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番外編~私とチョコ、どっちが甘い?~綾波と美名のバレンタイン~④
しおりを挟む「剛……さ……
ここで……
このまま……
お願……」
美名が、綾波の頬に触れて涙を流すと綾波は我慢の糸が切れたかの様に、美名の唇を激しく犯し始めた。
美名の長い髪と身体を激しく掻き抱きながら唇を蹂躙し、咥内を隅々までその舌で堪能する。
美名は、綾波の髪を指で掴み、悩ましい息を時折唇から漏らしながら甘い快楽に沈みかけていたが、ふと内藤の言葉が頭の中に蘇り熱が急速に褪め、顔が青ざめていく。
『……一晩でいいんだよ……
マネージャーとの事……バレたらマズイでしょ?』
火のついた綾波は、美名に口付けしながらベルトを外そうとしている。
「ん……んん、んんっ――!」
(駄目……
やっぱり、剛さんに、話さなくちゃ……!)
美名は、喋ろうとするが、綾波が唇を塞いだままなので言葉にならない。
「―――っ!
―――!―――!」
美名は、精一杯の力で身体を捩り、手足を動かしてみるが、猛った綾波はびくともしない。
綾波はベルトを外して放り、獣を引き出そうとしている。
彼の興奮が、唇から漏れる熱い息で伝わってくるが、ひと度身体にそれを受け入れたら、話す処では無くなってしまう。
(ああ――もう!
こうなったら――!)
咥内を踊る綾波の舌を、美名は思いきり唇をすぼめて捕まえる。
「っ!?」
綾波は、戸惑い目を見開き唇を離そうとするが、美名の唇に舌を強く吸われて出来ずに目を白黒させた。
「む……むむ――!むむ!むんむむむ――?」
綾波が、目で抗議している。
美名は、鼈(すっぽん)の様に綾波の舌に食らい付いて離さなかったが、その慌てる様子を見て次第に可笑しくなり、プッと吹き出すと同時に、綾波を解放したのだった。
綾波は、唖然としながら美名を見た。
美名は、今更しまったかな、と思っていた。
内藤と二人きりになり隙を与えた上に、こんな逆襲をして……
(――お、怒られる?)
綾波は、眼鏡を外して美名の顎を掴む。
その鋭い光に思わず身体を縮めてしまうが、溜め息を吐きながら、綾波が凭れかかって来た。
「ふぇ……?」
怒鳴られるかも、と身構えていたので、拍子抜けした美名は間抜けな声を出してしまった。
「悪かった……
大事な収録前なのに……
つい……我慢出来なくてな……
許せ……」
綾波は、優しく美名の頭を叩いていた。
「剛さ……」
「ん?」
綾波は、美名と向き合い笑った。
「さ、さっき……アニーと……何してたの?」
そうだ。
美名は何よりもそれが一番気になっていたのだ。
綾波は眉を上げ、唇を開きかけたが、美名は我慢していた感情が一気に昂り、綾波の頬を思いきりつねる。
「いっ――!?」
目を白黒する綾波の耳元に美名は絶叫した。
「――剛さんが……アニーとフラフラ何処かに行ったりするから……
だから私は内藤さんに……
剛のバカ――!」
「あ、ああ……
そうだな……
全くその通りだ……
俺が悪かったよ……
そうだ、俺はどうしようもないバカだ……」
綾波は耳をキーンとさせながら、美名を落ち着かせようと抱き締めて背中を叩く。
美名は綾波の胸を何度も叩き、しゃくりあげたが、次第にそれは甘える様な仕草に変わっていき、綾波の胸の中で、美名は事の顛末を一部始終告白した。
美名は、綾波の膝の上に乗り総てを話してしまうと安堵した様に溜め息を吐く。
「……だから、私、どうしようって思……」
綾波は涙で濡れた美名の瞼にキスをすると、優しく笑った。
「よく、白状したな……
偉いぞ」
「は……白状て」
「そうか……
やはり奴はお前に触れたのか……
お返しに、あのにやついた顔を二度と出来ない様にぶちのめしてやろうか?ん?」
「つ、剛さんっ」
「冗談だ」
「……冗談に聞こえないから怖いよ」
蒼白になる美名の髪をクシャリと撫でてから、綾波は乱れた身なりを整え、美名のワンピースのファスナーを上げて、スカートの裾を直す。
美名は、脱がされる時の様にときめきながら綾波のするに任せてその涼やかな瞳に見とれていた。
綾波は、美名の唇をじっと見てから、ポケットからルージュを出すと、顎を持ち上を向かせ、丁寧に塗る。
「ふ……んっ」
