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本編②

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階段で守りをしている棋士に驚愕されながらもイチヤは階段を駆け上った。
こんなお偉いさんや大勢の人がいる中で階段を一つ飛ばししているのは俺だけだろう。
好きな人の顔が見たい。
それだけの為にイチヤは足を動かした。
上に行けば行くほど人の声が段々と聞こえるようになり、上り終わる頃には色とりどりの綺麗なドレスを身に纏う女性や、それを愛おしい目で見る男性の姿があった。もちろん、男同士も女同士も少なくはない。ここにいる全員が同性や偏見な目がなく笑顔で楽しく踊っている。ここはイチヤが求めていた理想の空間だ。
本当は身元の確認としてどこの家かと名前を言わないといけないのだが受付の人なんて仕事が終わってとっくのとうに今を楽しんでいるはずだ。名前を言った方がいいのか、だけど誰に言えばいい。そんな感じでイチヤが暗い所でモタモタしているとコツコツと質の良い靴の足音が聞こえてきた。イチヤが振り返るといつもは下ろしている髪を上げ、深い紺色のスーツを着ていて、何倍もビジュがいいジルが立っていた。
(やっべ、メインキャラでもないのにこんなカッコいいとは....)
ここまで来てもゲームのクオリティに驚く。
ジルは俺と目が合ったまま逸らすことはなく、だんだんと頬が膨れ上がっているかのように見えた。俺は逃げる事を選んだ時に誰一人としてこの事を言わなかった。もちろんジルにも。
恥ずかしかったから。

「まぁ戻ってきたし」
「ごめん、良くしてもらったのに」

「良くしてもらったぁ?俺はお前と“友達”になりたかったから隣にいたんだ。お前に良くしたつもりはないね。」
「...“友達”でいてくれるの?」

ジルは眩しい笑顔を見せて、イチヤの肩を叩いた。当たり前だと言わんばかりの力の強さだった。イチヤは自然と笑顔になった。
最初の環境や後からの環境には逃げたけど、
今日は逃げずにきちんとジルと話せて良かったと思った。ジルが俺の友達で良かった。

「んで、お前はアイツに会いに行くのか?待ってるから早く行ってやれ」
「は、んなわけ」

突然のジルの発言にびっくりする。
待ってる?誰が、俺を?なんで
俺の事嫌いになったからこの舞踏会を開いたんだろう。俺はグランを一目見て、叶うのならば一緒に二人きりで喋って告白して別れて終わるってプランを考えているのだけれども。

暗い所で二人、コソコソと何か話している。
そんな状況を見た護衛の人達はさぞや俺達が怪しく見えただろう。
甲冑がカシャカシャと歩き出し、こちらに向かって来ている。イチヤは甲冑の騎士が目の前にいる圧にびっくりして、腰が抜けそうになった。ジルは舌打ちを軽くした後、騎士に逃してもらおうとポーカーフェイスで話している。
運がいいのか会場ではみんなが輪になり、俺達が騎士に捕まっている事は見られていない。

「貴様ら何をしていた?答えろ」
「これはこれは、騎士のサルド様。
 私の友達が好きな人に踊りのお誘いをしようとした所、シャイでしてね。こうして慰めをしていました。すいません。すぐに場所を変えます。」
ジルはイチヤに目線を送り、歩こうとしてその時、騎士に止められてしまった。

「こちらの人は見ない顔だ。名前と家は?」

本当はアレスを名乗り出るのが正解だったのだろう、だが、俺はアレスの友達だからな。
俺はアレスじゃないんだ。
震える足を踏み出し名前を言う。

「イチヤです」
「....バカだ、お前は。」

ジルは呆れた顔をしていたのかと思いきや、楽しそうな顔をして騎士が着ている甲冑の服を見た後、ヘルメットを下げ、騎士の視界を真っ黒にさせた。キラキラとした目をした後、イチヤとジルは走り出した。二手に別れて、なんとかしようと頭を動かした。
セットしてくれたのに、髪は走って崩れてしまった。

「侵入者だ!捕えろ!」

騎士の一声で踊っていた人達の目線が一気に騎士の方へ向く。会場がザワザワし始めて、誰が侵入者なのか目で探すようになる。
ヤバい、俺が捕まったら会えない!
好きな人に、まだ、一度も顔を見てない。
イチヤは迷惑が掛からない程度に全速力で騎士との距離を離し、人混みに紛れようとしたがイチヤの衣装が目立つ為、一瞬で騎士にバレる。
横を見るとジルは騎士に捕まっていた。
もう無理だと、足を止めようとした時、

「こっち」

人混みから一本の手が出てきて、俺の腕を思い切り掴んで、人混みの中に入った。
荒い息づかいで掴んでいる手を見てみると、茶色い髪で目が大きくて、俺がライバル視していてヒロインがいた。本当に綺麗で目が離せない。もう恨みや醜い感情はないが、一生勝てないだろうと諦めはあった。
そんな人が俺を庇った。

「ほら早く行ってきな」

背中をドンっと押され、尻餅をついた。
いててっと背中を手に添えて擦っていると、俺が今座って痛がっている所はちょうどダンスを踊っている人にとってのど真ん中で人混みが俺を避けているかのように俺だけ輪に外れて尻餅をついている孤独な人みたいになっている。
沢山の人が俺を見下して見ている。
怖くなった俺はさっきまで痛がってたお尻は痛みがないんじゃないかと思われる程の速さで立ち上がった。
ヤバい、本当に別の意味で死にそう。

そう思って、輪の中に入ろうとした時、
後ろから男の声が聞こえた。
女性の歓声が聞こえる。

涙が出そうになる。
もう満足。

「突然すいません。失礼ですが、私と踊ってくれませんか」

男は俺に手を伸ばした。
こんな事があってもいいのか。
いや、俺はこれを本当は願ってたのかもしれない。
届かないと思ってたのに、いつからか自分で届くように手を伸ばしてしまった。
俺を許して。
グラン。
大好き。

「はい、よ、よろこんで」

手を伸ばした瞬間、手を引かれ、いつの間にかグランの腕の中にいた。

「来てくれてありがとう、会いたかった。
 

「うぅ...俺、アレスじゃないよ、いいの?
 グランを支えてたのは俺じゃないよ?
 本当にいいの?」

「もちろんだ。何を言ってるんだ、君が私を変えたんだ。アレスには感謝している。
 私が好きなのはイチヤ、君だけだよ。」

その言葉一つ一つが嬉しくて、涙が溢れた。
腕を大きいグランの身体に巻き付いて、離れないと言わんばかりに泣きついた。
グランはそれを愛おしく見ていて、頭に軽いキスをした。

















___



「ちょっと、ソレ離してくんない?」

ルアーノが指を指したのは騎士に捕まっているジルだった。

「しかしルアーノ様、、」

「離せっていってんの」

「....分かりました。」

騎士が帰った後、ジルはルアーノの肩を抱いた。ジルはこれまでになく嬉しそうだった。

「ありがとう~ルアーノちゃん!」

「なに捕まってんの?」

「怒ってる所も可愛いね、好き」

「言葉が軽すぎる、信用できない」

「ルアーノだけだよ」

「嘘つき」

「本当だよ」

ジルはルアーノの隣で歩いていた。








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