続・愛しては、ならない

ペコリーヌ☆パフェ

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ナイトメアの後で①

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『剛さん……剛さん』



耳を羽毛で擽るような優しい声がする。

俺は、家のリビングでピアノを弾いていたのだが、その声に気付き指を止めて振り返ろうとする。

だがその前に、柔らかい感触の物が目を塞ぐ。

甘い香りに俺は頬を緩めながらその柔らかい手を握った。



『菊野だね……?驚かそうとしても無駄だよ?』

『うふふ……ばれた?』



菊野は、何も身につけて居なかった。

その身体の美しい曲線を隠すものは背中までの艶やかな髪しかない。

髪は彼女の乳房の突起を辛うじて覆っているが、綺麗な大きい丸みは隠しようがなく、俺は遠慮無しに彼女の身体を頭の先から爪先まで眺める。

彼女は頬を染めると腕で身体を抱き締めて、後ろを向いてしまった。



『もうっ……見ないで』

『だったら何故……そんな格好で来るんですか?』




俺が肩に触れてこちらを向かせると、彼女は魅惑的に笑い、誘う様に掌で頬に触れて、首を傾げた。




『ふふ……何故かしら……』

『……菊野……っ』



俺は、彼女を抱き締め、そのまま組み敷いた。





彼女の腕が首に絡み付き、髪を撫で、その手は背中を愛撫し始める。



『剛さん……どうして……私の元から逃げたの……?』

『菊野……っ……もう……貴女から離れたりしないよ……』

『本当に……本当に?』



彼女は、日溜まりの様に温かく微笑む。

俺も、笑みを返して彼女に口付けた。

触れるだけのキスを何度も繰り返し、どちらからともなく舌を絡ませて咥内を貪りあって、溜め息をもらす。

手を彼女の下腹部へと滑らせて花弁を探し当てると、既に愛の行為を欲して雫が滴っている。



『剛さん……もう……離れないで……身体も心も……離さないで』



吐息混じりの声で耳元で囁かれ、既に猛っていた俺は堪らずに彼女の中へと沈んだ。







沈ませた途端、弓なりに仰け反った菊野の表情は苦しげで、だが美しかった。



『ああ……大きい……っ……凄……い』



俺は、少しでも動いたら爆ぜそうな程に膨張していたが、菊野が焦れったそうに腰を振り、凄まじい快感に呻いた。



『くっ……菊野が……こんなにさせてるんだ……』

『私の中も……剛さんのせいで……こんな風になってるのよ』

『――うっ!』



菊野の蕾は俺をギュウと締め付け、蜜を溢す。

全く余裕のない俺は、下腹部を襲う凄まじい熱が冷めるのを何秒間か待って遣り過ごし、彼女の頬を撫でた。



『好きだ……菊野……貴女の全てを俺の物にしたい……』



他に言葉が見付からなくて、上擦る声で俺が言うと、彼女は瞳を潤ませた。



『私は、貴方の物よ……』

『菊野……っ』



有らん限りの力で彼女を抱き締めると、何処からか低くて地を這うような声が聴こえてきた。



――そんな訳がないだろう……

彼女はお前の物にはなり得ない……






『……っ……誰だ』



俺は、彼女に腰を打ち付けながら、姿の見えない声の主に凄む。

彼女は腕の中で甘い声をあげ、自らも腰を振っていた。



『ああ……ああっ……剛さん……好きよ……愛してるわ』

『菊野……菊野っ』



――お前が抱いているその女は、他の男の物だろう――



その言葉に、ギクリとして一瞬動きを止める俺に、菊野は恨めしい眼差しを向け、動けとせがむように腰を廻した。



『うっ……』



それが更に淫らに俺を刺激して、彼女を一層烈しく突き上げる。

彼女の身体が揺れて、長い髪も揺らめき、俺の腕に絡み付いて来る。



――教えてやろう……その女はな……お前を愛してる訳じゃないんだよ……



『黙れっ……俺は彼女を好きで……彼女も、俺を愛してくれているんだっ……』



