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恋
003・・・紫雨
しおりを挟む庭先に咲く紫陽花の紫色を細かい雨が濃くしてゆく。
傘をさして待ち合わせ場所へ向かう足取りが重いのは、三日降り続く雨のせいだけではない。
きっちり1円単位まで割り勘にしてくるのだから、勘違いだろう。
好きな人がいることを伝えても誘ってくるのだから、自惚れ過ぎだろう。
それでも二人で会うと心苦しくなるから、なるべく婉曲な誘いを断る理由と言葉を探している。
『観たい映画が一緒だったから』と言い訳しながら雨粒を目で追っていると、遅れてきた彼が引き抜いた傘袋へ無造作に傘を押し込んだ。
袋の中で不格好になっている傘が気にかかり、「貸して」と思わず伸びた手で綺麗に入れ直す。
「ありがとう。いつに無く優しいね」と向けられた嬉しそうな視線に困惑し、瞼を伏せながら傘を返した。
こんな些細なことで喜ばれるほど素っ気なく振る舞ってきた愚かさと、心が傾いたと思い違いされる不安が入り乱れ、彼の背中の少し後ろで悔恨にさいなまれている。
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