた。

初めてだった彼女は、俺の愛撫によって花開き、触れれば感じる淫らな身体に変えられてしまった。

俺の言うことに素直に従い、どんな恥ずかしい要求も彼女は涙目で受け入れ、また彼女も俺を悦ばせようと、その唇や指で健気に奉仕した。

そんな夕夏が可愛くて、いとおしくてたまらなかった。

彼女に夢中になった筈だった――なのに、菊野が夢の中に現れただけで、俺は菊野に全てを持っていかれてしまう。

忘れたいのに。もう、俺はあの女(ひと)に囚われていたくない――と強く願っているのに。



「夕夏……っ……もう、挿れたい――」

「え……あ……ああああんっ!」



俺は、猛りを彼女の窪みに押し当てて、そのままめり込ませた。






彼女の中は既に熱を持ち濡れそぼり俺を受け入れる体勢だった。

一気に腰を奥まで突き進めた俺は、何秒間か爆ぜそうになるのを堪えて動かずにいた。

それだけ既に獣は猛り、絶頂の間際だった。

夢の中で菊野を攻めていたからここまで興奮しているのだ、と認めたくなかった。

彼女を忘れるんだ。

無理でもなんでも、彼女との記憶をこの胸の中から追い出して、この身体に残る彼女の温もりも全て――



「つ……よしく……っ……早くっ……動いて」



焦れた夕夏が、せつなげに瞳を潤ませて俺にしがみつき、腰を振った。

その仕草が俺を煽り、直ぐ様彼女を突き上げ始める。






「夕夏っ……」



彼女を何回か打ち付けたが、早くも爆発の予感が訪れ、俺は唇を噛みやり過ごそうとした。

だが、自分でその波を止める事など不可能だった。

獣は夕夏の中で弾け、ドクドクと精を吐き出してしまった。

夕夏は驚いたように目を見張るが、柔らかく笑うと、頬にキスしてきた。



「ふふ……我慢出来なかったんだね」

「……ごめん」

「だから――謝らなくて良いってば。こういう時には禁句!」



彼女は鼻に皺を寄せて軽く睨み、キスした頬を軽くつねった。



「夕夏……足りないだろ?もう一度……」



彼女に再び被さるが、頭を叩かれる。



「もうっ……そんなに私、淫乱じゃないわよっ!」






「ええ?」



昨夜の彼女の乱れっぷりをこの目で見て、身体で直に感じていた俺はその言葉を聞き返してしまう。

夕夏は俺にアカンベをして、服を掴んで洗面所へ行ってしまった。



「入ってきたら、殴るからねっ」



こんな捨て台詞を残して。

彼女が居なくなり広くなったベッドの上で、シャワーの音を聞きながら俺は呆然としていたが、不意にとてつもない怠さを感じ、仰向けに身体を投げ出した。

――疲れた、と思った。

それは当然な事だった。実際、昨夜は殆ど眠っていない。抱いても抱いても足りず、夕夏を際限なく求めて啼かせ、明け方の僅かな眠りの中でさえ、俺は菊野を攻め立てていたのだから。

夕夏も相当消耗しているに違いない。初めてなのに何度も俺に……

そこまで考えると、腕の中で揺れる夕夏の豊満な乳房を思い出し、疲れきったはずの身体がまた疼き出した。

俺は舌打ちし、拳で自分の頬を打った。



「もう、いい加減にしないかっ……くそっ……」







深く深く息を吸い込み、何か別の事で気を紛らせようと思うが結局は家や菊野の事が浮かんできてしまい、朝方に見た夢の事を考えてしまう。

そういえば、学校を休んでしまってどのくらい経つのだろうか。

俺はあの学校で模範的な生徒になって優秀な成績で卒業してみせる、と自らに誓ったのだ。

だがそれは自分の為にというより、菊野の為だった。

菊野が、家から近くで優秀な生徒の多い進学校を――と望み、俺はあの学校を選んだのだ。

だが、菊野はもう俺に何も期待などしていないのではないだろうか?

少なくとも、彼女は俺に愛されることをもう望んでいない。

あまりにも突然に訪れた、終わり。

ついこの間まで、お互い熱烈に求めあっていた筈なのに、何故こんなに早く、突然に褪めてしまうのだろうか。

恋とは、愛とはそういう物なのか?

花火の様に一瞬美しく咲いて、散ってしまう物なのだろうか。







――剛さん、ひとつ考えがあるんだけど――



不意に、花野の言葉を思い出して、俺は元より自分の中にあったある考えが、はっきりと形を成していくのを自覚する。

西本の家に来たその日から確かにあった違和感。

突き詰めて考えてしまうと、具体的な答えが見つかってしまいそうで、俺は考えるのを避けていた。

だが菊野を愛して深い関係になり、その愛も終わり、悟志が目覚めた今。

答えはひとつしか無いように思えた。

俺が居たら、あの家は壊れる。

俺が、壊してしまう。

そうなる前に――跡形もなく壊してしまう前に、俺は……



俺は、気が付けば両の拳が真っ白くなる程に強く握り締めていた。







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