深見小夜子のいかがお過ごしですか?

花柳 都子

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ソフトボール投げの記録18m

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。今も存在するのかわかりませんが、私が学生時代にはスポーツテストというものがありました。短距離走にシャトルラン、幅跳び、握力、ボール投げ。大好きだったという方はおそらく少ないと思いますが、ご多分に洩れず私も大の苦手でした。特にシャトルラン。不思議ですよね。シャトルランなんて言葉はこのスポーツテストの時にしか聞かないのに、知らない人が誰もいない。それだけ多くの人にトラウマを植え付けているのでしょう。私の母校が特殊だったのかわかりませんが、なぜかシャトルランか1キロの持久走かを選べた記憶があります。そして、誰によるものか、せっかくならどっちもやろうなどという傍迷惑な、もとい積極的な提案を受け、結局選ぶ権利などなかったように思います。もし選べたとして、どっちもどっちですが、私は持久走を選んだことでしょう。なぜなら、ゴールが見えるから。シャトルランって、自分がやめようと思わなければ、永遠に続くじゃないですか。クラスの誰かが頑張れば頑張るほど、シャトルランに縛られる時間も長くなります。私は早く嫌なことから解放されたい主義なので、嫌いな食べ物も最初に片付けてしまうし、何かを発表しなければならないなら真っ先に手を挙げて終わらせてしまいます。
 だから私は、陸上競技全般が苦手なのかもしれません。『走る』ってゴールが見えませんよね。球技が得意な私は、ある時なぜ得意なのか考えてみたことがあります。結論から言えばおそらく、ボールという名のゴールが見えるから、でしょう。人と何かを争うことが苦手なのもあるかもしれません。負けず嫌いな性格にも関わらず、陸上競技に関しては自分の能力が追いつかないから好まないのだと思います。私が小学生の頃、確かスポーツテストがきっかけだったはずですが、ボール投げという種目がありました。ソフトボールみたいな少し大きめのボールをどれだけ遠くまで飛ばせるか、というようなテストで、私の記録は小学6年生にして18メートル。私としてはそれほどすごいという印象はないのですが、他の女の子たちを見ていると、よもや男子の中にも、数メートルの地点でボトッと落ちる子がいました。むしろそっちのほうが多いくらいで。だからかもしれませんが、町の陸上競技大会の代表に選ばれてしまったんですよね。後にも先にもスポーツの記録に注目されたのはこの時の一回だけです。
 とはいえ、上には上がいるもので、町の大会での成績は下から数えたほうが早かったでしょう。あくまで私は同じ小学校の同じ学年に私ともう一人の子以上に飛ばせる子がいなかったというだけで選ばれたのです。他の学校は児童数も多かったでしょうし、競争を勝ち抜いてきた歴戦の猛者たちだったかもしれません。それは大げさにしても、結局、私の大会の思い出は、ぷにぷにの腕丸出し、ぷくぷくの脚丸出しのユニフォームを着て恥ずかしかったことと、陸上競技に出場するための練習でなぜか走る競技じゃないのにウォームアップとして走らされて辛かったことの2つしかありません。友達たちと写真を撮ったり、競技場の雰囲気を味わったりと、普段の学校ではできない楽しい思い出ももちろんありますが、せっかくいい成績を残せて嬉しかったのに、なんだか嫌な記憶で塗り潰されてしまったみたいで、損した気分になります。
 とはいえ、ちょっとした修学旅行気分でもあったのは確かです。修学旅行といえば、皆さんはどこだったでしょう? 私は中学高校ともに関西でした。京都で名所を巡り、大阪で食い倒れ、そしてテーマパークではしゃぐ。お決まりのルートですね。さて、ここでまたもや私の苦手なことの話をしましょう。私はね、ジェットコースターが苦手なんです。高所恐怖症なのが大きい理由の一つですが、あのふわぁっと浮く感覚がどうにも好きになれなくて。それでいうとエレベーターも苦手です。あまりにも高層階でないなら、エスカレーターか階段を使います。大学時代の寮も2階の部屋だったのは幸運でした。高校の修学旅行、私以外の友達はみんなジェットコースターが平気な子たちで、当然のように一緒に乗る流れになりました。途中で出会ったキャラクターとの写真、私だけは顔が引き攣っていたことでしょう。ともあれ、無事になんとか地上に降り立った私でしたが、数年後またしても同じアトラクションに乗ることになろうとは夢にも思いませんでした。社会人になって3年ほど経った頃でしょうか。今でも仲の良い会社の先輩と同じテーマパークに行ったんです。気兼ねなく接することができる数少ない方で、テンションは最高潮でした。最初に乗ったアトラクションは、まずパークに入ってすぐに目に入ったところ。荷物を預けてください、と言われたところでピンと来るべきでした。何を隠そう、室内を走り回るジェットコースターだったんです。行く先は常に闇で、レールが見えない。もう怖いの何の。向かい側に座ったカップルの声をかき消すように叫んだ私は、さぞ2人のいいムードをぶち壊しにしたことでしょう。覚悟をせずに乗ったからかもしれませんが、あの時の恐怖はいまだに忘れられません。その後、前置きしたように高校の修学旅行と同じアトラクションにも乗りましたが、むしろそっちのほうが平気でした。慣れたというよりは、行く先が見えたからです。外のアトラクションでしたから、たとえパークいちのスリルを誇るジェットコースターでも、室内の暗闇をひた走るより先が見えるだけ私にはまだマシだったのです。
 当時は能天気に「こわーい」なんて言って笑っていましたが、その後の私はこれから先の見えない未来に悩まされることとなります。ゴールが見えないというのはそれこそ怖いものです。エレベーターが苦手だとお話しましたが、それは落ちるというイメージがどうしても拭えないからです。もちろん落ちないことはわかっていますし、そんな経験があるわけでもないのですが、複数の人を乗せたあの箱が空中で留まるという現象が信じられないんですよね。落ちる、というのは人生の中でもよく感じる恐怖です。自分の人生、いつどん底に落ちる日が来るかと考えると気が気ではありません。ですから、今の私は意識してゴールや目標を設けるようにしています。ここまではこれをすればいい、この日までは私は私でいられる。そんなふうに自我を保ちながら、毎日を過ごしています。
 さて、そろそろお別れの時間です。皆さんは苦手なこと、苦手なもの、ありますか? どうして苦手なのか考えてみたことはありますか? 極端かもしれませんが、そのきっかけや理由を人生に置き換えてみると、少しだけ違った景色が見えるかもしれません。もしよかったら試してみてくださいね。また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。



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