転生悪役令嬢は悪魔王子をスルーしてカフェオーナーになりたい

和気 藹

文字の大きさ
38 / 43
領都フルネンディク

37 レイ兄様の!

しおりを挟む
 バルトレイ兄様(レイ兄様)は、ウチの嫡男で私と同じ色と顔をしています。
 御年二十二歳、独身、婚約者ありですが、母様譲りのブルネットとお父様タヌキ譲りのビリジアンの瞳で目尻が上がり気味なところなどが一緒で並ぶと親子と間違えられる程です。
 基本下の子達には厳しく時には優しく、(間違えてないですよ。逆なんですよこの人)出る杭は打つ性分です。はい、イジワルです。そのイジワルは後になってみると理由があったりするのですが、イジワルしてくる時の片方だけ口角を上げた顔は恐怖だったりします。

 それとですね……

 領館に着いて、玄関にお迎えに上がった時、なでるふりしてセットした髪をぐちゃぐちゃにされるという洗礼をノート兄様と受けた後。
「あとで報告を聞こうか」と小声でささやき、頭を撫でながら屈んで目を合わせニヤッと笑ったレイ兄様の顔は見慣れた意地悪顔でした。
「な、何のことでしょう?」
「いろいろと、ね。二人とも毎日楽しそうでよかったよ」
 手袋をしながら頭をなでるので、髪にみるみる静電気が……私「ダーリン! 電撃だっちゃ! 女」なんだからやめてほしい。
「アンネはすごいねー、みるみる頭が大きくなるよ」
 抱きついて頭ぐりぐりして電撃お見舞いするぞ、コラ。
「お父様には許可をもらっているはずですが」
「うん、お父様にはね」
「レイ兄様にお話ししなかったから寂しかったとか?」
「んな訳ない」
「えー(♭半音下がる)じゃあ、何でですか?」
「コーヒーの方にちょっと……ね」
「というか安直に王家からいただく苗のことでコーヒーに大問題が発生しそうですが」
「……後で詳しく話してもらおうかな」
「はい」
「ノルベルト!」私の頭に手を置いたままノート兄様に顔を向けるレイ兄様。

 ”今よ! こずえ!” 
 頭の中を木立のユニフォームを着たお嬢様の声がします。
 すこしかがんで、レイ兄様の手から頭を離し、レイ兄様の顔に向かって両手を伸ばしてジャンプ!
「稲妻落とし!」ってそれ違う、サーブやで、それ。しかもドラマやし!

 心の中のツッコミはスキを生む。気が付いたレイ兄様にアイアンクローを決められました。

「痛い! 痛い! 可愛い妹に何するんですか!」
「ほぉ、無垢な子供だと? 笑わせる」
「違ぅ! 可愛いの!」
「自分で言うか」

 子供のような言い合いを始める私達を眺めながら、溜息をつくノート兄様。
「二人ともいい加減にしてください。似た者同士のじゃれ合いなんだから」
「「えー(♭半音下がる)」」
「ほら、息もぴったり」
「「えー(♭半音下がる)」」

 そう、レイ兄様は家族限定全方向負けず嫌いなので、下の弟妹(大体下から数えた私とノート兄様)は巻き込まれるのです。
「そうですわね! オトナのレイ兄様より私がオトナになって引いてあげますわ!」
 解放されたオデコをなでながら言い返すと、悲しそうな顔をして言い返してきます。
「口の減らない妹だね。昔はかわいかったのに……」
「私はまだ八歳です!」

「おふたりとも、いい加減になさいませ。応接室にお茶の用意がしてありますから、そちらに。旦那様は執務室に。ご報告がございます」
 ディーデリックの有無を言わせぬ仲裁が入り兄妹のじゃれあいは終わりました。




 応接室に移動して、ホットラテとカップケーキをいただきながら、レイ兄様に財務諸表について散々質問を受け、奥ファジャの湯の花販売の回収見通しを聞かれ、まだ試作段階のはずの蒸留窯について聞かれ二人で冷汗をかきながら説明をさせられました。レイ兄様の情報網侮りがたし。

「で、コーヒーの問題って?」
「確認したいのですが、王家から下賜される木の苗。それは何の苗ですか?」
「カカオだよ。国は一次加工したそれを専売制にしたいらしい」
 ああ、やっぱり。前世と名前が一緒で助かるわ。しかし、悪魔殿下おそるべし。
「種子を取り出す作業工程がコーヒーと似ているから、うちに白羽の矢が立ったわけですか。まぁ、専売制にして買取価格の変動がないのは助かりますが」
「…………で、大問題って?」
「それは、ノート兄様がご説明します」
「…………そう……」
 レイ兄様、意外そうな顔をするのやめなさい!  ノート兄様だってちゃんと勉強しているんだからね! 失礼だよ!
 私の不服そうな顔に苦笑しながらノート兄様が説明を始めます。
「レイ兄様、同じ山脈を挟んだ我が領と隣国で似た植生環境を必要とする樹木なのに、こちらはコーヒーで向うはカカオが植生できたのは何でだと思いますか?」
「気候が違うから?」
「違います、生育できる地質が違うのです。コーヒーは中性、カカオは弱アルカリ性の土を好むのです。カカオを育てるのであれば、我が領に真逆の地質が必要になるわけです」
「中性と弱アルカリ性ってなんだ?」
「うーん、簡単に説明すると、酸っぱい味のするものが酸性、苦い味のするものがアルカリ性、中間のものを中性と呼びます」
「土を食べるのかい?」
「いえ、所説ありますが弱酸性の土地に植生する作物が酸性であることが多く、アルカリ性の土地に植生する作物が弱アルカリ性であることが多いので食べてみると解ります」
「ということは、大規模な地質調査と地質改良が必要になる、ということか」
「はい。相手は生き物ですから、それなりの準備が必要です」
「その、地質をアルカリ性にする為にはどうすればいい?」
 ノート兄様がにっこり笑う。あっ部屋の温度が低くなった。
「わかりません」
「は、調査は?」
「していませんし、では出来ません」
「はぁー。コーヒーの作付け面積を減らすだけでは駄目、ということか。それは大問題だな」
「はい。それとカカオ育成にあたり、コーヒーと同じようにシェードツリーの植樹が必要なので、最初に育成を開始できるのは、用意できる土地の三分の二になります。その規模で隣国の農業技術者を呼んでも資金の無駄かと……」
「そこまで……このことを、誰かに報告したか?」
「イザークには全て報告していますので、お父様にはそちらから報告していると思います」
 ノート兄様と私を交互に見て、ため息をつくレイ兄様。
「…………君たち、何考えている?」
「いいえ、何も? アンネはここから動けませんし」
「調査に行きたいなんて考えていませんよ。動けませんし」
 二人でにっこりと笑う。

 さて、上(お父様)はどう動くでしょう?


◇◆◇◆◇◆◇◆


 弱酸性の土地に弱酸性の作物ってところは、
 地球上では植物は弱アルカリ性の土壌を好みます。
 異世界でのイオンの考え方を分かりやすく伝えるために、こういう書き方をしてみました。
 HAHAHAHA! クレイジー! なに言ってんの?! とご笑納くださいますようお願い申し上げます。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...