俺は、菊野を打ち付けながら、またも聴こえる低い声に言い返すように叫んだ。





――ハハハ……そんなことが何故言い切れる。

女は心と身体を使い分ける事が出来るんだよ……




『黙れ……!』



俺は動きを止めないまま、腰を突き進める。

菊野は妖艶に乱れ、言葉にならない叫びを上げながらしがみついてくる。

細くたおやかな腕が強く抱き締めてきて、彼女の細い爪が食い込み、鋭い痛みと共に絶頂の予感が脳天まで駆け抜ける。

俺は狂ったように彼女を打ち付け、彼女も切ない声で啼いた。

二人で同時に達し、俺は欲望を彼女の中へと一滴残らずに吐き出して、身体中を震わせた。

彼女はうっとりとした表情で俺の頬に触れて口付けるが、次の瞬間信じられない言葉を呟いた。




『……もう……貴方の身体には用はないわ』







『菊野……っ?』



菊野は、俺の腕の中からするり、と抜け出し、宙を見詰める。

すると、何処からか現れた黒い影が彼女の身体を呑み込んでしまう。



『菊野、菊野――っ』



――そうら、お前の愛した菊野は、こんな女なんだよ……

よく見ておくがいい……



先程まで聞こえていた得体の知れない低い声は、途中から違う声色に変わっていた。

それは、俺がよく知る人物の物だった。



『……も……森本?』



黒い影は様々な形になり不気味に蠢いていたが、やがて人の形になり、菊野の姿も現れる。



『あ……ん……あっ……森本君……』



俺は目を覆いたくなる光景をこの目で見てしまう。

森本に烈しく責められながら、菊野が悦びの声をあげて腰を振っている様を。






菊野と森本は、貪り合うように抱き合っていた。

口付けを何度も交わしながら、休みなく腰を打ち付け合う。



『ふふ……剛……菊野さんの身体は最高だね……』



森本は一旦自分を引き抜いて菊野の足首を掴み肩に掛け、その姿勢で突き刺した。

菊野が狂ったように叫び、のたうち廻る。

激痛と言える程に胸が痛み、喉の奥に苦い物が込み上げてくる。



『森本っ……やめろっ……菊野を離せっ』



どす黒い怒りから息苦しくなり、吐き気を堪えながら彼を睨み付けるが、身体が思うように動かず、己の拳を握り締めるしかない。

森本はそんな俺を嘲笑った。



『ふふ……離せ?止めろって?……菊野さん……どう?止めて良いの……?』

『ああっ……いやっ……止めないで……もっと、もっと突いて……っ』



菊野は自分から腰を打ち付けて叫んだ。

俺は、頭がハンマーで殴られた様に痛み、手で押さえてうずくまる。



『嘘だ……嘘だ!こんなの……嘘だろう!?』








『ああんっ……もうだめっ』

『く……菊野さんっ!』



菊野の身体が痙攣し、森本が短く叫ぶと、二人は崩れ、ぐったりと横たわる。

俺は耐えがたくなり、二人から目を背けるが、今度は別の人物が俺の頭の中に語りかけてきた。



――おや、もう見るのは終わりなのかい?

君は盗むのが好きなんだろう……?

僕と菊野のセックスを盗み見ながら自慰に耽ったりした癖に……



『――悟志……さん!?』



顔を上げると、森本の姿は消え、悟志がその逞しい身体で菊野を蹂躙している最中だった。

後ろから貫かれ、彼女は泣き叫んでいる。

だがその叫びは快感に酔っている故の物に見えた。









烈しく揺さぶられて上下する乳房を背後から悟志の浅黒い手が揉みしだき、彼は俺に見せ付けるかのように腰をゆっくり廻してから深く彼女を打ち付ける。

悟志の表情は、烈しい行為の最中とは思えないほどに穏やかだった。



『どうした?……見ながら、自分を慰めたらどうだ?
僕は……菊野の身体を一番良く知っている……
何処をどうして触れればよいのか、彼女がどうすれば身体を疼かせるのか……
僕が抱いている時の彼女は最高に淫らで綺麗だろう?……だから君もあの晩、その手で烈しく自分をしごかずにはいられなかったんだろう?』

