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『センス』という名の感覚的な理解
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さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。以前、私は音痴だという話をしたことがありましたが、実は他にも苦手なことというか、感覚的によくわからないことがあります。それが、『絵』です。観るほうではなく、描くほうですよ。こういう線をこう繋げたら、こういう形になっていくとか、こういう形を描くときにどこから描いたらいいとか、たぶん絵を描くことが好きな人はこんな考え方はしないと思います。音痴の話もそうですが、上手い下手ではなくて、もっと根本的なことなんです。数学に置き換えると多少伝わりやすいでしょうか。数学とはなんぞやという仕組みがよくわからなくても、なんとなく数式は解けますよね。授業でこうするんだよ、と教えてもらえるからです。でも、それは既に出来上がったものに当てはめているだけで、私がゼロから生み出したわけではないですよね。定期試験は教科書のどこから問題が出るというのがわかりますが、大学受験なんかだと教科書のどこの問題なのかわからないから、どの公式を使って解くのかわからないという具合に、学習した順番をバラバラにされるだけでも難易度が格段に上がります。数学が好きな人は仕組みがわかっているので、この問題はこう解くというのがおそらく感覚的にわかるのだと思います。音楽や絵の話も同じで、人やものを描くときはこう描くんだよ、とその部分だけを教えてもらったところで、じゃあ続きは?となってしまうのが私なのです。スポーツもそうですね、よく擬音語でやり方を説明する人がいますね。あれはその人がその行動を感覚的に捉えている証拠です。そういう人にとっては『説明』という概念がそもそもないんですよね。もちろん、スポーツにしろ、音楽にしろ、絵にしろ、そうでない方のほうが多いのでしょう。感覚でわからないなら、論理的に、説明づけてわかろうとするしかありません。でも、それでも、最初の第一歩はきっと、『センス』という名の感覚的な理解だと思うのです。
前置きが長くなりましたが、何を言いたいかというと、私も自由自在に難しいことを一切考えずに絵を描いてみたいなという話です。中学校時代、美術の授業の最初の5分間はクロッキーといわれる時間でした。生徒の誰かひとりがモデルになって、それを他の生徒が鉛筆一本で描くだけなのですが、モデルも恥ずかしいし、絵も描けない私にはただただ苦痛な時間でした。クロッキーをしている時間より、ここに線を描いたらこういう形になるよねという予想と、それが外れたときの落胆の時間のほうがはるかに長かったと思います。ですから、せっかくの『速写』という名前も私の前では全く意味がありません。かといって、観る側、つまり絵画の鑑賞にも惹かれるものはなく、もしも大学時代に宗教画と出会っていなかったら、私の人生、一生美術館には縁のない生活だったことでしょう。
さて、私は物語を書くとき、大体は頭の中に思い描いた景色を文章に起こしていくのですが、これがそっくりそのまま絵として残せたら素敵だなと思うことが多々あります。でもね、私には絵ではなく文で表現できるセンスが多少なりともあるので、私は私なりの物語を紡いでいくことしかできません。そしてそれは、とっても幸せなことだとも思います。私の頭の中の景色は、私の文を通して、そしてあなたの解釈を介して、あなたの頭の中に、私と同じようで少し違う景色が新たに描かれるのです。私は私の物語をそっくりそのまま受け取って欲しいわけではないんですね。確かに私にも伝えたいことはあるし、それが滞りなく伝われば、これほど嬉しいことはありません。けれど、私たちは人間です。文や話の咀嚼には受け取る側の感情が必ず作用するし、人はそれぞれみんな違う人生を歩んでいますから、全く同じ景色になるなんて絶対にあり得ないのです。私は『私の物語』を、本という媒体を通して『あなたと私の物語』にしたいのです。物語という本を真ん中に、あなたと私が存在している。私の頭の中はそんなイメージです。物語そのものに、あなたも私も登場しないけれど、あなたと私がいれば紛れもなく『あなたと私の物語』になるのです。
皆さんにも、難しく考えなくてもなんとなくできることってありますか? そんなに大きなことじゃなくてもいいんです。私は大学時代、お化粧が苦手でした。だって、誰も教えてくれなかったから。お化粧の仕方も、お化粧の意味も、そして、お化粧の楽しさも。でも、社会人になって、仲良しの先輩に教えてもらったんです。こういう動画があるよとか、こうするともっと可愛くなるよとか。あぁ、そうだ。これがメイクの楽しさなんだ。これがメイクのやり方なんだ。これが『メイク』なんだ。そう感じたんですね。方法や知識、それに私の向き合い方。そういうもの全てを詰め合わせて、ようやくそのものの在り方に気づくんです。読書や絵画の鑑賞もそうです。小難しい言い回しがすんなり理解できたり、ちょっとした伏線に気がついたり、隠された小ネタを見つけたり、本当に純粋に楽しい面白いと感じたり。それが感覚的に理解できて初めて、これが『読書』だ、これが『鑑賞』だと腑に落ちるのです。私も今ではお化粧が楽しいです。顔が変わるというほどではないけれど、印象が明るくなる程度にはお化粧も上達したと思います。母親世代の諸先輩方に「お化粧上手だね」とか「眉毛、タトゥーなの? 上手に描くね」とかそんなことを言われると、やっぱり嬉しいものです。そう、先輩にやり方を教わって、動画をたくさん観て、それだけで特に何も考えずに上達したのは、楽しさを覚えたこととそれこそセンスがあったからが大きな理由かもしれません。お化粧といえば色遣いや、服装も含めた全体的なバランスも大事ですが、私はなぜか大学時代から「おしゃれだね」と言ってもらえることが格段に増えました。服全体の色や形、小物との兼ね合いなどがなんとなくできてしまったからでしょう。自分に似合うものがなんとなくわかったのもあります。身長が低いから、雑誌やテレビでよく見かけるようなコーディネートが軒並み真似できなかったということもあるかもしれません。アルバイト先に歳の近い男の子がいたのですが、お兄さんも同じところでアルバイトをしていたんですね。そのお兄さん曰く、弟くんはあまりバイト先の人の話はしないけれど、私のことは「おしゃれな人」と言っていたと聞いて、柄にもなく歓喜しました。何気ないことかもしれないけれど、その分野に興味がありそうな人あるいは興味がなさそうな人を、自分が刺激できたと思うと喜びは倍増ですよね。