キスをされているかの様に、美名は悩ましく反応をする。
「全く……
そんな顔をすると、また襲いたくなるじゃないか……」
「――だ、だって」
真っ赤になり、美名は抗議するかのように睨む。
綾波は時計を見て、美名を抱えてテーブルから降ろした。
「さて……
そろそろ時間だ。
……内藤の脅しは、無視すればいい」
「で、でも……」
綾波と自分の仲をバラされたら……
と不安な表情を浮かべる美名の鼻を綾波は軽く摘まんだ。
「堂々とすりゃいい……
バラされたら、その時はその時だ。
……熱愛宣言で、会見でもやろうか?ん?」
「剛さ――」
「大体が、そんな事でファンが離れる様な音楽を、お前らはやってないだろ?違うか……?」
美名は、綾波に抱き着いた。
「剛さん……剛さんっ」
美名は、胸に込み上げてくる何かを抑える事が出来ずに、綾波の胸に顔をぴったりと押し付けて、しがみついた。
「ハハハ……
おい、熱い抱擁は、収録が終わってからたっぷりとしようか……
さあ、行くぞ……姫様?」
綾波は、美名をそっと離すと、パーティにエスコートする様に肘を曲げ、美名に掴まれと目で促す。
美名は、輝く笑顔で自分の腕を絡ませた。
綾波が鍵を開け、スタジオに向かう途中、美名が思い出した様に聞く。
「……!そうよ、アニーとは何をしてたの?」
「ああ、やっぱりそれを聞くか……やれやれ」
舌を出す綾波に、美名は頬を膨らました。
「何よそれ――!
気になるから聞くのは当たり前だし!」
「……お前と同じさ」
「え!?」
「お前が内藤に言われた事とそのまんまの言葉を……俺も」
「な、ななな……っ!
そ、そそそ」
余りの驚きに、呂律が回らなくなる美名に綾波はキッパリ言った。
「――俺は、お前だけの物だからな」
「――――!」
美名の胸がズクンと疼き、思わずその背中に飛び付きたくなってしまうが、スタジオに着いてしまった。
重い扉を綾波が開けると、既に真理と由清はスタジオ入りをしていて、二人を見ると安堵する。
「あ――っ!良かった、ギリギリ間に合った~!も~!心配したよ」
「美名っ!
何処か具合が悪くなったのかと思ったぞ!
大丈夫か?
頭は痛くないか!腹は!尻は!」
二人が同時に美名に駆け寄り喚く。
「ご、ごめんね、真理君、由清君」
「まさか、綾波の奴に苛められてたんか~!?」
真理にからかい半分で言われ、美名は真っ赤になるが、綾波は涼しい顔をしていた。
「美名さ――ん!いた!
よかったあ――!
もうすぐ始まりますよ!」
アニーが、優雅な足取りでやって来て首を傾げて笑う。
長いお人形みたいな睫毛に、抜ける様な白い肌に、光に透けると輝くプラチナブロンド、すらりとした手足――
見れば見る程、圧倒的に自分は敵わないと思ってしまう。
(……でも、剛さんは、こんなにも綺麗なアニーに誘惑されても……
俺は、お前の物だからなって……
言ってくれた……)
アニーは、然り気無く綾波に視線を送っているが、美名は笑顔でそれを無視した。
(……私は、信じる。
そして……
勇気を出さなくちゃ……)
「台本は頭に入ってるかな?」
内藤がトークをするテーブル席から声を掛けてくる。
美名は頷いた。
「はい、何処からかかって来られても大丈夫です!」
「お――!頼もしいねぇ!」
内藤は笑う。
美名と綾波は、背中で手を握り合っていた。
僅かにその力を込め、美名は綾波に小さく言う。
「剛さん」
「うん?」
「熱愛会見の言葉、考えておいてね?」
「……そうだな」
二人して笑い合っていると、メイク係が走ってやってきた。
「美名さん、本番前にチャチャ――っとお直ししますね~!」
「じゃあ……
しっかりな、美名」
綾波は、美名に優しく笑いその手を離した。
美名はメイクされながら、目で返事をした。
(剛さん……
私……
頑張る……
脅かしになんか、負けない――!)
「あ――、いい表情だねえ、本場もその顔で頼むよ、美名ちゃん」
内藤は、台本を手に美名に笑いかけたが、美名の目に宿る強い光に真顔になる。
先程の、おどおどしていた少女の様な美名はそこには居なかった。
目の前に居るのは、プロとして綾波の恋人として覚悟を決めた女性だった。
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