『あん……あああ……悟志さんっ……』

『菊野……可愛いよ……さあ……達(い)ってごらん』

『ああっ!ああ――っ』



見たくない、だが、この目は彼女が打ち付けられる姿を見ずにはいられなかった。

そして、忌々しい俺の猛りは、彼女を責め立てていた時以上に屹立し、膨らみ硬くなっている。








『剛……さあ、やるがいい……僕に抱かれる菊野を見て猛らせながら……自分を慰めてみなさい……っ』

『ああ――っ……悟志さ……好き……好きよ……ああん!』



彼女が他の男に抱かれているという事実よりも、他の男に恋の言葉を告げるのを目の当たりにした衝撃は、俺の身体を真っ二つにするかの様に激烈だった。

俺を好きだと、愛してると言ったじゃないか……

同じその唇で、悟志に同じ事を言うのか……?

その蕩ける程に甘い声で、可憐な瞳を潤ませて見詰めて――

嘘だろう?これは何かの間違いなんだろう?

そう言ってくれ――菊野――



『間違いは、お前の存在そのものなんだよ』



また違う人物の声に、俺の身体は凍り付いた。

冷たい眼差しが目の前にあり、首に手を掛けられている。

それは、俺の母親だった。

底冷えのする瞳で俺を見て――その中には、何の感情も浮かんでいない――

俺の首を強く締め上げる。



『お前は要らないんだよ……お前なんかが、普通に幸せになれるもんか……』

『く……離せ……っ』



もがき、その手を掴み退けようとした瞬間、母の姿は菊野にすり変わっていた。

菊野は俺の首をじわじわと締め付けながら、微笑む。

だがその花弁のような唇が放った言葉は――




『……貴方は……もう……要らないの……』







「――うわああっ――」



絶叫した瞬間、カッと目が開いた。

目に映るのは見慣れない天井。花柄のカーテンの隙間から朝の日差しの光線が、部屋の中に細い線を描いている。

ふと横を向くと、小さな息を立てて夕夏が眠っていた。

夢を見ていたのか、と漸く理解する。

菊野を烈しく抱いてから、森本や悟志と絡み合う彼女を見せ付けられたのが夢で、病院から抜け出して夕夏のところへ転がり込み、夕夏と何度も身体を重ねたのが現実なのだ、と認識したが、途端に自分を嫌悪する。

俺は昨夜、夕夏に何をした――?

思い出せば思い出すほど、取り返しの付かない事をしてしまった、という後悔に襲われた。

菊野に拒絶された悲しと悟志に忘れられた衝撃で、自分の中の箍が外れてしまったのだろうか。

夕夏の好意につけこんで、飢えた心と身体を彼女の身体を使って充たそうとしたのだ。

夜じゅう、彼女を抱いて、啼かせて――

夢中で、貪る様に、獣の様に。








「……く……」


身体の中心が、夢の中と同じように熱を持ち、屹立していた。

痛いほどに硬くなっているそれを、忌々しい思いで手で握ると、全身が震える。

眠る暇も与えないほどに夕夏を求め、欲を放ったと言うのに、夢の中の菊野の身体を思い出すだけでまた猛る、獣の様な自分を殺したくなった。

菊野の事を諦めるのだ、と決めたはずだった。

夕夏と身体をまさぐり合いながら、俺は菊野の事を彼女に話した。

彼女は俺を蔑みも、同情もしなかった。

俺の話を黙って聞いて、こう呟いた。



『辛い恋を忘れるのにはね、新しい恋よ』



そう言うと、彼女は真っ赤になって俺の頬を軽くつねった。



『うわ……なんか……自分で言っておいて恥ずかしいわ……ほら、よく言うじゃない!そうやってさ――!
で、その……その新しい恋って言っても別にっ……私と恋しましょうだとか……言わないからっ……
て……やだ――っ!もっと恥ずかしい――キャアア』