そろそろお別れの時間です。『なんとなくできること』って、自分で普段意識することは、きっとほとんどないのだと思います。だからあなたがまだ気がついていないセンスが、あなたの頭の中に転がっているのかもしれません。それを見つけ出せた時、毎日がちょっとずつ楽しくなっていくはずです。皆さんがそんな素敵な『センス』といつの日か出会えますように。また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。
前置きが長くなりましたが、何を言いたいかというと、私も自由自在に難しいことを一切考えずに絵を描いてみたいなという話です。中学校時代、美術の授業の最初の5分間はクロッキーといわれる時間でした。生徒の誰かひとりがモデルになって、それを他の生徒が鉛筆一本で描くだけなのですが、モデルも恥ずかしいし、絵も描けない私にはただただ苦痛な時間でした。クロッキーをしている時間より、ここに線を描いたらこういう形になるよねという予想と、それが外れたときの落胆の時間のほうがはるかに長かったと思います。ですから、せっかくの『速写』という名前も私の前では全く意味がありません。かといって、観る側、つまり絵画の鑑賞にも惹かれるものはなく、もしも大学時代に宗教画と出会っていなかったら、私の人生、一生美術館には縁のない生活だったことでしょう。
さて、私は物語を書くとき、大体は頭の中に思い描いた景色を文章に起こしていくのですが、これがそっくりそのまま絵として残せたら素敵だなと思うことが多々あります。でもね、私には絵ではなく文で表現できるセンスが多少なりともあるので、私は私なりの物語を紡いでいくことしかできません。そしてそれは、とっても幸せなことだとも思います。私の頭の中の景色は、私の文を通して、そしてあなたの解釈を介して、あなたの頭の中に、私と同じようで少し違う景色が新たに描かれるのです。私は私の物語をそっくりそのまま受け取って欲しいわけではないんですね。確かに私にも伝えたいことはあるし、それが滞りなく伝われば、これほど嬉しいことはありません。けれど、私たちは人間です。文や話の咀嚼には受け取る側の感情が必ず作用するし、人はそれぞれみんな違う人生を歩んでいますから、全く同じ景色になるなんて絶対にあり得ないのです。私は『私の物語』を、本という媒体を通して『あなたと私の物語』にしたいのです。物語という本を真ん中に、あなたと私が存在している。私の頭の中はそんなイメージです。物語そのものに、あなたも私も登場しないけれど、あなたと私がいれば紛れもなく『あなたと私の物語』になるのです。
皆さんにも、難しく考えなくてもなんとなくできることってありますか? そんなに大きなことじゃなくてもいいんです。私は大学時代、お化粧が苦手でした。だって、誰も教えてくれなかったから。お化粧の仕方も、お化粧の意味も、そして、お化粧の楽しさも。でも、社会人になって、仲良しの先輩に教えてもらったんです。こういう動画があるよとか、こうするともっと可愛くなるよとか。あぁ、そうだ。これがメイクの楽しさなんだ。これがメイクのやり方なんだ。これが『メイク』なんだ。そう感じたんですね。方法や知識、それに私の向き合い方。そういうもの全てを詰め合わせて、ようやくそのものの在り方に気づくんです。読書や絵画の鑑賞もそうです。小難しい言い回しがすんなり理解できたり、ちょっとした伏線に気がついたり、隠された小ネタを見つけたり、本当に純粋に楽しい面白いと感じたり。それが感覚的に理解できて初めて、これが『読書』だ、これが『鑑賞』だと腑に落ちるのです。私も今ではお化粧が楽しいです。顔が変わるというほどではないけれど、印象が明るくなる程度にはお化粧も上達したと思います。母親世代の諸先輩方に「お化粧上手だね」とか「眉毛、タトゥーなの? 上手に描くね」とかそんなことを言われると、やっぱり嬉しいものです。そう、先輩にやり方を教わって、動画をたくさん観て、それだけで特に何も考えずに上達したのは、楽しさを覚えたこととそれこそセンスがあったからが大きな理由かもしれません。お化粧といえば色遣いや、服装も含めた全体的なバランスも大事ですが、私はなぜか大学時代から「おしゃれだね」と言ってもらえることが格段に増えました。服全体の色や形、小物との兼ね合いなどがなんとなくできてしまったからでしょう。自分に似合うものがなんとなくわかったのもあります。身長が低いから、雑誌やテレビでよく見かけるようなコーディネートが軒並み真似できなかったということもあるかもしれません。アルバイト先に歳の近い男の子がいたのですが、お兄さんも同じところでアルバイトをしていたんですね。そのお兄さん曰く、弟くんはあまりバイト先の人の話はしないけれど、私のことは「おしゃれな人」と言っていたと聞いて、柄にもなく歓喜しました。何気ないことかもしれないけれど、その分野に興味がありそうな人あるいは興味がなさそうな人を、自分が刺激できたと思うと喜びは倍増ですよね。
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