『ちょ……ちょっと夕夏……っストップ』



夕夏の頬をつねる力がどんどん強くなって、俺は彼女の手を掴んだ。






『あっ……頬っぺたが赤くなっちゃった……ごめ――ん!』



彼女は頬を小さな手で擦るが、俺と目が合うと俯いてしまった。

頬だけでなく、小さな耳までが真っ赤に染まっているのを見て、可笑しくなってきてしまい吹き出すと、彼女は怒って拳骨で叩いてきた。

俺は腕で庇いながら笑いが止まらず、彼女を益々怒らせてしまう。



『もうっ……何で笑うの……っ!人が真面目に』

『夕夏――』



降り下ろされる拳を間一髪でかわして、彼女の背中を抱き寄せて唇を重ねると、甘く気だるい溜め息がこぼれる。

唇を離し、俺は彼女を見詰める。

彼女はまだ真っ赤だった。

怒った様に口を尖らせて、俺を睨む。



『……キ……キスしてくれたから……許してあげる』

『ぷっ』



俺はまた笑ってしまう。








『笑いすぎ――っ!』

『ごめん……ごめん、夕夏』



首を絞めてくる彼女に笑いながら詫びると、彼女は突然手を離して黙りこんだ。

その頬も、首筋も胸元も鮮やかに染まり、とても綺麗だ、と思った。

そう言おうとして口を開きかけると、毛布を掴んで頭まで被ってしまう。



『夕夏?』

『……』

『眠いの?……まあ、そうだよな……何度も疲れさせる様な事をしてごめんな』

『……』

『じゃあ……お休み』

『――謝らないでよ!』



彼女は怒鳴り、毛布から顔を二ョキリと出すが、目が合うとまた顔を引っ込める。








『夕夏』



毛布を掴んで降ろそうとするが、彼女は非力ながらも手先に力を込めて死守している。



『怒ったのか?』



もう少し力を入れて降ろそうとしたが、彼女は思いがけない怪力を発揮していて、毛布はびくともしない。

何故怒るのかよく分からない俺は、馬鹿みたいに彼女に許しをこうしかない。



『……俺の勝手な事情に巻き込んで、しかも夕夏の身体を好き勝手にして……申し訳ないと思ったから謝らなきゃならない、と思ったんだよ……
でも、それは間違ってたのかな……夕夏を傷付けたなら……悪かったよ……ごめん』

『だから!それを言うなって――』



彼女はまた顔を二ョキリと出して怒鳴った。

直ぐに捕まえようとすると、また引っ込む。

また俺が何かを言うと、ヌッと顔を出してまた引っ込む――

ゲームセンターのもぐら叩きゲームを思い出す。

ハンマーで彼女を叩くわけにはいかないが。

何十回もそんな事を繰り返す内に俺はいい加減焦れて、毛布ごと彼女を抱き締めた。







小さく息を呑む気配がするが、俺は強く夕夏の身体を抱き締める。

逃れようともがく彼女だったが、その動きも封じる様に強く。



『むむ……くるし……っ』

『だったら、おかしな遊びは止めて出て来いよ』

『あ……遊んでるんじゃないもん!』

『言うことを聞かないとこのままだぞ』

『――!もう……!剛君のどS――!』



S(エス)に『ど』を付けられてしまったな、と思っていたら、夕夏がとうとう顔を出し口を大きく開き、息を吸い込む。



『ああ……苦しかった……』

『夕夏』



俺は、素早く毛布を剥ぐと、彼女がまた隠してしまう前にその身体を押し倒し、胸元に顔を埋めた。






『……ん……やあんっ』



擽ったがって身を捩ろうとする彼女の乳房に顔を埋めたまま俺は言う。



『夕夏……俺は、夕夏に感謝してるし、すまないとも思ってる』



俺の声が刺激になったのか、彼女は仰け反って小さく叫んだ。

その反応に、俺の欲がまた目覚め、目の前の大きくて美しい乳房を鷲掴み、突起に舌を這わせる。



『や……ま……また変な気持ちになっちゃうから……ダメっ』

『……変なって……どんなだよ』



突起を指で押し潰すと、彼女の身体が跳ねた。

俺の胸を腕で押して抵抗していたが、その力が弱々しくなっていく。



『だから……っ……言わせないで……意地悪!超どS剛!』

『なんだか……どんどんパワーアップしていくな』



指を下腹部に滑らせ、蕾を探ると彼女は俺の背中を叩いて泣き叫ぶ。



『あ……や……だめえ……っこれ以上……こんな……私、勘違いしちゃうよ……っ』

『……勘違いって』



指を動かすのを止めて、夕夏を見詰めると、彼女は涙をポロリと溢した。









菊野にもよく泣かれたが、やはり女の子に泣かれると狼狽えてしまう。

彼女は瞼をギュウと瞑り、頭を振って涙を引っ込めようとしているらしいが、止まるどころかもっと溢れだす。



『わ……分かってるし……私、清崎晴香ちゃんみたいな優等生でも美少女でもないし……
剛君のお母様みたいに可愛くもない……
だ……だから、剛君を慰められるなんて思ってないし、こ……恋人になれるなんて……思ってないから……っ』



切々と舌足らずに言う彼女が堪らなくいとおしく思えて、抱き潰す程に力を込め、彼女を腕で包む。



『剛君……さ……さっき、してる時に――』



そこまで言い掛けて、真っ赤になり絶句する彼女の言葉を俺が続けた。



『――セックスしてる時に?』

『……!』





夕夏のぷくっとした唇が戦慄き、充血した瞳は俺を見詰めてまた涙を溜めていた。




『な、なんでそんなにあっさり口に出せるのよっ……私……恥ずかしくて……
私の事を……なんとも思っていないからそんな風に言えるんでしょう?』

『夕夏……君の方から誘惑してきたんだよ?
なのに……恥ずかしいとか……よく分からないな』

『そうだけど……っ』

『――今だけ、私の事を好きになってくれればいいって……そうも言ったよね』

『……そ……そうよ……そうだけど』



彼女はグッと詰まり、唇を噛む。

その唇を指でそっとなぞり、俺は静かに言った。



『悪いけど……俺は、今だけ好きにだとか、器用な事は出来ない』

『――』



彼女の顔が青ざめ悲壮な表情になるが、俺が更に言葉を続けると、その頬は再び赤く染まっていく。



『セックスの最中に言った言葉は……本当だよ』

『つ……よしく……』

『夕夏の声も、喋り方も、顔も、身体も好きだよ』

『か、か、身体って』



夕夏は口を大きく開けて固まる。







ゆっくりと彼女の頬から首筋、鎖骨から乳房、お腹から太股へと手をゆっくりと滑らせ、彼女の耳に囁いた。



『好きだよ……夕夏』

『――!』

『勘違いだとか思うな……勘違いじゃないし』

『剛君……で……でも』

『正直……菊野の事がまだ吹っ切れてる訳じゃない……でも……夕夏を好きになって、忘れてみせる』

『本当に?ほんとう?』

『本当だよ』



彼女は溢れんばかりの笑顔になり、俺の胸にしがみついてきた――





夕夏の優しさに甘え、その魅惑的な身体に溺れて、菊野の事を忘れられると思った。

実際に、彼女と身体を重ねている時には菊野との事や、家の事は一切頭になかった。

菊野への気持ちを自覚してから、常に彼女の事が頭の中に住み着いていたのに、夕夏の不思議な暖かさはそれを忘れさせてくれた。

そして、俺も夕夏を好きだと思った。 好きになれると、愛せると思ったのだ。

もう大丈夫だ、と思ったのに……

夢の中では、自分の正直な願望や欲望が包み隠される事なく顕れるのだろうか。

俺は、菊野に果てしなく焦がれ、欲情して、彼女の身体を貪り尽くそうとしていた。

隣で眠る夕夏が寝返りを打ち、無意識に俺の背中に抱き着いてくる。

その温もりに、罪悪感と、自分への侮蔑が沸き上がった。







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